第6章:影群(えいぐん)の侵入 ― 迫りくる異形と“黒翼の解放”
外の闇がざわめいていた。
木々が揺れる音でもない。
風でもない。
何かが移動する質量のある音――いや、“数”の音。
影群 が来ている。
沙耶が震える声で呟く。
「連……影が、ざわついてる。
“彼”が……何かを訴えてるみたい」
「彼?」
「あなたの影に潜む……烏よ」
連は息を呑んだ。
影が勝手に動いたあの時――
自分が動かしたのではなく、
連の影の中に“烏”が溶け込んでいたということだ。
つまり連は、一人で戦っていたわけじゃない。
烏は死んでいない。
連の影として“再び生きている”。
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■影群の出現
ガラス窓の外――
黒い染みのようなものが、じわりと地面から盛り上がった。
一つ。
二つ。
三十、四十……いや、もっと。
影が、影を呼ぶように増殖していく。
やがて影は“形”を持ち始めた。
頭にあたる部分だけが異様に膨らみ、
手足はタールのように伸び縮みする。
“影の群れ(えいぐん)”が連の家を囲んでいた。
「連……! 逃げないと!」
「いや、沙耶を置いて逃げられるかよ」
その瞬間、
足元から“黒い手”が伸びた。
「っ……!」
連は反射的に後退するが、
床に落ちた自分の影が“別の影”に牙を剥いた。
連の影が浮き上がり、実体化する。
黒い手の根元を掴み、床に叩きつけた。
「……烏、なのか?」
影は返事をしない。
ただ――
まるで連を守るように立ち位置を変えていく。
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■“影に宿る烏”の意思
沙耶が連の背中に手を置いた。
「連……今、烏が言ってる。
“力を解放しろ”って」
「解放……?」
「あなたの中の黒翼は、まだ半分眠ってる。
でも今外にいる影群は、完全な黒翼を持つ“王”の力を求めて集まってきてる。
烏は……あなたを1人で戦わせる気なんかない。
本当は……“一緒に”戦いたいの」
影が揺れ、連の影と重なるように滲み始める。
心臓が震える。
鼓動が増幅する。
背中の紋が熱を帯びる。
すると突然――
外の影群が一斉に叫んだ。
「――王ノ影……! 開ケェェェェ!!」
家の周囲の影が裂けて、外が暗黒に変わる。
まるで世界が“影の領域”へ飲み込まれるような錯覚。
「沙耶、離れてろッ!」
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■黒翼の“解放”
連の背中が焼けるように熱を持ち、
黒い紋が、羽のように広がり始めた。
骨がきしむ。
皮膚が裂ける。
だが前回と違う。
痛みの奥に、烏の声があった。
『痛むか、人間よ。
だが――その痛みこそが“黒翼”の証だ』
「烏……!」
『我が影は、お前に在る。
今度こそ守れ。
前世の妻も――
今、目の前の“沙耶”も』
連は叫び声を上げながら、闇の力に身体を委ねた。
次の瞬間――
黒い翼が爆発するように広がった。
壁の向こうまで風圧が突き抜け、
影群が吹き飛ばされる。
羽の形をしているが、実体は半分“影”。
黒い光を吸収し、闇を斬り裂く力。
連の影は、完全に烏の姿へ変わり、
連の背中の黒翼と重なり合うように揺らめいた。
「連……あなた……」
「沙耶。俺はもう逃げない。
この力が呪いだろうと何だろうと……
沙耶を守るためなら、黒翼を使う」
影群が再び襲いかかる。
連は黒翼を大きく広げ――
闇を切り裂くように前へ踏み出した。
「来いよ……全部まとめて倒してやる!」
その一歩は、完全に“人間”のそれではなかった。
黒翼の後継者としての覚醒の第一歩だった。




