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第3章:影の訪問者 ― 力が呼び寄せた“最初の異形”



 その夜、家の空気には“何か”が満ちていた。


 事故から数日。

 海に沈んだはずの 沙耶 は無傷で先に目を覚まし、

 逆に俺―― 連 が彼女に呼び起こされていた。


 あの時の光景は今も脳裏に焼き付いている。

 白い光。

 背中を裂くような痛み。

 水中で自分が“別の何か”へと変わる感覚。

 そして――沙耶を抱え、闇の海から浮上した。


 医者は「奇跡的な生還」と言ったが、奇跡と言うには無理があった。

 俺の背中には、最近になって 黒い筋 が浮かび上がってきたのだ。

 まるで折りたたまれた翼の根元のような――そんな痕が。


 だがその夜、さらに理解不能なことが起きた。



---


■“影”がやってきた


 リビングでまどろんでいると、窓の外に気配を感じた。


 ……いる。


 街灯の明かりに溶けるように立つ“影”。


 人の形をしているのに、輪郭が揺れ、

 黒い霧がまとわりつくような存在。


 呼吸が止まった。


 音もなく、影がこちらに顔を向ける。


「連……」


 突然、後ろから声をかけられ心臓が跳ねる。

 寝室から出てきたのは沙耶だった。


 その表情は怯えではなく――覚悟。


「連……“来た”みたい」


 “来た”。

 まるで知っているような口ぶり。


「沙耶、お前……あれが何か知ってるのか?」


 沙耶は小さく震えながらも、目を逸らさず影を見つめた。


「あなたが……あの夜“力”を使ったから。

 その力を求めて、ああいうものが寄ってくるの」


「ちょっと待て、力って……俺はただ沙耶を――」


「違うわ、連。あなたは一度……変わったの」


 沙耶の瞳が揺れる。


「本当に、人間のまま戻ってきたと思ってるの?」


 その言葉に返事をする前に、


 窓の外の影が動いた。


 擦りガラス越しに黒い“手”が伸びる。

 だがガラスは開いていない――

 それなのに指先が、空間を掘り破るように侵入してくる。


 黒い霧が室内に流れ込む。


 耳元で囁きが響いた。


「――黒翼ヲ……返セ」


 背中が焼けるように痛む。

 皮膚の奥で何かが蠢き、目覚めようとしている。


 影は連を見つめ、ひざまずくように姿勢を変えた。


「堕チタ王ノ……後継……」


「後継だと? 俺はそんな――」


 言葉を遮るように、影の輪郭が崩れ、

 黒煙でできた“獣”へと変貌した。


 皺のような裂け目が口となり、

 鋭い牙の影を剥き出して連に飛びかかる。


「連っ!!」


 沙耶の叫びと同時に、背中の黒い筋が裂けるように広がった。


 皮膚が破れ、血のような光が迸り――


 黒い翼の“片鱗”が、連の背中で震えた。


 異形が迫る。

 痛みと怒りと、何か古代の記憶のような衝動が連を満たす。


 ――俺は一体、何者なんだ。



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