第1章 死と契約 ― Black Feather, Black Fate ―
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第1章 死と契約 ― Black Feather, Black Fate ―
夜の海沿いを走る車の中。
助手席で微笑む妻の横顔を見ながら、俺はふと思った。
――ああ、俺にはこの幸せだけで十分だ。
そんな、ごく普通の帰り道だった。
だがその“普通”は、
一秒後には永遠に失われる。
■落下
「蓮、前――!」
妻の叫びが遅れて耳に届く。
視界の端から、制御を失った大型トラックが突っ込んできた。
金属音。衝撃。
ハンドルは手の中で暴れ、車体は横転した。
次の瞬間、
ガードレールを突き破り――俺たちは海へ落ちた。
冷たい海水が一気に車内へ侵入し、
妻の手が必死に俺の腕を掴む。
「いやだ……蓮! 行かないで!!」
届くはずの手が、届かない。
水が肺に入り、視界が暗く染まる。
ああ……俺はここで死ぬのか。
だけど――
■願い
たったひとつ、
最期に浮かんだ願いがあった。
“妻だけは、生かしてくれ。”
俺はいらない。俺の命なんか、くれてやる。
だけど妻だけは――!!
その瞬間。
世界が凍った。
■闇の声
どこからともなく、声が降り注ぐ。
> 「……見上げた願いだ、人間。」
「その想いを、我は久しく忘れていた。」
真っ暗な水中が、ありえないほど静寂に包まれる。
音もなく、死の気配だけが漂う空間で――
“何か”が俺の意識に触れた。
黒。
深淵。
翼の形をした影。
> 「我は白翼の神であった。」
「だが人間に愛した者を奪われ、怒りに堕ちた。」
「白き翼は黒く染まり……我は漆黒となった。」
声は続ける。
> 「名を与えよ、人間。」
「我を再び“呼び起こす”名を。」
名……
黒い翼……黒い姿……
死ぬ間際なのに、なぜか頭に浮かんだ。
――カラス。
「……お前の名は、烏だ。」
闇が震えた。
> 「よし。契約は成された。」
「お前の命と引き換えに、力をやろう。」
死の中で、俺の胸に黒い何かが“落ちてきた”。
心臓を掴む冷たい感触。
背中に広がる灼熱。
視界の裏側で、黒い羽根が舞う。
> 「行け。妻を救え。」
「人間よ……黒き翼の英雄となれ。」
■黒翼の誕生
意識が戻った瞬間、
俺の背中から黒い霧が噴き出し――
空気を切り裂くように“羽根”が広がった。
激痛でも恐怖でもない。
――これは、力だ。
冷たく、鋭い、闇の力。
そして、水中から妻を抱き寄せた時、
俺は完全に理解した。
俺は一度死んだ。
だが“黒き何か”として蘇った。
妻を守るために。
世界を裏切るために。
黒い翼を背負った“何者かが…。




