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ep 2 導き手との出会い

 それは、鳥のようでいて、鳥ではではなかった。

 体長は小学生のランドセルくらい。全身を覆う毛は艶やかな赤で、光の加減で血のようにも見えた。そして半透明。

 目は大きく、瞳孔は縦長で琥珀色。じっとこちらを見ている。


 けれど、不思議と怖くはなかった。むしろ、懐かしいような安心感さえあった。


「……ここ、どこなんだ?」


 問いかけたのは独り言のつもりだったが、赤い生き物はピクッと耳を動かし、口を開いた。


「彼方ノ郷へようこそ」


 声は、まるで脳内に直接響くような、不思議な響きだった。


「……お前、喋れるのか?」


「喋れるよ。ただ、言葉を選ぶのは難しい。この世界の言葉は、まだあなたの中に根を張っていないから」


 言っている意味はよく分からなかった。ただ、今の自分にはそれを追及する気力も、現実を疑う余裕もなかった。


 生きてる実感がなかったはずの胸が、ほんの少しだけ、ざわついていた。


「名前は?」


「あなたの?」


「……いや、お前の」


 赤い生物は少しだけ首を傾げ、それから小さく笑ったように見えた。


「僕の名前は、フォア。あなたの“導き手”だよ」


「導き手……?」


「この世界に迷い込んだ者は、皆、選ばれし“彷徨者(さまよいびと)”。彼方ノ郷は、彷徨者だけが辿り着ける場所」


 フォアの言葉はどこか物語じみていて、現実味がなかった。それでも、自分の足が草を踏む感触や、風が髪を揺らす感覚は、間違いなく“本物”だった。


「戻れるのか? 元の世界に」


 そう尋ねると、フォアは少しだけ目を細め、空を見上げた。


「それはあなた次第。でも、まずは知ってほしい。この世界が“あなたの欠けたもの”を映す鏡であることを」


「欠けた……?」


 フォアは振り向き、しっぽを軽く揺らした。


「さあ、行こう。彼方ノ郷の“心の扉”が開いているうちに」


 赤い空に二つの太陽が沈みかけ、あたりは薄紅の闇に染まり始めていた。


 そして、俺はその不可思議な生き物のあとを、ただ黙って追いかけた。


 まだ知らなかった。

 この旅が、自分自身の“喪失”を辿るものになることを——

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