9 糖度2&塩分濃度6(ほとんど甘くはなく、ちょっぴり涙の味がします)
それから数か月後。
やはりキスイベントを起こさなかったためか、ディラン様と主人公が必要以上に親しくしている様子が見られないまま、3章のハプニングキスイベント、学院フェスティバルが近づいてきた。
(まぁ、2章でキスイベントを起こすのは3周目くらいじゃないとキツイしね)
このゲームはクリアする度にアイテムと主人公の育成レベルが引き継げる。だから、普通にプレイしていたら、1周目の2章でキスイベントを起こすのはほぼ不可能なくらいの難易度が高いのだ。
だから大抵、この3章のハプニングキスを狙うのだ。
学院フェスティバルでは、私たちのクラスは演劇を披露することに決まる。演目は『ロミエ アンド ジュリエッタ』。
やはり見せ場はバルコニーでのシーンだ!!
『ああ、ロミエ様、どうしてあなたはロミエなの?』というジュリエッタのセリフと『名前など、恋の翼でいかようにも飛び込えましょう』というロミエのセリフがとてもいいのだ!!
もちろんディラン様はロミエだが、なんとジュリエッタは私ことライバル令嬢のキャメロンなのだ。
だが!! キャメロンは乗馬の時間に馬から落ちるハプニングが起こり足を捻挫してしまうのだ!!そこで変わりに主人公ナターシャがジュリエッタ役を演じることになる。
なのでお察しの通り、ハプニングキスが起こるのは舞台だ。
正直、馬から落ちるのは怖い。体調不良で休むことにして辞退するのが建設的かもしれない。
「どうしたの?」
私はディラン様と中庭のガゼボで昼食をご一緒していた。
どうやら私は考え込んでいたようでディラン様に顔を覗き込まれた。
「いえ。もうすぐ学院フェスティバルですね」
ディラン様が少し困った顔で微笑んだ。
「そうだね……。きっと今年も私たちのクラスは劇になるのだろうな~」
ディラン様が劇に出るとなると一気にお客さんは増える。だから、ディラン様は毎年何かしらの劇に出演されているのだ。
「仕方ありません!! ディラン様はお美しいですから!! 学生のうちにご尊顔を目に焼き付けておかなければ、見ることもかなわなくなるお方なのです!! 私だって、ディラン様の普段と違ったお姿を見られる劇は大変、それはもう大変貴重ですし楽しみにしていおります!!」
だから出来れば、劇には出られなくなっても、ディラン様の出演する劇は見たいのだ。
「そ、そうか……。うん。キャメロンにそう言われたら……頑張ろうかな……それに僕の相手役は君しかいないし……それに僕も普段とは違う君が見たいから」
これも毎年のことだった。将来の王と王妃の劇ということで、私はいつも無条件にディラン様の相手役を務めさせて頂いていた。
「ふふふ。頑張りましょうね」
「ああ、キャメロン手出して?」
ディラン様が言われて手を差し出すと、テーブルの上でディラン様は私の手に指を絡めてきた。最近ではこの指を絡めるという行為にも少しだけ慣れてきた。1日1回はしているので、慣らされてしまったという方が正しいのだろうか。
そして私たちはおでこがくっつくぐらい近づいて笑い合ったのだった。
その次の日に、私のクラスの学院フェスティバルでの出し物が決まった。
やはり、出し物は劇。そして、演目は『ロミエ アンド ジュリエッタ』だった。
+++++
私は馬から落ちることを恐れて、乗馬の授業は休んでしまったが、運命とは残酷だった。
私は階段を上っていたら一段踏み外して足を滑らせ、結局足を捻ってしまい、舞台に立てなくなってしまったのだ。
かなり酷く腫れてしまったので、お医者様からしばらく自宅で安静にするようにと言われた私は、お見舞いに来てくれたディラン様の口から私の代役がナターシャ様に決まったことを聞いたのだった。
(ああ。これで、キスイベントが起これば、ディラン様もナターシャ様に恋に落ちるのね)
私は覚悟していたはずだったのに、やっぱり悲しくて自宅のベットの中で夜中にこっそり涙を流したのだった。