11 糖度2(ほとんど甘さはありません)
ようやく足が治って、リハビリも終わり普段通りの生活をしていると、最後のハプニングキスイベントの3章のハイキングが近づいてきた。
このハプニングキスイベントはゲームで見たときはかなり胸がキュンキュンしたが、実際にこのキスを体験するシチュエーションに愛するディラン様を巻き込みたくはなかった。
ーー……そのシチュエーションとは?
ハイキングで森を歩いていた主人公は傷ついたタヌキを見つける。
優しい主人公は傷ついたタヌキに自分のハンカチを巻いてあげる。
タヌキはそれで森に帰るが、主人公はみんなとはぐれてしまう。
その時、主人公の元に駆けつけるのがディラン様だ。
だが、みんなの所に戻る前に大雨に降られてしまう。
2人は突然の雨に大木の下で雨宿りをすることになった。
服が濡れてしまって、「くしゅん」とくしゃみをする主人公にディラン様は自分の上着をかけてあげる。だがディラン様もとても寒そうだ。
それで主人公はディラン様の背中に抱きついて「これなら寒くないでしょ?」と昔のように無邪気に言う。
雨が上がったタイミングで、ディラン様から離れようとして、足を滑らせた主人公をディラン様が助けようとして柔らかい草の上に押し倒してしまって、そのままハプニングキスイベントとなる。
どうしても大きな声で言いたい!!
ディラン様に雨に濡れて寒い思いをしてほしくない!!
……以上です。
本当はもっと言いたいですよ?
ディラン様が主人公に雨上がりの濡れてる土の上に押し倒されて痛い思いをしないか、濡れたり汚れてたりしないのか、タヌキのケガは大丈夫だったのか、とか!!
でも、一番言いたいのはこれです。
『雨に濡れて風邪を引いてほしくない』
さらになんと!!
私は普段の生活は問題なく過ごせるようになったが、ハイキングの許可は降りなかったのだ!!
つまり、私は一緒にハイキングには行けないのだ。
ゲームではフェスティバルもハイキングも全くライバル令嬢が姿を見せずにすんなり2人きりになれていたが、なるほどこういう事情があったのかと、またしてもゲームの裏設定を知ってしまった。
ハイキングでは湖のほとりのおしゃれな洋館に宿泊する。そこに1泊するので、ディラン様と主人公はそこでぐっと仲を深めるのだろう。
「私も行きたかったな~」
「どこに行きたかったの?」
「ディラン様?!」
「ふふふ。やっと気づいた。キャメロンは勉強してると本当に集中してるよね。えらいな」
私は今、テラスで教科書を開いていたので、ディラン様には勉強しているように見えたのかもしれない。実際は、ハイキングのことを考えていただけなのだが……。
「申し訳ございません」
「いいよ。ところで、どこに行きたかったの?」
ディラン様は席に座ると、紅茶を頼んでいたようで席に2人分の紅茶が置かれた。
「私にまでありがとうございます。実は、お医者様からハイキング参加の許可が貰えなかったので、行きたかったな~と」
ディラン様が困った顔をして、そして子供をなだめるように優しく話を始めた。
「確かにハイキングの許可が降りなかったのは残念だけど、今回は湖の畔から2人で、ゆっくり自然観察しよう?」
「え? 私も湖には行けるのですか?」
私が驚くとディラン様は困った顔をした。
「当日は僕と一緒に馬車で湖に向かう予定だよ。
君の足のこともあるし、今回、私たちはみんなとのオリエンテーリングや野鳥観察だけ参加して後は、王家の持っている洋館に滞在してゆっくり過ごす予定だよ?
聞いてなかった? おかしいな侯爵が説明してくれるっていうからお任せしたんだけど……」
「そう言えば、お父様と最近お会いしておりません」
「そうか……じゃあ、君に説明する時間がなかったのか。まぁ、さっき説明した通りなんだけどどうかな?
馬車に乗る時間がちょっとあるけど、君の主治医は馬車での移動なら問題ないって言っていたしね」
ディラン様に顔を覗き込まれ、私は思わずじっとディラン様の顔を見つめてしまった。
「では、私もディラン様と一緒にハイキングに行けるのですか?」
「まぁ……正確に言うとハイキングは行けないけど、湖には行けるかな?」
「嬉しいです!!」
私が嬉しくて笑顔になると、ディラン様が私の頬を撫でながら微笑んでくれた。
「そうだね。僕も嬉しいよ。今回洋館には君が不自由することがないように充分な人員をお願いしたけれど、基本的には僕と2人だけだから」
(ん……? 2人だけ?)
そう言われて、ディラン様の話を思い出した。
今回は私の足のこともあり、他の人に迷惑をかけないようにディラン様が王家の持ち物である洋館を手配してくれたのだろう。なんて優しいのだろうか!!優し過ぎる!!
「ディラン様、ご配慮ありがとうございます。しかし、私たちだけ別の場所に泊まってもよろしいのでしょうか? みんなと同じ場所に泊まる訳ではないですよね?」
「問題ないよ。あの湖付近には貴族の別荘がたくさんあるから、ハイキングやオリエンテーリングや野鳥観察だけ参加して、それぞれ家族や婚約者と自分の別荘で過ごす人も結構いるよ」
(そんな裏設定が!!)
私はまたしてもゲームの裏設定を知って驚いてしまった。
「そうなのですね」
ディラン様がいつものように指を絡めながら、妖艶に笑った。
「ふふふ、2人でお泊り楽しみだね」
「はい」
というわけで私も湖には行けることになったのだった。
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※第3回おまけです。(おまけ最終回)
女子生徒『キャメロン様、《王子殿下とお2人でお泊り》ってところはあっさりと受け入れたのね』
男子生徒『そりゃあ、俺たちとは違って、王子殿下たちはすでに色々と進んでいるんだろうし、むしろ2人の方が存分にイチャイチャできていいんじゃない?』
女子生徒『そうよね~今更な心配だったわ』
男子生徒『なぁ!! あの、その、家の別荘が、あの湖の近くにあってさ……もしよかったらさ……家の別荘に遊びに来ないか?』
女子生徒『……それって、どういう……?』
男子生徒『君のことが……好きだってこと!!』
女子生徒『えっ?!』
男子生徒『その……どうかな? ……大切にします』
女子生徒『私でよかったら……』
男子生徒『本当に?! 君がいい!! 俺と付き合って下さい!!』
女子生徒『はい……よろしくお願いします』
男子生徒『やった!! ようやく言えた!! 王子殿下、キャメロン様ありがとうございます!!』
ディランとキャメロンが2人だけでのお泊りするという情報によって、学院のカップルが急増していたのだが、キャメロンがその事実を知ることはなかったのだった。
(もちろんディラン様はご存知です)




