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ただ、俺の番が回って来ただけ

作者: 調彩雨

 その、覚悟は、いつだってしてあった。

「思ったより、遅かったな」

 笑ってそんな、強がりを口に出来るくらいには。

 問い掛ける。

「一巡まで、どれくらい猶予が出来そうだ?」

「個体によって効果時間が違う。正確にはわからないぞ」

「わかってるよ。およそで良い。低く見積もってどれくらいだ」

 科学者だと言うその女は、冷静に、そして冷徹に試算を弾き出した。

「現状、平均値が半月、最頻値が二十日前後、最低値が三日、最高値が三ヶ月だ。未選定地域が四百強残っているから、今後選定された餌が全て現状の最低値を取ったとして千二百日……三年強、だな」

 ああ、悪くないじゃないか。

「そうか。わかった。連れて行け」

「お別れもせずに去るのか?」

「……この地域にはお人好しが多くてな」

 地域選定も、地域選定後の代表者選定も、同様に確からしい確率での抽選、と、表向きには言われている。そして、同地域の者であれば、選定後の交代も可能だと。

 実際は嘘で、代表者選定では、少しでも次の選定を遅らせられる人間が、優先的に選ばれるし、交代はより選定を遅らせられそうな人間でなければ認められないのだが。

「代わると言い出すやつが絶対にいる。それは御免なんだよ」

 俺がいなくなった後も、世界は続く。俺がいない世界で、俺の守りたかったものを守ってくれる者が、いなくなっては困るのだ。

 たとえ、永らえる時がたった三年だとしても。だからこそ、その三年は幸せであって欲しいじゃないか。

「知り合いにキチガイがいてな。俺がいなくなったら、知り合いから俺への情を消してくれる約束になってる。だから、お別れなんて、しなくて良いんだ」

「そうか。荷物整理は?」

「いつ呼ばれても良いように、整理してある」

「準備が良いな」

 それはそうだ。

「俺は、悲観主義者だからな」

 奇跡も、希望も、救世主も、信じていない。

「早いか遅いかの差で、必ず俺の地域の番は来る。俺を選べと指示した以上、一巡が終わる前に俺が選ばれることはわかっていたんだ。準備くらい、しておくさ」

 八年前、この世界は、"敗北"した。

 勝者には、逆らえない。蹂躙され尽くしても、生きとし生けるものすべてを奴隷にされても、世界ごと消滅させられても、文句は言えなかった。

 けれど、勝者は慈悲を与えた。

 彼らが求めるときにひとりずつ、代表者を差し出すならば、この世界を庇護下に入れ、これまで通りの生活を保証すると。

 受けるしかなかった。断れば、今度はどんな扱いになるのかわからない。

 世界政府は世界を六百の地域に分け、順番に生贄を出させることにした。

 代表者が、どうなるのかは知らされていない。ただ、差し出された代表者が、戻って来たことは一度もなかった。

「あなたは賢い」

 女は言う。

「およそ二百弱の代表者で八年もったのだから、あなたの寿命まで、あなたが選ばれない可能性は十二分にあると、予測は出来るでしょう」

「そう、だな」

「それでも自分を、いちばんに差し出すと?」

 始めは、彼らの求めるものがわからず、当てずっぽうに代表者を渡していた。だが、何十人も代表者を出せば統計分析はされるわけで。

 少しでも次の代表者選定を遅らせる代表者をと、考えられるのも当然のこと。

「……守りたいやつがいる」

 代表者については、調べれば知ることが出来る。だから代表者と次の選定までの期間についての統計分析は、誰にだって可能で。

「俺が代表者に名乗り出れば、少なくとも一巡目に、そいつが選定されることは防げるだろ」

 俺が守りたいそいつは、おそらく俺よりも、次の代表者選定を遅らせられる可能性が高かった。

「自己犠牲精神猛々しいですね」

 褒めたとも呆れたともつかない口調で、女は言う。

「悲観主義者だからな」

 いつ、選ばれるかわからない不安を、たとえ短期間でも、消してやれるならそれで良かった。

「いずれ選ばれるなら、遅いか早いかの違いだ。自己犠牲のつもりはない。ただ、俺の番が回って来ただけだよ」

 せめて次の選定を、少しでも遅らせてやれれば良いが。

「健闘をお祈り致します」

 祈っているようには聞こえない女の言葉に、俺は肩をすくめた。

「そりゃどうも」

拙いお話をお読み頂きありがとうございました!

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