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★第36話★ 交渉 下


「祈りの場所はこちらでございます」


 そこにはラルゴ城の塔の上にあるような、丸い円を石で形成した“仕掛け”だった。


 違いは塔のものよりも大きく、中央に黒光りする大きく深い器が地下に組み込まれていた。

 また周囲に刻まれた古代文字の呪文も異なっている。


「これは……」「どういうことだ……」


 “仕掛け”を凝視する国王陛下と大神官様は固まったままだ。私はゆっくりと落ち着いた声を心がけ説明を始める。


「国王陛下、大神官様。

大神殿の聖域にある、祈りの場所にそっくりでございましょう?

あれもメルツェルが、ある方に頼まれて作ったそうにございます」


「へえ。あそこは元々泉やったさかい、水の通り道を通って、この王国中に繋がっとるんや。

ただ森を切ってしもうたり、水の力が弱うなって、一日中祈らなあかんようになったんどす。

ここにあるんは、わてらドアーフが地下深くを掘った通り道が国中に繋がっとるさかい、そういう変化もおへん。

ステラ様。祈って見せたらええとちゃいます?」


「えぇ、そうね。失礼します」


 私は“仕掛け”の中央に進み、黒光りする器の前で(ひざまず)き、国と国民の安寧(あんねい)を祈願する曲を角笛で奏で、“護国の祈り”を捧げる。


 金色の光があふれ、黒光りする器に吸い込まれていく。

一曲奏でれば器は光で満ち、少しずつ減っていった。

 クラヴィ様の影に隠れ光を避けていたメルツェルは、ひょいと顔をのぞかせる。


「ああ、まぶしかった。これでしばらくは大丈夫や。

一回張ったら、あとは保持するだけでええんや。

まあ。人間は加減が難しいさかい、毎朝毎夕祈っとったら間違いおへん。これでよろしゅおすか」


「国王陛下、大神官様。ご納得いただけましたでしょうか?」


 私とメルツェルが呼びかけ確認すると、お二人ははっと覚醒したようで、まずは国王陛下がお答えになる。


「うむ。納得せざるを得んな。

これほどそっくりなものを、聖域に入ったこともない辺境伯夫人が作るには無理がある。

ドアーフの(おさ)のいうことも信憑性(しんぴょうせい)が高い」


 大神官様のお顔には、絶望にも似た表情が浮かんでいた。


「……そんな、(わし)が、祈りに捧げた、(わし)の一生は……」


「大神官様。それは純粋で崇高なものと心より尊敬申し上げます。

私は大神殿から出されたあと、さまざまな人々に出会い、地縁を結び、ドアーフとも知り合い、これを作り上げました。

私はラルゴの地で“護国の祈り”を捧げさせていただきます。

ただ私の命にも限りがあります。前大聖女様のような事例もございます。

どうか私が“護国の祈り”を捧げている間に、後継者を育成してくださいませんか」


 さらにメルツェルが私の“特性”を説明して援護してくれる。


「そうそう、言うの忘れとったけど、ステラ様は自然がぎょうさん残ってるところのほうが、力が強まるんよ。

だから角笛を下賜(かし)されたんやろうなあ。

昼間の角笛はいつもより弱い感じやったで。

ステラ様も大変やなあ」


「心配してくれてありがとう、メルツェル。

国王陛下、メルツェルのいうことは本当です。

土や緑や花、美しい水や大気に触れているほうが、私は力が湧き出てくるのです。

私が“護国の祈り”を捧げるならば、自然豊かなラルゴです。

それ以外では力が衰えていくばかりでしょう」


「うむ、あいわかった。これからもよろしく頼む。

大神官殿は今まで通り祈りを捧げながら、後継者の育成をお願いしたい」


「…………承知いたしました」


 これで私は無事にラルゴに帰ることとなった。

 大聖女の称号も断った。

 この身の安全上もそのほうがいいと国王陛下も同意してくださった。


〜〜*〜〜


 召喚されたアニマ様は、意外にも大神殿に大神官候補として残る道を選ばれた。


「なんか大神官様に見込まれてしまったっちゃ。

あんなおじいちゃんに頼まれたら、ほっとくのもしんどいけん、ちょっとはがんばってみるっちゃ。

ダメやったら今度こそ神官辞めて、ラルゴに帰るけん、よろしくっちゃ」


 優しく強く、大らかで伸び伸びとしたアニマ様らしい判断だと思う。

 アニマ様が大神官になれたら、新しい仕掛けを大神殿に作れるかも、しれない。


〜〜*〜〜


 そして何より、弟モルデンが王城からラルゴ辺境伯王都邸にきてくれた。

 ラルゴ辺境伯騎士団から派遣された騎士は、どこにも連絡をすることは許されなかったが、ずっとモルデンの側を離れず守ってくれていた。

 心らの感謝を捧げたいと思う。

 クラヴィ様はモルデンが懐いていることもあり、この騎士を慰労し、改めてモルデンの護衛騎士に任じていた。


 またコルピア侯爵邸があの惨状のため、お父様と相談し、改築する期間はラルゴでモルデンを預かることにした。本人が希望するなら滞在を伸ばす予定だ。

 またこれを機に侯爵邸も義母マルカの趣味で変えられた箇所を、グレースお母様がいらしたころに戻されるとのことだった。



「ステラお姉様!」


「モルデンっ!大きくなって。見違えたわ」


「僕ももう8歳だよ。これからもっと大きくなるんだ」


「そうよね。その通りだわ」


 (ひざまず)いて抱きしめ頬ずりしていると、頭の上で咳払いが聞こえた。


「んんっ!ゴホンッ!」


「ああ、モルデン。この方がラルゴ辺境伯クラヴィ様。

私の旦那様、モルデンのお義兄様になる方なのよ」


 立ち上がりそれでも中腰で目を合わせながら、モルデンにクラヴィ様を紹介する。


「初めまして!モルデン・コルピアと言います!

ステラお義姉様と一緒によろしくお願いします!」


「元気がいいな。モルデン、俺はクラヴィだ。

クラヴィと呼んでもいいし、義兄上(あにうえ)とかでもいいぞ」


「じゃあ、クラヴィ義兄上(あにうえ)で!

あいさつは元気よくって、執事長に教わったんだ。あ、です」


「普通の話し方でいい。俺達は家族だ。ラルゴには弟もいる。ラルゴでは四人家族だな」


「そうだね。ステラ姉様に赤ちゃんが産まれるまでは四人家族だ!」


「モ、モルデン?赤ちゃんって?」


「え?結婚したら、赤ちゃんが産まれるんでしょ?違った?ね、ステラ姉様?」


 無邪気なモルデンの質問に戸惑う私に代わり、クラヴィ様が答えてくださる。


「モルデン。赤ちゃんは神の思し召しで生まれてくるんだ。人にはまだわからないことが多い。

そうだ。俺の弟はグラツィオといって、モルデンより2つ歳上なんだ。仲良くしてもらえるか?」


「あ、姉様の手紙でたくさん読んでたから大丈夫。

グラツィオ君ってピアノが好きなんでしょ?

僕はヴァイオリンが好きなんだ。一緒に弾いてくれるかなあ」


「大丈夫だと思うよ。グラツィオもきっと喜ぶ」


「嬉しいな。クラヴィ義兄上、ありがとうございます」


 まずは順調な二人の様子に、心中ほっとした私だった。


〜〜*〜〜


 出発前夜——


 お父様がラルゴ辺境伯王都邸にお越しになり、晩餐(ばんさん)をご一緒する。

 今夜はここに泊まり、翌朝見送ってくださる。


 ()しくもクラヴィ様が、以前コルピアの領地で過ごそうと提案してくださった“家族四人”でテーブルに着き、さまざまに語り合う。


 お父様からは『王都みやげ』として、王都で評判のパティスリーの焼き菓子や繊細な飴細工をどっさりと、珍しい香辛料、グラツィオ様にはピアノの楽譜なども贈ってくださった。

 そして、グランドピアノや、モルデンの成長に合わせた上質なヴァイオリンも、別便で届けてくださると話す。

 これにはモルデンも喜び、クラヴィ様も私も感謝する。


 そして、私にはグレースお母様の形見の品などが入ったからくり箱と、ドレスのデザイン見本帳と小切手を渡してくださった。


「お前が私に預けたこの箱はもう返しても大丈夫だろう。

それとこのデザインの見本帳はグレースのものだ。

贈れなかった8年間の誕生日のドレスだと思って、この小切手で好ましいと思ったものがあれば作ってほしい。全く別のドレスでもいい。

娘の好みがわからぬ父で申し訳なく思う……」


「お父様……、何よりのものをありがとうございます」


 精いっぱいの好意をありがたいと思い受け取ることにする。複雑な想い、しこりはまだあるが今出すべきものではない。


 夕食後、お父様は私とモルデンを抱きしめ、私がモルデンを寝かしつける間、応接室でクラヴィ様と二人、話し合っていた。


「クラヴィ殿。

これから伝えることは、ステラにとってはさらに残酷なことかもしれない。心の負担も大きいことだと思う、

だがいつかは知っておいたほうがいいと思う。特に別の人間から耳に入る前にだ。

モルデンにも同じことが言えるだろう。

クラヴィ殿が直接話すよりも、私の手紙のほうがよいと判断したら、時期を見て知らせてほしい」


「わかりました……」


 知っておいたほうが良いこととは、義姉ラレーヌと義母マルカのことだった。


 ラレーヌは秘密裡に処刑された。

 元“首席聖女”のピア様をなぶり殺しにしたのに始まり、殺すに至らなくとも負傷させた被害者は貴族にもいたが、平民の使用人の重傷者が多かった。


 義母マルカとマエスト公爵家は、広く深い湖の中にある島の監獄に入牢することとなった。

 見張りも厳しく、脱獄を試みた者は全員死んでおり、生きては出られない終身刑だ。多くの罪を犯してしまっていたためだった。

 他にもクラヴィ様とお父様はさまざまに語りあった。


 機会を見極めてから、というお父様の判断にクラヴィ様は感謝した、と後日知らされた私に話していた。


 確かに次の日から約2週間、モルデンと一緒に馬車の旅をする私には、大きな心の負担となっただろう。


 クラヴィ様がお父様を客間へ案内させたあと、モルデンが眠る客間を覗くと、私もモルデンに添い寝し二人でくうくうと眠ってしまっていた。


 クラヴィ様は頭をガシガシとかき苦笑いされ、今宵(こよい)は夫婦の寝室にお一人で休まれた。


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