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★第31話★ 初雪の使者


 ラルゴ領都に初めて雪が降った秋の終わりに、お父様コルピア侯爵が国王陛下の使者としてお越しになった。

 ラルゴ辺境伯領に入った時点で先触れの使者を立ててくださったので、慌てずに迎え入れる準備を整えた。


 50騎ほど護衛騎士が馬車の前後を固めており、コルピア侯爵家と近衛騎士団が約半数ずつ見える。近衛騎士団はお父様の逃亡防止も兼ねているのだろう。

 少し気の毒に思えたが、遠路はるばるおいでになった割にはお元気そうに見えた。


「コルピア侯爵閣下。ようこそ、ラルゴ辺境伯領へ。クラヴィ・ラルゴ辺境伯です」


「お父様、ようこそお越しくださいました。王都からの長い旅路、お疲れ様でした」


「ラルゴ辺境伯閣下。初めまして。コルピア侯爵ファーゴと申します。

お手紙ではごあいさついただいておりましたためか、初めてお会いした気がいたしません。

娘をどうぞよろしくお願いいたします。

ステラ、元気そうでよかった。それが一番だからね」


「クラヴィ様?お父様にお手紙を差し上げていたの?」


 お父様の言葉に私は驚く。

 クラヴィ様はわかりにくいが本当の優しさをお持ちの方なのだ。そして通じれば心をほんのり温めてくれる。


「もちろんだろう。義父上になる方だ。直接ごあいさつできない無礼をお()びしておいたんだ。

ここは冷える。まずはお部屋へご案内させましょう」


「ありがとうございます」


 お父様は執事に案内されていった。護衛騎士達は副騎士団長ジョッコ様に案内され、用意していた宿舎へ向かう。

 ラルゴ城の《結界》は条件を変更していた。

 お父様はともかく同行者が出入りできず、《結界》の存在自体が露見すると面倒なためだ。


 私とクラヴィ様はお父様を見送ると、執務室へ行く。行政補佐官ランザ様や元神官アニマ様がお待ちだった。


「ステラ様。半年ぶり以上の親子の対面、どうだった?」


「こらっ、ランザ!からかっていいことと悪いことがあるだろう」


「いえ、気にしてません。普通でした。涙も笑いも特になく。クラヴィ様がお手紙を出していらしたのに少し驚いたくらいです」


「礼儀を通しただけだ。文句をつけられたくなかったんだ」


「はいはい、良いお婿さんと思われてたらいいじゃない。で、書状は?」


「夕食の後だろう。まあ、歓待するさ。田舎料理だろうが」


「あら、食べ物はラルゴのほうがおいしゅうございますよ、クラヴィ様」


「そうなのか?」


「はい、水からして全然違いますもの」


「あ〜。俺もそう思った〜。王都にクラヴィと一緒に集中講義受けにいった時、『まっず〜!』って思ったもんね〜。

クラヴィに聞いても『そうか』だったけどさ」


「酒はラルゴのほうが旨い。せっかくだ。義父上には料理も酒も味わっていただこう」


「はい。クラヴィ様」


 客人のもてなしは夫人の役割だ。私はお父様の好物を用意していた。


 今の季節だと栗がお好きだ。

 初雪のラルゴでは名残(なご)りの栗を、猪肉のロースト栗ソースや、栗の実がたっぷりなグラタン、マロンペーストと栗の実を用いたデザートなどで味わっていただく。

 ラルゴ領のことを話題に、嬉しそうに召し上がってくださっていた。


 夕食後、応接室に移り本題に入る。


「クラヴィ閣下。国王陛下からの書状です。お改めください」


「拝見しよう」


 目を通したクラヴィ様が私に渡してくださる。

 内容は、『最低条件の3項目をすべて実施するので、ラルゴ辺境伯夫妻で王都に来てほしい』との内容だった。


「内容は確認しました。実施は本当でしょうか?」


「はい、国王陛下はこれを機に、風紀も政治も刷新したいご意向なのです。

血統第一主義ではなく、実力第一でそこに血統や身分を加味する。それくらいにされたいご様子です」


「なるほど……。それで、我が妻ステラに王都で何をさせたいおつもりなのでしょうか?」


「…………“護国の祈り”を大神官様から引き継いでいただきたい、とのことです」


 予想していたとおりだった。クラヴィ様はわざと驚いてみせる。


「おや、それでは私とステラは離れ離れですか?!

それともこのラルゴを取り上げて、王都周辺に別の領地を授けるとでも?!

どちらも受け入れがたいお話です」


 演技が本気に見え、守ってくださる安心感が胸に満ちていく。本当に頼り甲斐がある同志でお兄様だ。


「……その件について、国王陛下と直接お話しになっていただきたいのです。私はこの書状を届けに来ただけで、何の権限も与えられていません。

ステラ。父としてなら、『王都に来るな、ラルゴにいてほしい』と望むところだ。だが、国王陛下の臣下としてはそれは言えない。

さらに言えなくなった。モルデンは今、王城にいる」


「王城に?!」


 これは意外だった。ラルゴから差し向けた騎士が付き添っているはずなのだが、報告が来ていなかったためだ。

 手紙も出せないほど監視されているのか、最悪の場合は“排除”されている可能性もあった。


「ああ、お前と私の人質だ。何の保障もなければ、私が裏切るとお思いなのだろう。実際にそうだが」


 私とクラヴィ様はお父様のこの言葉を聞き、そして態度などを見て(うなず)きあう。


「コルピア侯爵閣下。私とステラは王都に参りましょう。ご一緒いたします」


「誠ですか?!」


「はい、もう準備も整えておりました。お返事は直接、国王陛下と大神官殿に申し上げましょう」


「……わかりました。すまない、ステラ……。

お前の生活を守ってやれず……」


「お父様。私は自分で自分を守ります。そしてラルゴも、この国も。だから安心なさってくださいね」


 私は優美に微笑む。グレースお母様のように、と思ったが、できていたかはわからなかった。


「ステラ……」


「ああ、モルデンもですわ。『僕のこと忘れてるよ』ってむくれてしまいそう」


「はは、そうだな」


「コルピア侯爵閣下。()かすようで申し訳ないが、ご覧の通り、ラルゴの冬は早い。

明日は一日休養され、明後日の朝、出立でよろしいかな」


「申し分ないことです。誠にありがとうございます」


「では、その予定で。ステラ、義父上と積もる話もあるだろう。ゆっくりするといい。失礼します」


 お父様と今の状況で、二人きりにはなりたくはなかった。懐かしくはあるものの、複雑な心境をぶつけてしまいそうだ。


「クラヴィ様、お待ちになって。お父様とは明日以降もたっぷり時間はありますわ。

お父様、今夜は早めに休養なさってください。

では失礼します。おやすみなさいませ」


「ああ、おやすみ、ステラ。失礼します、閣下」


 お父様は寂しそうだったが無理に引き留めもせず、受け入れてくださった。

 そのことにも微かに胸が痛む自分がいた。


〜〜*〜〜


 翌日——


 私はお父様を案内し、領都で品質の良い毛皮や毛織物、高地山羊の極上毛で編まれたカーディガンなどを贈った。

 護衛はいるが親子二人きりは久しぶりで、楽しい時間を過ごせた。

 これは今、私がとても幸せだからだろう。


 この日の夕食にはグラツィオ様も同席し、和気藹々(わきあいあい)と過ごした。

 明日、王都へ出発する風には見えないだろう。


 1日違いで、アニマ様にも使いの神官がやってきた。

 王家とは一応、別々だと示したかったらしい。


 渡されたのは大神殿への召喚状だった。

 辞表は提出先で預かったままになっているので、身分はまだ神官であること、大神官様が身分などを問わず、能力のある人材を探しており、選出されたことも記されていた。

 アニマ様は召喚を受ける際の交換条件を提示する。


 “(つか)()”マーチャさんを女性神官とし、次の赴任者はその下に着くことだった。


 全権を任されていた使者は了承し、アニマ様の希望もあり、私達と一緒の旅程で王都へ向かうこととなった。


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