★第26話★ 話し合い 上
「待たせたな」
ラルゴ城、領主執務室にクラヴィ様が帰還した。
出迎えた者達に、ほっと安堵の表情が浮かぶ。
「で、結果は?」
「使いの神官が知ってることは、ジョッコ相手にしゃべらせた。
俺は存分に脅しをかけておいた。
ジョッコに『途中までお見送りするように』と指示したから、次の宿場町までは確認させるだろう」
「了解。こっちはこれから打てる手は考えて指示出しといたんだけどさ。
まずは叩き出した神官に押し付けた書状の中身、ステラ様やアニマ神官に教えてくれない?」
「お願いします、クラヴィ様。信頼してますが私のことなので把握はしておきたいんです」
「おりゃあも知っときたいの」
「写した控えがある。ランザ、読め」
クラヴィ様に命じられ、行政補佐官ランザ様が朗読し始めた。
「はいは〜い。あっちと違ってかなり礼義正しいよん。
『王都大神殿 責任者殿
失礼ながら多忙なもので、儀礼的なあいさつを省き本題に入らせていただく。
貴殿が王都への帰還を命じられた我が妻ステラ・ラルゴについてだ。
結論から申し上げる。王都への帰還はお断りする。
我が最愛は、王都の大神殿と王立学園において、8年もの長きに渡り虐げられてきた。
百回以上、生命の危険にあったことを含めてだ。具体的には階段から突き落とされた回数である。
身体は《自己治癒》できたとしても、痛みの記憶は残り、心に深い傷を負う。
また首の骨などが折れ《自己治癒》が発動できなかった際には、『バレたら大変だ』と笑いながら、突き落とした本人達が《治癒》をした。
どこまで我が妻を愚弄すれば気が済むのか。
これは虐待、いや殺人未遂を含めた罪状のほんの一部に過ぎない。傷害、盗難、器物破損なども常に行われていた。
上記の事柄を踏まえた上で、私は貴殿と大神殿に対し、下記の条項を要求せざるを得ない。
1.こういった邪悪な関係者の罪過を、新聞などで正確に“公表”し王都民に知らしめること。
2.“悪辣令嬢”などといった、妻の名誉をはなはだしく毀損した作り話を、根も葉もない悪質なデマだと、王都社交界を含め駆逐すること。
3.1及び2.以外も含め、ラルゴ辺境伯夫人である妻の名誉を回復し、完全なる心身の安全を保証すること。
これらは必要最低限の条件であり、ラルゴ辺境伯夫人としては“当然”の処遇だ。
またこれらの犯罪行為は、主に王立学園で行われた。
別途、王立学園を主宰する王家にも報告する予定である。
王都に行くかどうかは、この条件が整ったあと改めて検討させていただく。
なお、妻ステラはラルゴ辺境伯夫人として執務も行いながら、聖女としての務めも立派に果たし、この辺境伯領にとって必要不可欠な存在である。
またすでにラルゴ神殿へ辞職願いを出し受理されている。これからは聖女としての務めではなく、辺境伯夫人の善意の奉仕活動として《治癒》などを行わせていただく。
以上を鑑みて、ステラ・ラルゴの夫であるラルゴ辺境伯クラヴィとしては、王都への帰還、大神殿への赴任は認められないと通告する。
大神殿責任者殿の神の恩寵を願う。
ラルゴ辺境伯 クラヴィ・ラルゴ 』
うんうん、格調があってなかなかの名文じゃない?」
私は涙を必死に抑える。ここまで私の被害を代弁し庇護していただけるとは思ってもいなかった。
それに“最愛”とも書いていただけた。
大神殿に向け強い圧迫を示すためなのだろうが、家族としてこれほど受け入れてくださり、心から感謝する。
「ありがとうございます。クラヴィ様。
“白い結婚”を疑わせないためであっても、これだけ庇ってくださり、家族として遇していただけるなんて夢のようです。
心より感謝申し上げます」
領民を、家族を護ろうとする気高さと誇りに、私は人間としての敬愛を込め、ていねいにお辞儀する。
「いや、ステラ。俺は書いてあるとおり、妻として愛」
「ただいま、戻りました!」
副騎士団長ジョッコ様が帰還し、皆の注目を浴びる。
「クラヴィ様。部下数名には次の宿場町だけではなく、ラルゴ領を出るまで確認するよう命じてきました。
また領内の宿泊施設に、王都から来た者の身分証明書を確認し、神殿関係者の際は速やかに知らせるよう通達も出しておきました」
クラヴィ様は少しだけむすっとした表情だ。ジョッコ様の指示に手落ちがあったとは思えないのだけれど。何かお考えあってのことなのだろう。
「……わかった。ご苦労」
「クラヴィ様。申し訳ないが報告とお願いがあるんちゃ。
神殿の信者総代さんには、連絡があるまで神殿には来たら危ないち説明したっちゃ。
お願いは、神殿に騎士さんを置いてもらえませんかのお?留守にすると荒らされるかもしれんっちゃ」
「それはもっともだ。ジョッコ、手配を頼む」
「はっ、承知しました」
「それとさ〜。さっき言ってた“知ってることはしゃべらせた”って内容教えてもらえる?」
「ああ、……」
クラヴィ様は簡潔にまとめて教えてくださる。
大神官様が私に関心を持ち続け、それほどお怒りになり、私を求めていらっしゃったのは意外だった。
神殿長のところで止まっていたのかもしれない。ただ私にとっては今さらだ。
この安住の地、ラルゴから離れる気はない。
王都へ帰ると考えただけで、どうしようもない恐怖を覚える。こんな状態では行っても役立てそうになかった。
「了解〜。よっぽど焦ってるんだね〜。
クラヴィ様がいない間、ステラ様と考えていくつか手は打っといたんだけど……」
ランザ様からの報告を聞き、クラヴィ様が納得されているご様子にほっとする。
「……あとはステラ様から大切な報告があるんだってさ。
庭園に祈りに行って戻ってきたあとに言われ」
「庭園に?!ステラ?!この執務室を出たのか?
あれほど約束したのに?!」
クラヴィ様が立ち上がり、私の左右の二の腕を掴む。
加減してくださっているのか、さほどは痛くはなく、緑と赤の金銀妖瞳の瞳には驚きと心配、不安、危機感が宿っていた。
私としても訳あってのことなのだが、すまなさが押し寄せてくる。
でも私も家族としてクラヴィ様がとても大切で、守りたいと思っていることはお伝えしなければ。
「も、申し訳ありません。城内だと庭園が一番、祈りの力が強くなるように感じるので……。
ランザ様はお止めくださったのですが、私がクラヴィ様の安全を祈りたかったのです」
「そうなんだよ〜。どうしてもって言われてさ。
そこにアニマ神官まで賛成するから、あ、護衛騎士はきちんと10名くらい付けたんだよ?」
「クラヴィ様。おりゃあ、ステラ様がラルゴに来んしゃったころから、最初に角笛を吹けたときも、その後も見てきたっちゃ。
ステラ様は土や緑や花に触れられとるとき、力が強くなるんっちゃ。そやけん賛成したと。
ステラ様の気持ちもわかってあげてっちゃ。
それと手は離してあげてっちゃ」
私の言葉や、ランザ様、アニマ様の後押しを聞き、クラヴィ様の驚きや不安などは静まっていき、逆に狼狽される。
「あ、す、すまない、ステラ。つい……」
「いえ、私がご命令に反したのですから、罰は受けさせていただきます。
ただその前にご報告したいことがあります。まずは二人でお話ししたいのです」
クラヴィ様は周囲に目を配り頷くと、皆様は退室してくださる。
「どうした?ステラ。何があったんだ」
「クラヴィ様。実は……」
私が庭園であったことを話していたころ、王都でも、いろんなところで話し合いがなされていた。




