表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/40

★第21話★ “白い結婚”生活 上

 

 翌朝——


 “工作”しておいた“初夜の(あかし)”も、侍女達に無事に受け入れられホッとする。

 どこか気恥ずかしく、専属侍女カレン様に体調を(たず)ねられるとドギマギし、「大丈夫です!」などと力が入ってしまう。


「ああ、ステラ様は《自己治癒》できますものね。

私は身体中が痛く、ベッドから離れられたのは昼過ぎでしたのよ。恥ずかしくてたまりませんでしたわ」


 女性同士だとかなりあけすけな内容で、私はぽんっと音が出そうなくらい真っ赤になってしまう。


「うふふ、失礼しました。花嫁様をからかうのもこれくらいにしておかないと、クラヴィ様に氷漬けにされてしまいますわ」


 ほがらかに言いながら、支度をしてくれる。

 髪型はやはり両サイドを残して編み上げてまとめ、形式上、昨日クラヴィ様が選んだドレスを身につけて朝食室へ向かう。


 クラヴィ様は書類を見ながら待っていてくださった。

立ち上がると朝のあいさつを交わし私を出迎え、サイドの髪を手に取り唇を落とすと、エスコートしてくださる。


「おはよう、ステラ。席は私の隣だ」

「おはようございます、クラヴィ様。ありがとうございます」


 昨夜も“白い結婚”だったはずなのに、目線があうと照れてしまう。

 気持ちを切り替えようと食事に集中する。辺境伯邸の料理は朝食でも充分に美味しい。


 私が素直に紫の瞳を輝かせ、嬉しさを表情に出していると、クラヴィ様がくすっと小さく笑った。


 周囲は固まる。

 氷魔法ではなく、クラヴィ様が笑った驚きでだ。

 ご本人は気づかず言葉を続ける。


「ステラは本当においしそうに食べるな」


 私は雰囲気を壊したくなくてそのまま受け答えする。


「とってもおいしいのですもの。神殿で食べるマーチャさんのお料理と同じくらいですわ」


「ああ、優しい味だと言っていたな。俺も一度は味わってみたいものだ」


「私も一緒に作っていましたから、似た味なら作れますわ」


「だったらステラの都合のいい時にでも食べてみたい」


「かしこまりました。料理長にお願いしておきます」


 貴族女性は料理の手配はしても実際の調理はしないが、私は大神殿で手伝わされ学んでいた上、マーチャさんと一緒に作り教わっていた。

 和やかに朝食を終え、各々の職務に別れる。


 私は執事長が運んできていた帳簿に、速読で目を通していき、確認すべき箇所には《(しおり)》をはさんでおく。

 進める内に時間を忘れてしまうほどだった。


 〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜


 一方、クラヴィは朝食後に一仕事を終え人払いした上で、補佐官ランザと副団長ジョッコと休憩する。


「で、昨日はうまくいったの?例のコト」

「ああ、“工作”しておいた。疑われてもいない」

「ふ〜ん」


 ランザがクラヴィをじっと見つめ、ニヤニヤしている。


「おい、なんだ」


「いやあ、仕事中、やったらあくび噛み殺してるしさ〜。

肌艶いいしさ〜。ホントにヤっちゃっ」


 ここでジョッコがランザの頭に拳骨を落とす。


「品のないことを言うな!クラヴィ様はまだしも、ステラ様に失礼だろう!」


「いって〜。口で言えばいいだろ。口で」


「今のはランザが悪い。“白い結婚”のままだ。

ジョッコもさりげなく不敬だぞ。

俺はまだしも、ってなんだ」


 クラヴィは昨日の様子をさらっと説明する。


「ジョッコ。という訳で警備は万全を頼む。神殿との行き来もあるからな」


「はっ、了解しました」


「休憩終了。しばらくは昼食もステラと一緒だ

“寵愛”を示さなければな」


 人払いをとき、真剣な表情で猛然と職務に向かう主人を背に、ランザとジョッコは(ささや)きあう。


「なあなあ、アレって無自覚?」


「の、ようだな」


「俺達の正論逆手にとって、ホントの寵愛になってね?」


「いいんじゃないか?剣の訓練のように、形から入るときもあるだろう」


「おっ、ジョッコもなかなか言うね〜」


「おいッ!ランザ!ここの数字はどうなっている?!ジョッコはすぐに動け!辺境伯夫人に何かあっては困るからな!

ステラに関する報告・連絡・相談は密にしろッ!」


『はいッ!了解しましたッ!』


 クラヴィのほうを向き背筋を伸ばし返事をした二人を尻目に、充実した仕事ぶりを見せる“氷河”の辺境伯だった。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


 私は朝食後から昼食前にかけ、速読で帳簿に目を通し終え執事長を呼ぶ。


「多忙なところ、呼び出しによく応じてくれました。

小さなことなんですけどね……」


 私は《(しおり)》を入れていた箇所について、次々と質問をしていく。

 最初はすらすら答えていた執事長だが、少しずつ顔色が悪くなり額に汗が浮かぶ。


「この数字とこの数字を見比べると、明らかに“お高く”仕入れてますよね。

私、ラルゴ神殿の帳簿もつけていたので、だいたいの物価は把握してるんですのよ。

庶民的な辺境伯夫人がここにおりますの」


 要するに少しずつ価格の高い設定で納入し、差額を業者と分け合っていたのだろう。


「クラヴィ様に報告します。あなたの件はクラヴィ様がお決めになること。

もう30年以上、辺境伯家に勤めてこられたというのにとても残念ですが……」


「…………昨日今日、やってきたあなたに何がわかると言うのだ?!」

「執事長!控えなさい!!」


 激昂した執事長へのカレン様の叱咤を、私は手で制する。


「最近出会ったからこそわかることもあるのです。

あなたのような方々がクラヴィ様を“氷河”にしたのです。

まだ若く領主教育もほぼ受けてこなかった主家の若者が、命懸けで魔物討伐をしながら、領都の復興も必死で行っていたのに、支えるのではなく、目が届かないところで少しずつ旨みを得ていた。

この分の資金があれば、もっとできたことがあったはずです。

ジョッコ様。あとはよろしくお願いいたします」

「奥様、承知いたしました」


 私はクラヴィ様への報告書を書き上げ、昼食に向かった。


〜〜*〜〜


 昼食は弟のグラツィオ様とも一緒になった。

 嬉しそうに、今日の家庭教師の授業について話してくださる。

 相槌を打ちながら聞いていたクラヴィ様に、グラツィオ様が(たず)ねる。


「ねぇ、お兄様。僕は王立学園に行かなきゃいけないの?」


「そうだな。ほとんどの貴族は王立学園を卒業している。そこでの人脈を活かせるんだ」


「……でも、お兄様はずっとは行っていないんでしょう?僕もラルゴにいたい……」


 クラヴィ様はカトラリーを置いて、グラツィオ様に答える。


「グラツィオ。王立学園は15歳からだ。

9年前の魔物の大襲来の時、俺は14歳だった。

父上と兄上が亡くなり、領主を継ぐ者は俺しかいなかった。

被害は甚大で、俺が生き残った周囲の助けを得ながら陣頭で指揮を取った。


王立学園 は15歳から18歳の3年間、通うことになっている。

ラルゴを長期に離れる訳には行かず、座学は通信教育でレポートを提出し、集中的な実技だけ王都に出向いてまとめて1か月で受けたんだ。

この往復だけでも2か月間、ラルゴを離れなければならなかった。

それでも学ぶべきものはあったと思う。

今のラルゴならお前を3年間送り出せる。どうして行きたくないんだ?」


「だって……。ステラ様、お義姉様は、たくさん、そこで嫌なことがあったんでしょ。そんなトコ行きたくないよ……」


 クラヴィ様と私は顔を見合わせる。レスト伯爵令嬢のこともあり、誰かわからないがかいつまんで聞いてしまったのだろう。

 ここは私が話すべきだろう。心を落ち着かせ、グラツィオ様に優美に微笑みかける。


「グラツィオ様、私は確かにイジメを受けていましたが、それでも王立学園を卒業できてよかったと思っていますよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ