★第17話★ 絆の証(あかし)
「クラヴィ様、聖女殿、おめでとうございます」
私とクラヴィ様が碑の裏の階段を上がっていくと、待っていた副騎士団長ジョッコ様がお祝いの言葉を仰ってくださった。
「心配をかけたな、ジョッコ」
「……あ、あの、ジョッコ様はご存知で?」
碑から出ていらしたクラヴィ様は落ち着きを取り戻し、いつも通り冷静だが、少し和らいだ声音だった。
それにこのやりとりはどういうことだろう。
墓地までの馬車の間は、私に突撃してきたレスト伯爵令嬢がどういう方か説明してくださった。
そして首席聖女”で第二王子の婚約者であるピア様が私のラルゴ赴任に合わせ、クラヴィ様に書状を寄越していた。
私の予想通り、警護役の近衛騎士に直接渡されたという。
また今でも手紙などによって伝手のある令嬢や夫人に、私の“悪辣令嬢”話を吹き込んでいるらしい。
そういったことに終始していたのに『なぜこのやりとりなの?』と思っていると、ジョッコ様が珍しく快活に笑われる。
「聖女殿がされていらっしゃる指輪は、“ドアーフの宝”と言い、代々辺境伯夫人が身につけてきたものなのです。
その昔、討伐されかけたドアーフが命乞いをし、助けた辺境伯夫人に渡し忠誠を誓ったとも言われています。
家臣で知らぬ者はおらず、近年『自分の娘に試させてほしい』などと不躾なことをいう無礼者がいて、クラヴィ様がここに移していらしたのです」
「そういうことですか……」
謎は解けたが、私はこれからどうしたらよいのだろう。
深呼吸をし考え、まずは神殿に戻りアニマ様に報告するべきだ、と判断する。
そのことを伝えると、クラヴィ様も同意される。
「それが順当だろう。聖女ど、いや、ス、ステラの親代わりのようなものだし、俺もあいさつしておきたい」
「クラヴィ様。ランザも呼び寄せますか」
「ああ、そうしてくれ」
『なぜ行政補佐官のランザ様までお越しになるのだろう』と思っている間にラルゴ神殿に到着する。
エスコートして降りてきた私を、神官アニマ様と、“仕え女”マーチャさんは微笑んで出迎えてくださった。
「おお、早速ですか。おめでとうございます」
「ステラ様、おめでとうございます」
「ありがとう、アニマ」
「あ、ありがとうございます。アニマ様はご存じだったのですか?」
「ランザ様から相談はされておりました。それにその指輪、由来はお聞きになりましたか?」
「……はい、伺いました」
「でしたら、クラヴィ様が勇気を振り絞るというか、がんばられたのだな、と。誠にめでたい。
さあ、どうぞ。薬草茶と簡単ですがお菓子をご用意しております」
「それありがたい。ほっとしたら喉が渇いたところだ」
神殿に入り信者様の集会所にも使われる部屋で、薬草茶とマーチャさん手作りのパウンドケーキをいただく。
いつもならおいしいケーキを堪能するのだが、今日は味がよくわからない。
薬草茶を飲んでいたクラヴィ様がわずかに右の口角を上げる。
「アニマ、薬草茶の味が変わったな」
「さようでございましょう。信者さん達からも、味や香りがよくなり飲みやすくなった。疲れにくくなったと評判です」
「……ステラの歌のせいか?」
「おそらくは。それ以外は変わってないけん、あ、失礼。変わってませんので」
「アニマ様、本当ですか?」
「はい。私達は毎日飲んでいるので気付きにくいですが、たまに飲む信者さん達が気づいたのでしょう」
「そんなことが……」
「全く不思議じゃないな。あなた、んんっ、ステラの力を考えたら」
そこにランザ様が早足で到着する。
「あ〜、もう!めんどくさい爺いどもを巻くのに苦労したよ!3つは貸しだよ!はい!さっさと書いて!」
バンと机に置かれたのは書類だった。婚姻届とある。
「すまん、助かる」
「まあ、カッコつけのへたれなクラヴィががんばったから、お祝い代わりにしとくよ」
「確かる。んんっ、ステラ。署名を頼む。
証人の欄は……。アニマ、頼めるか?
え?これは、グラツィオじゃないか?!」
「へっへ〜。手際の良さを褒めてほしいね〜。
証人の署名頼んだら、グラツィオ様は大喜びだったよ〜ん。
聖女殿、あ、失礼。ステラ様がお義姉様になってくれたってね」
「……お前ってヤツは」
「口止めもしといたから、大丈夫。へっぴり腰だった誰かさんとは大違いだからね。
はい、まずは領主様からね」
クラヴィ様は黙ってランザ様からペンを受け取ると、結婚する人間の欄に署名する。
「……ステラ、頼む。妨害が入らない内に入籍したいんだ」
「…………わかりました」
私も深呼吸しクラヴィ様の隣りの欄に署名する。
ここラルゴ神殿でも見かけるが、自分が署名するのは別物だ。
失敗しないように書き終えると、緊張していたのか、全身の力が抜けそうだ。
次にアニマ様が慣れた手つきで署名すると、ランザ様が受け取る。
「はい。これでよし。本当なら神殿でこのまま挙式しちゃったほうが確実なんだけど、ステラ様にもドレスとかの夢ってあるでしょ。
1週間もあれば、急がせて作れるからお待ちください」
「いいえ、夢はありません。より確実なら式を挙げてくださいますか?クラヴィ様」
「いいのか、ステラ」
「はい、私達はラルゴを守る同志でしょう?その絆の証です」
私の言葉を聞いて、ジョッコ様は額に手をやり上を見て、ランザ様は後ろを向き肩を揺らし、マーチャさんはじぃっとクラヴィ様を見つめる。
変わらないのはアニマ様だけだ。
「クラヴィ様はどうするんちゃ?おりゃあ、いつでも準備はええで。あ、花嫁のブーケくらいは作らせてっちゃ」
「ステラがこうまで言ってくれている。お願いしたい」
「そういうこっちゃ。ジョッコ様。ブーケ作っとる間にグラツィオ様、連れてきてっちゃ。礼装もよろしく」
「承知した」
「俺もちょっと行くとこあるんだ〜」
皆さんを待っている間に、マーチャさんと一緒に菜園兼庭園から花を摘もうとすると、アニマ様が声をかけてきた。
「ステラ様。結婚の報告の気持ちを込めて歌ってみてっちゃ」
「は、はい」
少し恥ずかしいがラルゴに永住できる喜びも込めて歌うと、金色の光が満ちていき、庭園を覆っていく。
よく見ると、花が次々とほころび、数本だけある薔薇も季節外れに咲いていた。
茫然としている私をよそに、マーチャさんが喜んでどんどん摘んでいく。私もすぐに手伝うが、ブーケには十分すぎるほどの数だった。
私の部屋で、聖女の白い服を《浄化》すると、マーチャさんが「お任せください」と髪を結い、薔薇の花を挿してくれ、お化粧もほんのりしてくれた。
鏡に映る自分が自分でないようだ。
「ステラ様、失礼します」
それは信者さんが結婚式を挙げる時に投げるリボンで青かった。
ウェストの絞った場所に器用に美しく結び、長く垂らしてくれる。
そこにグラツィオ様とジョッコ様、少し遅れてランザ様が現れる。
「うっわ〜。とってもきれ〜い。ステラ様。
あ、お義姉様になってくれるって聞いたんだ。
おめでとうございます」
習ったばかりのボウアンドスクレープであいさつしてくれたグラツィオ様に、私は心を込めてお辞儀をする。
「グラツィオ様。これからよろしくお願いします」
普通の結婚ではなく、契約婚で騙していることに良心が痛むが、今は言えない分、心を込める。
「俺からは、はい!姉貴から借りてきたんだ」
ランザ様から渡されたのは、白い繊細なレースのヴェールだった。
「花嫁の四つのものって言うでしょ。
2つそろってるからついでに、って思ったんだ。
古いものは指輪、新しいものはブーケ、借りたものはこのヴェール、青いものはリボン。
“仕え女”さんもわかってたみたいだけどね〜」
マーチャさんもにっこり笑う。
気づいてなかった私は恥ずかしく、花と良い香りの薬草で作ったブーケで、思わず顔を隠してしまう。
そんな私にマーチャさんがヴェールを付けてくれる。
そこにジョッコ様が持ってきた礼服に着替えたクラヴィ様が現れる。
黒い服に長い銀髪が映える。改めて見つめていると緑と赤の金銀妖瞳が私を捉えている。
少し咳をされたあと、私に手を差し伸べた。
「…………とても美しい花嫁だ。さあ、式を挙げよう」
「はい、クラヴィ様」
お世辞とはいえ褒めてもらい、自分から言い出したのに上がってしまいがちな私を、アニマ様とクラヴィ様がリードしてくれる。
「どんなときも互いを思いやり、互いを敬い、誠実な心を持ち、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
クラヴィ様と私は、「はい、誓います」と答え、誓いの言葉も無事に終える。
ここで私ははたと気づく。
そう、誓いの接吻がすっかり抜け落ちていたのだ。
『ちょっと待って。どうしよう、どうすればいいの』と焦っていると、クラヴィ様がヴェールを上げる。
目をぎゅっとつぶった私の額に、そっと温もりが落ちる。
『え?』と思って目を開けると、間近にクラヴィ様の顔があり一歩引きたくなるところに、アニマ様が厳かに式の終わりを告げる。
「おめでとうございます」
マーチャ様がいつのまにか用意してくれていた、花びらを撒いてくれる。
グラツィオ様も、ジョッコ様も、ランザ様も、口々に祝ってくれた。
「ありがとう」
「ありがとうございます」
クラヴィ様と私がお礼をいい、アニマ様に結婚証明書を出していただき、クラヴィ様が受け取る。
「明日、迎えに来るから待っててくれ」
「はい、クラヴィ様」
あっという間に婚姻届と結婚式を終えた二人です。
祝福メッセージ、随時募集中です!
※バグったのか、修正前の状態で投稿されてました。
前書きで堂々とネタバレもしてしまっており、お詫び申し上げますm(_ _)m




