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★第10話★ ラルゴへの祈り


「アシル様もそうだったんですね。ちょっと安心しました。ありがとうございます」


 肩の力が抜け楽になった。

 そして角笛が鳴ってくれないのもわかった気がした。


 歌えるのに角笛を奏でられないことも——


 私はさっき歌っていた気持ちを思い出す。


 ここ、ラルゴの土地はすばらしい。

 人々のためにここを守りたい。


 何度かお腹からの深呼吸を静かに繰り返し、気持ちを落ち着かせる。


 このラルゴが、厳しくも美しく豊かな土地が、安寧(あんねい)でありますように——


 目を閉じて一心に祈ると心が冴えてくる。


 目を開くと、そこには新緑に包まれた初夏の穏やかなラルゴがあった。


 そして角笛を口に当てる。


 ラルゴに、ここに住まう人々に、恩寵を与えたまえ——


 タンギングで息を吹き込むと音が鳴る。



 久しぶりの感覚——


 管楽器にも似た温かみのある澄んだ音色に喜びがあふれてくる。


 ロングトーンで息の続く限りに吹き鳴らすと、歌っていた時のように心地よい。


 気がつくと私の周囲が白い光に包まれる。

 それが金色へ変わっていく。

 

 神から角笛を下賜された時のように——



 息が切れるまで角笛を吹き唇から離すと、光はゆっくりと消えていった。


 私は角笛を抱きしめる。

 あなたのせいではないのに、散々責めて、恨んで、本当にごめんなさい。

 そしてこんな私を見捨てずに奏でさせてくれて、本当にありがとう。


 角笛に感謝を捧げたあと私は振り向き、アシル様を始めとした方々ににっこりと微笑む。


「皆様のおかげです。本当に、本当に、ありがとうございました……」


 頬をつぅっと涙が伝う。

 アニマ様がゆっくりと拍手を始め、それが全員に広がっていく。

 私は感謝を込めて深く優雅にお辞儀(カーテシー)をした。


 〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜*〜〜〜


 アシル様は、「すんごいね〜。ありがたいものを見ちゃったよ。じゃあ、仕事があるから」と言い戻ろうとする。


 私が用意していたサンドイッチを紙に包み手渡すと、嬉しそうに笑いポケットに突っ込み、また山羊と共に去っていった。


 さすがに脱力し用意してくれていた椅子に腰掛ける。

強い日差しを遮るテントの陰に優しさを感じると、安心したのかお腹がくうっと鳴った。



「ステラ様の腹の虫にも催促されたけん、食事にせんと?あ、食事にしましょうか?」


「そうしましょう、そうしましょう」


 神官アシル様の提案に、角笛奏者のネジル様も乗ってきて食事となる。

 皆の心も晴れやかなようで自然と笑顔がこぼれる。


「そんでも、さっきの光はいつもと違ったっちゃ。

あ、違いましたね。金色でした。驚きました」


「聖女認定式の時もそうでした。最初白い光で金色に変わったんです。それで……」


 大神官様からもお言葉をいただいたことも話しそうになるが、話して良いものか迷いやめておく。


「ほほう。そうだったんですね。

しかし美しかった。いや、光だけでなく、ステラ様がとても美しかった」


「そうですね。失礼かもしれませんが、俺もそう思います」


 護衛騎士の皆様方にも(うなず)かれてしまい、私は恐縮する。


 『醜い心は顔に出るのね』と言われ、学園でも男子生徒には避けられ続けてきた。

 面倒に関わりたくなかったのだろう。


「私などとんでもないことでございます。神の力のおかげでしょう。

ネルジ様、あの、アシル様は本をよくお読みになるのですか?」


 先ほどサンドイッチを渡した時、牧人アシル様のもう片方のポケットには本があった。題名は一部しか見えなかったが有名な詩集だ。


「はい、読めますよ。アシルが話した角笛を教えたおじじは気むずかしかったんですが、集落の子ども達には読み書き算数を教えてくれたんです。

俺とアシルには角笛も。

読み書きができたので、ひょんなことから騎士団に入れてもらえました」


 それならあの言葉遣いも納得だ。農民の人達はもっと荒々しいことが多い。


「そうだったんですね。その、おじじ?様にはぜひお会いしたかったです。孫弟子になるので」


「あはは。おじじも喜びます。聖女様が孫弟子なんて、神の御許(みもと)でびっくりしてるかもしれません」


「いやいや、神に()められているかもしれませんよ」


 アニマ様もお話に加わり楽しい昼食を終え、領都ラルゴに戻ったのは夕方だった。


〜〜*〜〜


 副騎士団長ジョッコ・スケルツァ閣下にあいさつし、角笛が吹けたことを報告すると、言葉は少ないが誠実に祝ってくださる。


「長年のご苦労が実を結び、おめでとうございます」


「お祝い、ありがとうございます。ラルゴのために誠心誠意、努めさせていただきます。

騎士団で重傷者や病人が出た場合はお呼びください。手当てに参ります」


「ほう、もう《癒しの力》で《治癒》を“他者”にかけられたのですか?」


「はい、アニマ様が帰り際、腰が痛いと仰せになり試したところ、《治癒》をかけられました」


「そうなんっちゃ。あ、です。年ですなあ。困っていたのを助けていただきました」


 付き添っていた神官アニマ様も証言してくださる。


「それはさらに喜ばしい」


「神の御技(みわざ)のおかげでございます。

ただ神殿に定められた喜捨をしていただきますが、よろしければ……」


「いえ、とても助かります。その時はお知らせいたしますので、よろしくお願いします」


 私が副団長閣下と話していると、行政補佐官ランザ・クイーロ様が現れる。


「あ!いたいた!聖女ステラ殿!

クラヴィ閣下がお呼びですので、執務室までお越しいただけますか?」


「ラルゴ辺境伯閣下が?」


「ちょっとお聞きしたいことがあるそうです。

あ、角笛、音が出ましたか?」


「はい、無事に。ありがとうございます」


「よかったですね〜。その角笛も持って、アニマ様もご一緒にお願いします」


「かしこまりました」


 私は執務室に呼ばれ、クラヴィ様はランザ様とアニマ様を残して人払いされる。

 そこで、角笛が奏でられたことやアニマ様を《治癒》したことも報告する。



「めでたいことだ。他者への《治癒》もか。

少し確認したいことがある。ここで吹いてもらえるか」


 独立国家に近い領主の命令だ。従うしかない。


「かしこまりました。少々お待ちください」


 私は角笛をケースから取り出していねいに布で拭くと、立ち上がって一礼し、感謝と祈りを捧げながら角笛を奏でる。


 と言ってもロングトーンの音階だ。それでも心を込め、この地の安寧(あんねい)を願いながら奏でる。


 やはり金の光があふれでるが、丘にいた時ほどではなかった。

 最後の一音を吹き終え区切りを付ける。


「申し訳ありません。この角笛にふさわしい楽曲は作曲させていただきます」


「作曲もできるのか。いや、呼んだのは他でもない。

その角笛を吹けたのは何時くらいだった?」


「……そうでございますね。お昼すぎ、午後13時前、といったところでしょうか。アニマ様」


「えぇ、そのころでしょう」


「……そうか。今もそうだった。やはり……」


 考え込む様子にこの方との関わりを最低限にしたい私も、角笛の演奏に関係があるようなので礼儀正しく(たず)ねる。


「ラルゴ辺境伯閣下。角笛の演奏で何かありましたでしょうか。大きな問題でしたら、解決するまで演奏は差し控えます」


「いや、そんなことはない。むしろ、続けて欲しいくらいだ」


「え?」


「あ〜。もうまだろっこしいなあ。

アニマ様なら気づいてるでしょ?領都の結界が強くなってんの」


「ああ、はい。帰ってきた時に壁門で気づきました」


 我が意を得た、とばかりにランザ様がお話になる。


「クラヴィ閣下が言うには、金色の光が結界をうっすら覆ってたんだってさ。俺にはそこまでは見えなかったけど〜。

でも今の聞いたらさすがにわかった。

ステラ殿が角笛を吹くと、なぜか結界が強化されるんだよ。

まあ、ありがたいことだけどね〜。

ステラ殿は消耗したり、疲れて気分が悪くなったりしてないんでしょ?」


ステラがやっと角笛が吹けましたヽ(´▽`)/

無事に前半タイトル回収です。

この先もお楽しみに(*´ー`*) ゞ

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