序章 聖女認定式
「へ?」
白く光り輝く“何か”が中空に現れ、ゆっくりと降りてくる。
室内を照らし、まばゆいほどだ。
差し出していた手のひらに“何か”が触れると、私の全身も光に包まれ、光は金色へ変わる。
ハーフアップにしていた金髪の一本一本までふわりと浮き上がり、揺らめいている。
そして一際輝いたあと、金色の光はすうっと“何か”に吸い込まれるように消え、曲がった円錐形のものが手元に残される。
ここは王都の大神殿——
今日は修行した14歳の聖女候補達が、聖壇へと上がり神の審判を受けていた。
聖女と認められた者には、“聖なる道具”、“聖具”が神から下賜される。
ほとんどが楽器で、奏でることで国や民を厄災から守り、聖女の“癒しの力”も増加される。
“聖具”はフルートやオーボエ、ヴァイオリンなど知られている楽器が多い。
でも、私の手にある、これは、なに?
「あれ、なに?」
「楽器なの?」
ざわつく声が聞こえる。
神官様達も慌てている。
私は壇上から降りるよう促され、“何か”を持ち、言われるがまま、聖壇を降りる。
すると、神官長様に案内された大神官様が、私の目の前に立った。
この国の神殿の頂点に立たれる御方だ。
いつも神殿の奥で祈りを捧げられていらっしゃる。大きな儀式にのみ出席され、こんなに間近でお会いするのは初めてだ。
「ス、ステラ。そのモノをこちらへ」
神官長様が私から“何か”を取り上げ、大神官様へ手渡す。
この成り行きに呆然としていた私はハッと気づき、最高の敬意を込めお辞儀する。
長い銀髪とお鬚の大神官様は、“何か”をじっくりと吟味し、ゆっくり答える。
「これは……、角笛じゃな。儂も実物は初めて見た」
神官長様が恐る恐る確認する。
「大神官様。つの、ぶえ、と言うと、あの、動物のツノでできた、ものでしょうか?山羊や、牛の」
「これはそういった家畜の角ではない。特別な力を感じる」
「さ、さようでございますか」
「うむ……」
重々しく答えた大神官様は、視線を角笛から私に移すと、目を優しく細めじっと見つめられる。
その瞳の奥は、美しい緑と赤の光をたたえた金銀妖瞳だった。
吸い込まれそうで思わず見とれていると、厳かに私の名を尋ねる。
「この“聖具”を吹きこなせるかは、あなた次第だ。
神の“大いなる祝福”を受け、聖女と認められた、あなたのお名前は?」
「ステラ、ステラ・コルピアと申します」
「聖女ステラ殿、今後に期待していますぞ。
では、神官長。儀式の続きを」
「は、はいッ!」
私は呆然としつつも、お辞儀の姿勢をやめ、席に戻る。
私の手には堅くなめらかな白い角笛があった。
大神官様と言葉も交わせたが、聖壇に上がる前の、期待感や高揚感は消え失せていた。
——角笛、角笛って何?どうして?吹きこなすって、どうやって?
まだ頭がグルグルと混乱しているところに、遠慮なく追い討ちがかかる。
「動物のツノですって?」
「ツノってなに?」
「野蛮ですこと」
私は10歳から始まった修行の間、優秀な成績だった。
次の“首席聖女”、現在の聖女達の中で1番の位に就くと、神官様方に思われていたと思う。
実際、口に出して言われたことも、一度や二度ではない。
それは血と汗と涙でできた努力への評価だった。
それだけに、この角笛はどうしたらいいのだろう。
途方に暮れながら、淡々と進む儀式を見ることもなく見る。
すると、私と成績の1、2を争っていたピア様が取り巻きに答えて発言する。
神官様達までには届かず、私には聞こえるほどで、その加減はいつも絶妙だ。
「優秀なピア様でしたら、ツノブエとやらご存知ではなのでは?」
「さあ、でもフルートでもオーボエでもヴァイオリンでもないなら、“首席聖女”はご無理ですわよね」
「ピア様が“首席聖女”に決まってますわ。そしてゆくゆくは大聖女様になられるでしょう」
「そうよ、そうよ」
そう、私が知る限りでも、ここ100年くらいの“首席聖女”の“聖具”はヴァイオリンやフルートが多い。
珍しいものでは、ピッコロや小太鼓、竪琴やトライアングルなどがあるが、こんな角笛は読んだことも聞いたこともない。
どうしていいかわからないまま、儀式は進み、聖女の判定を受けられず、残念そうな方もいれば、“聖具”を下賜される方もいる。
そして最後に聖壇に上られたピア様には、今年初めてのヴァイオリンが下賜され、大神殿は喜びと安堵に包まれる。
まだ戸惑っている私は、聖女候補の方々や神官様方から祝福されるピア様へ、周囲に合わせ拍手を贈っていた。
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王道の恋愛メインの新連載です。最後までがんばります。
(*´ー`*) ゞ
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(*´人`*)