2_記憶の向こう側
再会から数日後の夜、彩香は仕事を終え、帰宅後に湊から送られてきた短いメッセージを眺めていた。
「今日は急な雨だったね。最近、雨の日が少し好きになった気がする。君は元気にしてる?」
画面に浮かぶ湊の文字に、彩香は自然と微笑んだ。
彼との再会以来、胸の奥に小さな灯りがともるような感覚が続いていた。
湊の存在が、どこか懐かしくも心地よかったのだ。
「うん、元気。雨の日にコーヒーでも飲みながら昔の話をするのもいいね。」
そう返信してからふと考える。
中学時代、湊と過ごした日々は、いつも静かで穏やかな時間だった。
放課後の音楽室、帰り道の夕焼け、彼と交わした何気ない会話――。
彩香はその記憶に思わず浸っていた。
翌週末、湊の提案で、二人は再びカフェで会うことになった。
前回と同じ窓際の席。湊はすでに座っていて、彩香を見つけると軽く手を振った。
「今日は晴れてるね。なんだか久しぶりに青空を見た気がするよ。」
湊はそう言いながらコーヒーを口に運んだ。
「確かに。雨も好きだけど、たまにはこんな天気もいいよね。」
会話が弾むうちに、湊がふと懐かしい話を切り出した。
「そういえば、彩香ってピアノ弾くの得意だったよね。あの音楽室、覚えてる?」
「もちろん覚えてるよ。放課後、よく二人で練習したよね。私が弾いて、湊が適当に歌って。」
彩香はくすくすと笑った。
湊は少し照れたように視線を逸らす。
「彩香のピアノ、すごく好きだったな。」
湊の言葉はどこか真剣で、彩香は一瞬言葉を失った。
「ありがとう。でも、あの頃はただ楽しんで弾いてただけ。」
そう答えながらも、彩香の胸には小さな鼓動が響いていた。
湊の記憶の中に、自分のピアノが残っているなんて思いもしなかった。
「また弾いてくれないかな。」
湊の静かな一言が、彩香の心にじんわりと染みた。
その夜、彩香は久しぶりに部屋の隅に置いてあった古い楽譜を開いた。
中学時代によく弾いていた曲が目に飛び込んでくる。
懐かしい旋律が頭の中に蘇り、自然と指が鍵盤の上を動き始めた。
「また弾くなんて思わなかったな…。」
彼女の中で、何かがゆっくりと動き始めていた。
それは過去の記憶だけではなく、再会した湊との未来を想像させるものだった。
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