1_再会の旋律
梅雨の始まりを告げる雨音が街中に響く午後、彩香は駅前の小さなカフェに立ち寄った。
職場での忙しさから少しだけ逃げ出すようにして訪れたこの場所は、彼女にとって心を落ち着かせる特別な場所だった。
窓際の席に座り、彼女はお気に入りのカフェラテが運ばれてくるのを待っていた。
雨粒が窓を伝い、外の景色を曇らせている。
そんな中、カフェのドアが開き、冷たい風とともに一人の男性が入ってきた。
彩香は何気なく目を向けたが、その顔を見た瞬間、息を呑んだ。
「湊…?」
男性――湊も彩香の視線に気づき、一瞬驚いたように目を見開いた後、懐かしそうに微笑んだ。
「彩香…久しぶりだな。」
十年以上ぶりの再会だった。
中学を卒業してから一度も会うことがなかったが、湊の姿は当時の記憶のまま、優しくて落ち着いた雰囲気を纏っていた。
「ここに引っ越してきたの?」
彩香がそう尋ねると、湊はコーヒーを注文しながら頷いた。
「うん。仕事の関係でね。この辺りを散策してたら、偶然このカフェを見つけたんだ。」
二人は並んで座り、近況について語り合った。
湊は東京で忙しい日々を送っていたが、最近転職をきっかけに地元近くの街に戻ることを決めたという。
彩香も、仕事に追われる毎日を送っていることを打ち明けた。
「でもさ、中学のときはもっと自由だったよな。放課後、音楽室でよく遊んだの覚えてる?」
湊が懐かしそうに言った。
「あの音楽室ね…ピアノを弾くのが好きだったな。」
彩香はふっと微笑んだ。
二人の会話は止まることなく、時間があっという間に過ぎていった。
彩香は久しぶりに心が温かくなるのを感じていた。
それは、湊の言葉や仕草が、昔と変わらない優しさを持っていたからだった。
雨が少し弱まったころ、湊が立ち上がった。
「そろそろ行かないと。でも、また会えたのは本当に嬉しいよ。よかったら、また今度会おう。」
そう言いながら湊はスマートフォンを差し出し、連絡先を交換した。
彩香は少し迷ったものの、素直に湊の提案を受け入れた。
カフェを出たあとも、湊の姿が頭から離れなかった。
あの優しい笑顔と声が、心に小さな波紋を広げていく。
彩香はふと窓の外を見上げ、まだ降り続く雨にそっと呟いた。
「また…会えるかな。」
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