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第7話 猫の電車通勤問題

 ――ガタンゴトンガタンゴトン


 猫神殿を抜け出した吾輩は猫の姿に戻って電車に飛び乗った。

 善は急げ。

 向かうはニャコの会社である。

 ちゃんと最寄りの駅から改札を通って、ホームで並んで開いたドアから電車に乗っている。

 吾輩はまだ一歳なので切符は必要ない。


 時刻は『11』を少し過ぎた辺り。

 つまり通勤ラッシュとやらが終わり、昼食の時間にはまだ早い。

 そのような時間だからか電車内はそれなりに空いていた。

 正確には二階席がガラガラで、一階席はそれなりに混んでいる。

 ただ吾輩が座る横長のシートの両端はすっぽりと空いていた。

 人間達は吾輩を遠巻きに注視している。

 見まくっている。

 電車内なのにスマホとやら向けて、許可なく吾輩を撮影している。

 礼儀知らずな人間どもである。

 そんなに電車に乗る猫が珍しいというのか。


 失礼な人間がこれほど多いのだ。

 電車に乗る猫をあまり見かけないのも納得できる。

 これでは乗客猫は増えるはずもない。

 鉄道会社とやらは早急に猫専用車両を設けるべきなのだ。

 さすれば同胞猫達もみゃーみゃーと集まり、溜まり場として活用するであろうに。


 そのような詮のなきことに思考を費やしていると、途中の駅からお腹に子を宿した妊婦とやらが乗ってくるのが見えた。

 近くの一階席で空いているシートは吾輩の周りだけ。

 この人間どもの反応を見るに、吾輩がいては座りにくいのだろう。

 仕方がない。

 ちょうど目が合った妊婦に吾輩から声をかける。


「にゃ〜〜お」


「えっ!? 猫が電車に乗ってる。飼い主は? ケージはないけど首輪はしているみたいだし、もしかして放し飼い?」


 なにやら困惑しているみたいなので、尻尾でペシペシ、右前足をクイクイして招く。


「えっ? えっ? 座れってこと?」


「みゃお」


「頷かれた。……猫に頷かれた。えと、それじゃ失礼して」


「みゃ」


「あなたは行っちゃうの!?」


 妊婦がシートに座るのを確認した吾輩は一階席のシートを降りて、ガラガラの二階席へと跳び上がった。

 ふかふかシートの一階とは違い、すぐ上に天井がある金網の席だ。

 吾輩にはちょうどいいが、人間は寝転ぶ必要があるだろう。

 もしかするとロフトというやつかもしれない。

 人気がないのも理解できた。


 二階席に移っても相変わらず人間の無遠慮な視線とスマホカメラとやらが向けられている。

 もう少し静かにマナーを守って電車に乗れないものだろうか。

 これだからネットやえすえぬえすとやらで火災が起きたり、バズとかいう爆発が絶えない物騒な世の中になるのだ。

 被害を受けるのは吾輩のようにマナーを守る乗客なのだぞ。


 人間のマナーの悪さに辟易していると、ニャコの気配が近づいてきた。

 ふむ……ニャコの職場とやらこの辺りか。

 次の駅で降りよう。

 電車の中はあまり居心地も良くない。


 電車が止まろうとしている。

 ビジネス街とやらが近いのだろう。

 車内のドア付近にスーツとやらを着た人間が数人待機している。

 駅のホームにも電車の到着を待っている人間が大勢いた。

 乗り降りが激しい駅のようだ。

 吾輩がこのままスタスタと歩いて出るのは危険かもしれない。

 人間は自分の足元すら満足に確認できないお粗末な生き物だからな。

 踏んづけられてしまうかもしれない。

 危険だ。

 ただやりようはいくらでもある。


 ドアが開くと吾輩は人間の肩や頭やリュックサックを次々と飛び移った。

 宙を舞いながらホームに華麗な着地を決める。

 そしてそのまま人間どもがなだれ込んでくる前に改札をくぐり抜け軽やかに疾走するのだ。


 猫が電車を使うときは、踏みつぶされないように、車両に乗り降りやホームから改札までの区間の移動を疾走感を持って行う必要がある。

 猫専用車両や猫用の改札などがあればいいのだが、人間の鉄道会社とやらは猫の利用をあまり考慮していないのだろう。

 全く困ったモノだ。


 駅を出た吾輩はニャコの気配がする方向に進もうとした。

 しかし足は勝手に真ん前にある商店街とやらに進んでいた。

 そういえば今日は家を出てからエレベーターに乗り、外で散歩して、猫神殿でプレゼンして、その足で電車に飛び乗って、ニャコの会社近くまで着いたのだ。

 つまり働き詰めである。

 美味しそうな匂いに釣られるのも仕方ないであろう。

 うむ困ったモノだ。



100%趣味で書かれた猫視点の猫小説です。

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