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第1話 吾輩は猫の雪見大福である。

アニセカ応募用作品。

100%趣味で書かれた猫視点の猫小説です。

ブックマークやレビュー、応援コメントをよろしくお願いいたします。

 吾輩は雪見大福である。

 白い猫である。


 人間たちは吾輩をメインクーンと分類するらしい。

 カナダのメイン州に生息するアライグマという意味のようだ。

 勝手に故郷とされているメイン州だが、日本生まれの日本育ちの吾輩とは縁もゆかりも無いのでどうでもいい。


 問題は高貴なる猫である吾輩が、アライグマなどという乱暴者と同一視されていることだ。

 甚だ遺憾である。

 けれど寛容な心でメインクーンと呼ぶことを許している。

 このことからも吾輩は理知的で心優しい猫だとわかるだろう。


 そんな吾輩だが憂いていた。

 猫飼いの結婚事情を憂いていた。

 ほんの少しだけ身体が丸くなったせいで、飼い主のニャコからオヤツのちゅーとろが貰えないことを憂いていた!


 ちゅーとろが貰えないのは最近ニャコが落ち込み気味なのが原因だ。

 断じて最近の吾輩が太り気味などという事実はない。

 ニャコはなんでもアラサーなる呪いにかかってしまったらしい。

 連日残業と呼ばれる重労働を経て、夜遅くにクタクタになりながら帰ってくるニャコだ。

 そんなお疲れモードでもニャコは吾輩を見れば、にこにこ笑顔で「癒して〜」とじゃれついてくる。

 猫ではないが可愛い人間である。

 けれどお酒が入れば「出会いがない」と嘆く日があった。


 仕事とやらは充実しているらしい。

 花形の秘書課という組織に配属されて、推しの氷帝と呼ばれる若きイケメン社長のそばで働けて嬉しい。

 そう悶えているところを目撃してしまったことがある。


 見てはいけないものを見てしまったのだろう。

 吾輩はちゃんと目を逸らした。

 賢明で心優しいできる猫だ。

 見ないふりもできる。

 正直、推しやら氷帝やら悶えるニャコのことはよくわからん。


 出会いとやらが仕事場にあるではないか。

 吾輩はそう思うのだが、氷帝とやらはあくまで観賞用らしい。

 仕事が出来すぎて、自分にも他人にも厳しい。

 少しミスした程度で叱責されることなどはない。


 けれど優しいわけでもない。

 無言で他者を見限って、他の部署に飛ばす常習犯なのだとか。

 だから氷の皇帝で氷帝。

 血も涙もない冷血漢だ。

 そのため秘書課は入れ替わりが激しいらしい。

 ニャコが秘書課に配属されたのはそのおかげだとか。

 人間とは大変である。


 ニャコの愚痴が増えたのは先月の誕生から。

 どうも人間は25歳を過ぎるとアラサーという呪いにかかるらしい。

 25歳とはとても長生きである。

 そういうこともあるだろう。

 いくら仕事が充実していようと、恋人がいないと焦燥感に駆られて悲しくなるのだとか。

 人間とは複雑である。


 ちなみに吾輩のちゅーとろが減ったのはその前からだ。

 ニャコが吾輩を見て、深刻な表情で「ダイエットさせなきゃ。私も一緒に頑張るから」などと言い始めた。

 人間とは失礼である。


 このように人間とは面倒なものだ。

 そしてさらに面倒な現実を吾輩は知ってしまった。

 ニャコのことを他猫事のように眺めていた吾輩は知ってしまった。

 家を一人で守っているときに、適当にテレビをつけていて知ってしまったのだ。


 人間は猫を飼うと結婚しないらしい。

 なんと犬を飼うよりも結婚しないらしい。


 高貴なる家猫として看過できない問題である。

 このままでは家猫の地位が危ない。

 人間の政府とやらが結婚促進のために猫を飼うことを禁止にするかもしれない。

 そうなればちゅーとろも生産されなくなってしまう。


 猫社会では闇ちゅーとろが取引されるようになってしまうだろう。

 来たるギャング猫社会の到来。

 由々しき未来である。

 そのような未来を回避するために、吾輩たち家猫は飼い主の婚活とやら促進しなければいけない。


 婚活とやらがなにか知らないが!


 そうすれば吾輩も毎日ちゅーとろをオヤツとしてもらえるはずだ。

 立ち上がれ同胞たちよ。

 吾輩のちゅーとろのために。


 吾輩は他の猫どもにそんな檄を飛ばすことにした。

 本日のニャコの家を守る仕事を休みにして、お出かけである。


 自慢のねこパンチでロックをカチャンと外す。

 開ける窓は廊下沿いの格子付き窓だ。

 ちゃんと防犯に配慮している。


 爪で引っ掛けて、窓を少しだけずらす。

 吾輩はスリムなのでそんなに広く開ける必要はない。

 ニャコが勘違いしているだけで吾輩はスリムなので、わずかな隙間で十分だ。

 毛の量で錯覚して誤解が生まれているだけなのである。


「……んにゃ!」


 少し気合が入ってしまったが、スリムにスムーズに外に出れたので問題ない。

 窓が先程より開いた気がしたが気の所為である。


 こうして吾輩は猫の王が住まう猫神殿に向かうことにした。

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