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「運営会社からは、権限のない侵入者である可能性が高いと報告されています。現在、接続元を追跡中ですが、これだけ高度な穴抜けです、捕捉できる見込みは薄いでしょう。しかし、茜7号を使用している点については」
「確かであると解析されました」
眼鏡の警官が、説明係の言葉尻を横取りした。
「あなたは茜7号のチップを持っています」
桜井は、レンズの向こうの鋭い視線に串刺しにされた。
「つまり、おわかりですね」
「私が、侵入したとでも……?」
「署までご同行を」
「そんな、馬鹿げています」
心臓が痛むほど脈拍が速くなっていた。
「何の話をされているのか、本当に、意味が……」
桜井は不安から、口元に手を寄せた。
『チップは現在、紛失しています』
「そう、チップは事件の翌日、帰宅すると、なくなっていました」
「どこに隠したのです?」
警官は聞く耳を捨てたようだ。
『任意の同行です。拒絶してください』
蒼月が早口に言った。
「とにかく、仕事に戻らないと」
桜井は立ち上がる。
警官が一人、先回りして扉の前に立ちはだかった。
「退いてください」
巨体を見上げる。
「チップを渡してください」
「仮にあったとして、中身は空っぽで……」
茜7号はそこにいなかった。
いつもそこにいて、どこにもいないーー赤根はそう言っていた。
「そもそもあなたのもとに渡ったのが間違いでした」
眼鏡の警官が座ったまま言った。
「事務的なミスです。完全なる。赤の他人である金崎桐人の遺留品が、あなたに返却されるはずがないのに。しかしながら、あなたは受け取った。なぜです?」
「それは……」
桜井は黙ってしまった。
「事務ミスをした職員は死にました」
警官は口調を変えず、淡々と言った。
「赤根事件で、自死したのです」
桜井は衝撃を受けながらも、警官の次の言葉を容易に想像できた。
「あなたが、そう仕向けたのでは?」
沸点に達した怒りを、桜井は飲み干した。
喉が焼けただれ、溶け落ちた。
桜井は目の前の警官に進言する。
「今すぐそこを退きなさい」
『冷静に』
無実だからこそ。
逃げなければ。
言いくるめられて。
悪に仕立て上げられる。
ウイルスを裁けない人間は、怒りと恐怖を鎮めるための捌け口を求めている。
正義と責任を果たせるスケープゴートを、喉から腕が出るほど欲しているのだ。
「すいませーん」
そのとき、会議室の外から声がして、扉が三度ノックされた。
「資材課の桜井は、そちらにいますか?」
「います!」
桜井は大声で返事をして、警官の巨体を押しのけて外へ出た。
廊下で声の主とぶつかった。
「うわっ。ああ、桜井さん、探したよ」
それは課長の幹島だった。
「あとで話があるから」
幹島は桜井に言うと、会議室内に向き直り、警官二人を睨みつけた。
「まず上司である私に話を通すのが筋でしょう!常識というものを知らないんですか、あなた方は!」
フロア中に響き渡る大音量だった。
「お引き取りください!」
幹島は勢いよく扉を閉めた。
「来る!」
その調子のまま、桜井まで怒鳴られてしまった。