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首の誉  作者: しめさば
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5

「運営会社からは、権限のない侵入者(ハッカー)である可能性が高いと報告されています。現在、接続元を追跡中ですが、これだけ高度な穴抜けです、捕捉できる見込みは薄いでしょう。しかし、茜7号を使用している点については」

「確かであると解析されました」

 眼鏡の警官が、説明係の言葉尻を横取りした。

「あなたは茜7号のチップを持っています」

 桜井は、レンズの向こうの鋭い視線に串刺しにされた。

「つまり、おわかりですね」

「私が、侵入したとでも……?」

「署までご同行を」

「そんな、馬鹿げています」

 心臓が痛むほど脈拍が速くなっていた。

「何の話をされているのか、本当に、意味が……」

 桜井は不安から、口元に手を寄せた。


『チップは現在、紛失しています』

「そう、チップは事件の翌日、帰宅すると、なくなっていました」

「どこに隠したのです?」

 警官は聞く耳を捨てたようだ。

『任意の同行です。拒絶してください』

 蒼月が早口に言った。

「とにかく、仕事に戻らないと」

 桜井は立ち上がる。

 警官が一人、先回りして扉の前に立ちはだかった。

「退いてください」

 巨体を見上げる。

「チップを渡してください」

「仮にあったとして、中身は空っぽで……」

茜7号はそこにいなかった。


いつもそこにいて、どこにもいないーー赤根はそう言っていた。


「そもそもあなたのもとに渡ったのが間違いでした」

 眼鏡の警官が座ったまま言った。

「事務的なミスです。完全なる。赤の他人である金崎桐人の遺留品が、あなたに返却されるはずがないのに。しかしながら、あなたは受け取った。なぜです?」

「それは……」

 桜井は黙ってしまった。

「事務ミスをした職員は死にました」

 警官は口調を変えず、淡々と言った。

「赤根事件で、自死したのです」

 桜井は衝撃を受けながらも、警官の次の言葉を容易に想像できた。

「あなたが、そう仕向けたのでは?」

 沸点に達した怒りを、桜井は飲み干した。

 喉が焼けただれ、溶け落ちた。

 桜井は目の前の警官に進言する。

「今すぐそこを退きなさい」

『冷静に』

 無実だからこそ。

 逃げなければ。

 言いくるめられて。

 悪に仕立て上げられる。


 ウイルスを裁けない人間は、怒りと恐怖を鎮めるための捌け口を求めている。

 正義と責任を果たせるスケープゴートを、喉から腕が出るほど欲しているのだ。


「すいませーん」

 そのとき、会議室の外から声がして、扉が三度ノックされた。

「資材課の桜井は、そちらにいますか?」

「います!」

 桜井は大声で返事をして、警官の巨体を押しのけて外へ出た。

 廊下で声の主とぶつかった。

「うわっ。ああ、桜井さん、探したよ」

 それは課長の幹島(みきしま)だった。

「あとで話があるから」

 幹島は桜井に言うと、会議室内に向き直り、警官二人を睨みつけた。

「まず上司である私に話を通すのが筋でしょう!常識というものを知らないんですか、あなた方は!」

 フロア中に響き渡る大音量だった。

「お引き取りください!」

 幹島は勢いよく扉を閉めた。

「来る!」

 その調子のまま、桜井まで怒鳴られてしまった。

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