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「桜井さーん、警察の人が来てるよー」
仕事中に、同僚の男が桜井を呼びに来た。
「警察?」
髪の薄い男はニタニタ笑っている。
「何か悪いことでもしたの?」
隣で作業をしていた黒江が神妙に言った。
「してませんよ」
桜井はわざとらしく言った。
「ふーん」
「あはは、捕まったら、もう会えなくなっちゃうかな」
男は下衆な笑みを浮かべて去っていった。
『ここの人にしては珍しいね、首が綺麗でよ』
いつか言われた言葉を思い出した。
男の後ろ姿を眺め、首元を見る。
シャツの襟が少し黒ずんでいるくらいで、いたって普通の首だった。
うなじにチップは見えない。
保護皮膚に覆われているからだ。
「ちょっと、行って来ます」
「はーい、がんばー」
黒江は興味無さそうに、屈んで背を向けたままだった。
その首元を注視する。
黒江のうなじは綺麗だった。
「何見てるの?」
桜井の心臓は跳ねた。
「え、いや」
「早く行きな?」
彼は全てを飲み込み、そそくさとその場から立ち去った。