2
「元気そうで何より、また飲もうや」
「ああ、また」
電話を切ろうとすると、宍戸が慌てて言った。
「待った、待った。嫁さん、まだ実家か?」
「いや、帰ってきたよ」
「家族がいると『また』が『いつか』になっちまうんだ。今週末、金曜の夜は?」
「多分、大丈夫。聞いてみるけど」
「俺、真剣に婚活頑張ろうと思ってさ。お前に色々と相談したいんだ」
「それは聞く相手を間違ってるな」
「切実なんだ、とりあえず開けといてくれ」
今度は宍戸の方から忙しなく電話を切られた。
***
「行って来なよ」
妻は嫌な顔ひとつせず言った。
「弱ってるときに助けてくれた友達なんだから、大事にしな」
「ありがとう」
いいことを言ったのに、妻の視線はすぐにテレビに移った。
彼女にとっては、当たり前のことを言ったに過ぎないのかもしれない。
「この人、奥さん誰だっけ」
画面では、芸能人の不倫がニュースになっていた。
「たしか、女優の、ほら」
「あー、あの、おっぱいの大きい?」
「……そこ?」
妻の機嫌を損ねるのは一瞬のようだった。
***
「アハハ、君も男の子だね」
黒江はコンテナを軽々運びながら笑った。
「奥さんはあれだな、きっと凄くコンプレックスなんだ」
ひとりで納得した様子で、頷いている。
「そういうわけなので、金曜日は早めに上がらせてください」
桜井は冗談ぽく会釈をした。
「上司は私じゃないよ」
黒江は、親指を背中に向けて指す。
その先には統括責任者が立って、誰かと話していた。
「課長には後で言います」
「そっか、金曜日の残業は君なしか。寂しいな」
言って黒江は目を伏せた。
「黒江さんも、たまには早く帰ったらどうです?」
「うちは働かないと。金のかかるおチビが二人もいるからさ」
「おいくつですか」
「18と20」
「おチビって年齢じゃないですね」
「他人事じゃないぞ。君も頑張れよ、二人目」
黒江は何かジェスチャーをしたが、一瞬すぎてわからなかった。