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首の誉  作者: しめさば
2/15

2

「元気そうで何より、また飲もうや」

「ああ、また」

 電話を切ろうとすると、宍戸が慌てて言った。

「待った、待った。嫁さん、まだ実家か?」

「いや、帰ってきたよ」

「家族がいると『また』が『いつか』になっちまうんだ。今週末、金曜の夜は?」

「多分、大丈夫。聞いてみるけど」

「俺、真剣に婚活頑張ろうと思ってさ。お前に色々と相談したいんだ」

「それは聞く相手を間違ってるな」

「切実なんだ、とりあえず開けといてくれ」

 今度は宍戸の方から忙しなく電話を切られた。


 ***


「行って来なよ」

 妻は嫌な顔ひとつせず言った。

「弱ってるときに助けてくれた友達なんだから、大事にしな」

「ありがとう」

 いいことを言ったのに、妻の視線はすぐにテレビに移った。

 彼女にとっては、当たり前のことを言ったに過ぎないのかもしれない。

「この人、奥さん誰だっけ」

 画面では、芸能人の不倫がニュースになっていた。

「たしか、女優の、ほら」

「あー、あの、おっぱいの大きい?」

「……そこ?」

 妻の機嫌を損ねるのは一瞬のようだった。


 ***


「アハハ、君も男の子だね」

 黒江はコンテナを軽々運びながら笑った。

「奥さんはあれだな、きっと凄くコンプレックスなんだ」

 ひとりで納得した様子で、頷いている。

「そういうわけなので、金曜日は早めに上がらせてください」

 桜井は冗談ぽく会釈をした。

「上司は私じゃないよ」

 黒江は、親指を背中に向けて指す。

 その先には統括責任者が立って、誰かと話していた。

「課長には後で言います」

「そっか、金曜日の残業は君なしか。寂しいな」

 言って黒江は目を伏せた。

「黒江さんも、たまには早く帰ったらどうです?」

「うちは働かないと。金のかかるおチビが二人もいるからさ」

「おいくつですか」

「18と20」

「おチビって年齢じゃないですね」

「他人事じゃないぞ。君も頑張れよ、二人目」

 黒江は何かジェスチャーをしたが、一瞬すぎてわからなかった。


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