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第88羽♡ 戦慄! 白花学園死天王の巻


 さくらに家まで送ってもらい晩御飯を食べた後のこと。

 俺が不在の間にリナがやった期末テスト予想問題の採点する。

 

 テーブルの正面にはリナがちんまりと座り結果を待っている。

 採点を終えた俺は赤ペンを静かに置く。


「なぁ愛しの妹よ」

「何ですかな? わたしの兄ちゃん様」


「前回の結果を踏まえ、今回はだいぶ前から試験対策をしてるよね。俺もできる限りはサポートしてるつもり」

「うむ。そうですな」


「じゃあ、なんで予想問題『楓ちゃんのここテストで出るからね♡ウルトラDX一学年期末編』の結果がこんなにも残念なの?」


 国語33点、数学28点、英語31点、化学22点、世界史39点、なおテストは各教科本番と同様に200点満点だったりする。

 言うまでもなく超危険水位だ。


「そ、それは……この予想問題が難しすぎるんじゃないかな、おほほほっ」

「俺は全教科7割から8割取れたけど」


「さすがですわ兄様♡」

「さすがですわ兄様じゃねーわ。マジやべーぞ妹!」


「くっ……たまたまできたくらいで調子に乗ってるんじゃね~ぞ!ゴラァあああ! じゃあ兄ちゃんはさくらや楓ちゃんに勝てるのかぁあ? あぁ!?」


 義妹もどきのくせに逆ギレしやがった。

 なんと小生意気な……でもかわいいじゃねーか。


「そりゃ無理だけど」


「やーい、兄ちゃんもヘタレ、ざーこざーこ♡

 わたしバカじゃないもん!

 白花のテストが難しすぎるのがいけないんだょおおお! ちっきしょー!」


「うん。それは俺も思う」


 白花学園高等部は都内でも屈指の進学校だ。

 毎年、某最高学府への現役合格者は50人を超える。

 つまり学年トップ50はそのまま全国トップクラスの実力がある。

 

 そんな白花では教科書に書いてあることは知ってて当たり前、テスト問題は応用しか出題されないスタンス、一問一問が難しい。

 

 恐らくリナも俺も普通の高校なら、ここまで苦労しないと思う。

 とは言え白花に在学している以上、ついていけるように頑張るしかない。


「わたしは中学まで学年3位の優等生だったんだぞ!」

「でもリナの中学って1学年18人くらいだろ? それも小学校から同じ顔ぶれで俺も知ってるヤツばっかだし」


「15人だボケぇ――! たまには連絡してあげて。兄ちゃんが都会でやさぐれてないか心配してるよ」

「そういや去年の夏、久しぶり皆と会って連絡先交換したな。最近忙しいからあまり連絡してない」


「うわぁ~兄ちゃんのいけず~そんなに()()()と連絡するのが嫌なのか?」

「昔の女なんていないし、というかテスト勉強の話からいつの間に脱線してるし」


「あ~なかったことにした。これだから男は……」

「はぁ……あの時は黙ってて悪かったよ。でも本当に何もなかったから」

 

「それは知ってる。でもわたしは昔の女の親友だからさ『負けっぱなしなのはしゃくだからかたきをとってくれ』って頼まれてるわけよ」


「だから()()()じゃなくて()()()()だから」

「は~い。じゃあそーゆーことにしておく」


「今度帰省したらあいつにも説教するからな。でもこのままだとリナの夏休みは帰省できず、補習三昧で終わるけど」


「それは嫌ぁ! 高一の夏は人生に一度きりだよ。夏をはじけるプリンセスになりたいわけよ!」


「じゃあ残り一週間は死に物狂いで頑張れや。でもな俺本当はわかってるんだ。リナが悪いじゃなくて俺の教え方が良くない、ごめんな力不足で」


「うんうん、兄ちゃんが全面的に悪い。でもわたしは良い子だから許そうぞ」


 ポンコツのくせに急に偉そうな態度になる、かわいい義妹もどき。

  

 ――よし、今日もあっさり罠にひっかかったな。

 やーい、ざーこざーこ♡


「そこで今回は家庭教師を付けることにしました。明日から我が家に日替わりで素敵な講師がいらっしゃいます」


「おぉ花ざかりの超イケメン大学生軍団か?」

「いや……泣く子も羊たちも戦艦も沈黙するデストロイ上等な白花学園死天王よ!」


「白花学園死天王? 何だそれ?」

「月明かり、放課後、癒し、櫻花おうかの四翼で構成された最強の講師陣だ」


「ちょい待ち、月明かり、放課後、癒しはともかく櫻花だけはパスだよパス」

「何でだ? さくらは学年一位だぞ」


「兄ちゃんはさくらの恐ろしさを全然わかってない。

 いつもパワハラにもモラハラにもならないぎりぎりのラインでわたしをいじってくるの」


「ほう……例えば?」


「部活の時、微妙にわたしが届かない少し長いパスを出して『あら~届くと思ったんだけど、足が短いのね』とか」


「ふむ」


「お昼ご飯をもきゅもきゅしてたら『いつもたくさん食べるのになかなか大きくならないわねぇ……まぁリナは小さいままでもかわいいと思うわ』

とか」


「ふむふむ」


「あげくこの前の小テストなんて『間違えるところなんてあった? 25点って……テスト中に異世界転移してたのかしら?』とか言いやがって! むきぃいいいい!」


 義妹もどきが地団駄を踏んでる。

 かわいいじゃねーか。

 リナとさくらの普段はやっぱそんな感じなのね。


「なるほどな……でも、さくらのキック精度は高いだろ、試合だとほとんどブレないし練習では本番に備えリナがどの辺までなら届くか試してると思う。あと兄ちゃんもリナには大きくなってほしいけど小さいままでもかわいいと思う。最後に小テスト25点は普通にマズいだろ!」


「むぅ……ガチなド正論で論破するなよ兄ちゃん……皆に教えてもらうのは嬉しいけどさ、テストまで日がないし悪いよ」


「あの四人はテスト勉強なんて今日の段階でほとんど終わってるよ。既にOKを貰ってる。俺はテスト4日前までバイトあるし、そんな訳で明日から頑張れよ」


「やだぁああああ――!」


 少女の断末魔は空しく響き渡る。

 

 諦めなさい妹よ。

 祈りなさい我らが白花学園死天王を。

 

 さすれば道は開かれる……かもしれない。

 

 それではいざデストロイ!

 

 

 こうして翌日の放課後からリナの猛勉強ライフは始まった。

 さくらの日は予想通りかなり大変だったらしい。

 

 ただし大魔王さくらたんよりもはるかに強い隠れボスが潜んでいた。

 隠れボスの名はいつも物腰の柔らかい『月明かりの天使』こと望月楓。

 

 あまりの過酷さからテストが終わった後もリナの夢には毎晩のように楓が出てきたらしい。


 起きている時も髪の毛はボサボサのまま目の下にはクマがあり膝を抱えたまま部屋の隅で何やらブツブツ呟いてる。

  

 ……ごめんなリナ。

 こうなることはわかってた。

 楓さんは勉強に対して真摯で一切妥協を許さないから。

 

 でも俺は楓さんのしごきのおかげで白花学園高等部に入学できたんだぜ。

 まれに吐血しながらだったけど……。

 

 今でもたまに見るんだ。


 笑顔の楓さんが『また間違えたの? じゃあもう一度最初からやろうか、でも次はないよ』と目をギラリとさせ死刑宣告をする夢を……。

 

 そんな時に俺はこうして月明かりの天使に許しを請うんだ。 


 ごめんなさい。

 ごめんなさい。

 マジでごめんなさい。

 

 申し訳ございません。

 すみません。

 次は間違えません。


 だからお願いです。

 どうか許してください。

 

 目が覚めるとシーツはいつもびちょびちょに濡れてて、息は切れている。

 

 本当に怖いものは悪魔でも幽霊でもなく可憐な美少女の姿をしている。


  

 愛する妹へ


 この度は一生もののトラウマを作ってしまい申し訳ございません。

 

 でもね生き地獄を知っている仲間が一人増えて兄ちゃんはちょっとだけ嬉しかったりします。

 

 あの恐怖を一人で抱えたまま、生きていくのはあまりに辛いから。

 

 まぁほんとごめんなさい。てへぺろん

お越しいただき誠にありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  文武両道! トップ校で落ちこぼれずついていくのは大変なのですね…。部活もあるでしょうから、更に……。  さくらはリナのことをよく把握しているのですね。  いえ、きっとリナに限らず、なの…
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