第47羽♡ 前園さんのこと教えて(下)
「そこは言わんでいい」
「じゃあスリーサイズだけど上から……」
「あんまり変わってないし、むしろもっと刺激的になってるし、言うなよ」
「え、本当に言わなくていいのか? まさか直接触って測らせろってこと?
それは困るなぁ……こういう時って大きい声出せば良いんだっけ?
ヤッホーじゃなくて、えーと誰か~助け……」
「よせ~」
「……むぐぐ!?」
とっさに前園の口を塞いだ。
誰かが見たら犯罪チックなことをしているように見えるかもしれない。
リナを止める時の要領で前園に触れてしまった。
薄いピンク色の唇がとても柔らかい。
これはいかん――塞いだ口から手を慌てて離す。
「びっくりした……口からご飯が飛び出ちゃうよ」
「すまん……そういうじゃなくて、もっと普通の自己紹介的なやつを」
「自己紹介なら入学式の後クラスでやったよ」
「記憶にない。恐らく寝てた」
「オレのは話は聞きたくないってことか。悲しいな~」
「あの日は単純に眠かったから。前日の夜に春アニメ第一話を一気見してたし」
「入学式前によくやるなぁ」
「入学式より春アニメの方が大切だし」
「マジで? 高校の入学式は一生に一度なのに、オレの自己紹介ねぇ……名前は前園凛」
「それは知ってる…」
「五月十二日生まれ、おうし座AB型」
「誕生日過ぎてたんだな……すまん」
「スウェーデンと日本のハーフ、今は母さんと二人暮らし、父さんとは会ったことがない」
「北欧系って聞いてたけどスウェーデンなんだな。
家族構成はうちと似てるな。言いずらいことは言わなくていいぞ」
「スリーサイズは上から順にEの……」
「だから絶対に言うなよ! 絶対だからな! 熱々のお風呂の話じゃないからな!」
「七歳まで海外を転々としてた。長かったのはカナダとアメリカ」
「いろんな国に住んだことがあるのか、羨ましいな」
「帰国した後はしばらく子役として芸能活動してた。でも芽が出ず二年ちょいで引退」
「それは残念だな……」
前園の容姿なら元芸能人と言われても何の違和感もない。
今だって原宿や渋谷を三十分も歩けば、必ずスカウトされそう。
「一本だけテレビドラマで良い役を貰って、後は舞台を少々と
子供服ブランドのモデルをやった程度だから、恐らく誰も知らないと思う」
「一度でもドラマに出てるなら十分凄いだろ」
「そうだけどドラマは外国人の女の子役だったし、選ばれやすかっただけだと思う。
他のオーディションは全然ダメだったし」
「芸能界って大変なんだな前園でもダメなんて」
「いや単純にオレの実力不足だよ、この容姿もネックだったみたい……いつもオーディションで演技以前に外観が役のイメージに合わないって言われたし」
薄い金と銀の中間色の様な髪、空の様な蒼の瞳で真っ白な肌、
長い手足のモデル体型、女の子の誰もが憧れそうな完璧な容姿。
ハーフだから日本的な要素も幾分か含まれているように感じるけど、一般的な日本人のイメージとは大きく違う。
ドラマの設定が普通の日本家庭なら、前園が出演してる場合、違和感を感じるかもしれない。
「物心ついた頃にはこの顔が自分だったし、
ついでに外国で暮らしてただけなんだけどな。
母さんはプロカメラマンをやってるんだけど、
数年前までは全然売れてなくて、長らく貧乏暮らしだった。
いよいよ生活がヤバくなってきた時に、
海外より日本の方が仕事がありそうだからって慌てて帰国したんだけど、
日本でもあんまり変わらなくて。
ある日、母さんの仕事について行ったら、
その場に居合わせた小さな芸能事務所の関係者にスカウトされて
そのままタレントになったんだ。
お金も貰えるって言ってたから生活費の足しになるかなって」
「偉いな。小さい頃からそんなこと考えてたなんて」
「母さんと美味しいものを沢山食べれるって思ったんだよ。
普段の晩御飯はおかずが一品の日が多かったし。
少しは親孝行できるかなって。
さっきも言った通りオーディションはいつも落ちるし、
たまに仕事を貰えても事務所に手数料やレッスン料とか引かれるから、
お金はあんまり入ってこなかったよ。
そんな生活が小学校五年生まで続いて、
ある日突然母さんの写真が売れるようになって生活にも困らなくなった。
オレがタレントを続ける理由もなくなったから
引退して中学受験して白花に入ったってわけ」
「前園はやっぱ凄いな……」
「オレには緒方の方が凄そう人生を送ってそうだけど、今現在も五人の同級生女子と女子に人気が高いイケメン水野をエッチな奴隷にしようと画策中という噂が……
そしてソシャゲのギルド内でもオレや広田と三角関係」
「そんな不届きな噂は信じないでください。特に水野は絶対ないから!
あとギルド連中の誤解を解くの協力しろ!
でもまぁ……前園のこと少しはわかった気がする」
「なら良かった。オレもまだ緒方のことを知らないことだらけだけど、
これからもよろしく」
俺と前園を埋めるにはまだまだ時間が必要みたいだ。
「少し長話になったな、食べ終わったし山頂を目指すか」
「そうだな」
荷物を片した俺たちは再び中尾山山頂を目指す。
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