第45羽♡ 天使じゃない普通の女の子だから
「ところでさくらは緒方にサッカーをやってることを何で黙ってんだろ?」
「ピアノとか空手とかサッカー以外にも色々習い事してたからな、俺に言うのを忘れたか、言うほどのことでもないと思ったとか、特に深い理由はないじゃないかな」
「そうかな~じゃあ妹ちゃんは緒方とさくらが知り合いなのを知った時どうだった?」
「憮然としてな……中学三年間で対外試合や代表強化合宿とかで何度も顔合わせてたみたいだし、それにライバル関係だけじゃなくて、あのふたりは日頃から仲良いだろ。
そんなさくらが俺と知り合いなんて普通は思わないだろ」
田舎育ちのリナとお嬢様のさくらは何故か気が合うようだ。
クラスも部活も同じなのもあるかもしれないけど、いつも一緒にいるし代表の強化合宿でも同部屋らしい。
互いをディスりあって喜んでいる。ディスりが行き過ぎた時は宮姫がふたりの間に入ってなだめるけど、しばらくすると、またディスりあってキャッキャッしてる。
「何でしばらくさくらに会ってやらなかったんだ? 中学時代はふたりとも東京にいたわけだろ。会おうと思えばすぐに会えたんじゃないのか」
「さくらの連絡先を知らなかったんだよ……小学校の頃はいつも親父に連れられてさくらの家に行ってたし、俺は中三までスマートフォンを持ってなかったから」
「親父さんに聞けば、連絡する方法はあっただろ」
前園の言うとおりだ。
連絡を取ろうと思えばいつでもできた。
さくらのことも、ずっと引っかかっていた。
大人の都合とは言え、将来結婚の約束をしてしまった女の子。
気にならない訳がない。
「というか妹ちゃんもさくらも緒方を追いかけてうちの学校に来たんだよな?」
「リナは実家から通えるエリアに女子サッカー部がある高校がなかったから、俺の家に下宿して白花に通うことになっただけだよ。
さくらはリナと一緒にサッカーをするために白花に来たって言ってた」
「それだけか?」
「あぁ」
「うーん」
前園が渋い顔をする。
恐らく全然納得してない。
リナの実力なら日本中の強豪校からスカウトが来てただろうし、女子サッカー部があると言っても強豪ではない白花である理由はない。
サッカー選手としてのキャリアを考えるなら、もっと良い選択があったはずだ。
さくらも幼児舎から大学院まである名門三条院女学院から白花に学校を変える必要がない。
サッカーも中学まで所属していたクラブに高校年代のクラスで継続して活動できたはず。
俺はふたりに白花に来た理由を細かく聞いていない。
自惚れるわけじゃないけど、ふたりが今白花にいる理由に、俺が全く関係していないとも思っていない。
前園が言いたいのはそんなところだろう。
「しかし緒方はモテるよな……男子達に僻まれるのも仕方ないかも、そう言えばオレもこの前クラスの女子に『緒方君と付き合ってるの?』って聞かれたぞ!
もちろん違うって言ったけど、付き合ってるって言ったらどうなってたかな?」
「恐らくその日のうちに、前園ファンに俺はタコ殴りにされて、最終的には『大罪人』と書かれたプラカードを首からぶら下げて白花学園の時計塔に貼り付けにされるだろうな」
「流石にそれはないだろ」
「あるよ。前園凜は『放課後の天使』って呼ばれる学校のアイドルなんだぞ」
「全然天使なんかじゃないのに……周りにはどう映るのか知らないけど前園凜も普通の女の子だから、好きな人が酷い目に合いそうになったら、全力で守りたいし、できればどこまでも逃げてずっと一緒にいたいと思うはずだよ。昔も今も……」
俺に顔を向けずにそう告げる。
その言葉は誰に向けての言葉だろう。
何かを悔いているように聞こえた。
「なんてな、今のところだけど彼氏をほしいと思ったことはないよ。
ある日突然、欲しくなるのかもしれないけど、男はよくわからないしな。
でも彼女なら欲しい、特に楓やさくらや妹ちゃんみたいなかわいい子ならいつでも大歓迎」
「前園が言うと本当に三人とも彼女になりそうだよ」
「だからないって! 皆が欲しいのも彼氏だろ、それも特別な誰かさん、さて山頂までもう少しだけど、あそこの休憩所で一休みしようぜ」
もう少し登ったところに、切り開かれていて、望遠鏡やベンチが設置されているところが見える。
登山を始めて四十分ほど経ったところで、俺達は最初の休憩をとることにした。
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