幕間7♡ 宮姫すずはどうしてもキスがしたい
※「第53羽♡ 緒方ノックダウン」の裏話になります。
どうしよう。
キスがしたい。
キスがしたい。
……キスがしたいよ……緒方君。
6月中旬、週明け月曜日の朝。
宮姫すずは、教室の窓から曇り空を見上げながら、ひとり悶々としていた。
今は疎遠になっている親友の前園凜が、幼馴染の緒方霞と二日前の土曜日、二人きりで出かけた。
事実上のデートだ。
その事実だけでも落ち着かないのに、今日は緒方霞が体調不良のため学校を休んだ。どうやら、土曜に凜と出かけた際、雨に濡れたのが原因で風邪をひいたらしい。
緒方霞と宮姫すずの間にはノルマという名のルールがある。
本人たちの意思は関係なく、会った日は緒方霞とキスをしないといけない。
霞とは、幼馴染だが最後に会ったのは6歳の時で、高等部入学と同時に10年ぶりに再会した。
……ノルマも始めた頃は、嫌で仕方なかった。
しかし、学園に行けば隣のクラスに緒方霞はいる。
休みの日を除けば、ほとんど毎日のように、誰にも悟られず、校舎の影で隠れてキスをしなければならなかった。そして、スマホで撮り、とある宛先にキス写真を送る。
そんなおかしな日々を数か月に渡って過ごしていたら、キスをすることの方が当たり前になった。
逆にキスをしないと歯磨きをするのを忘れた時のように気持ち悪い。
だから、ふたりは毎日、唇を重ねた。
……時には大胆に。
カップルではないのに普通のカップルより、ここ数か月のトータル回数は多いかもしれない。
「もし、お凛ちゃんと緒方君が二人きりの時にキスをしてたら……」
そう思うだけで、この土日は、気が気でなかった。
霞には、何度かRIMEを送ったが、踏み込んだことまでは訊けなかった。
そして、昨日からRIMEでの返事が悪くなっていた。
当人は昨日午後から体調が悪く、寝込んでいただけに過ぎないが、すずの疑心暗鬼を引き立てるには十分だった。
翌日も緒方君とお凛ちゃんは二人きりでいたのかもしれない。
そして、自分のRIMEメッセージを無視して二人で唇を重ねて……
そんなことを考えていたから昨晩は、ほとんど眠れなかった。
おぼろげに見た夢もあまり良いものじゃなかった気がする。
……寝起きには愛犬のボーダーコリーのエリーが「すずちゃん大丈夫?」と顔を覗き込んでいた。
どうやら、ひどい顔をしていたらしい。
「今日は早めにノルマを済ませよう。特に問題ないよね。これは仕方ないことだし」
何か理由をつけて、霞を1時間目の終了後に人の少ない校舎裏に呼び出すつもりだった。
……そして、凜を忘れるように、自分のキスを上書きするつもりだった。
ところが肝心の霞が学校を休んでしまった。
◇
――放課後、すずはバスケ部の練習を休み、お見舞いをするため、霞の家に向かった。
楓、凜、莉菜、さくらとのじゃんけん対決の末、なんとか、お見舞いの権利を勝ち取った。
ガッツポーズしそうなほど、嬉しかったが、何とか表情を殺した。
そして、「じゃあ、行ってくるね」とさりげなく、4人の前を離れた。
なお、すずの内心は、他の4人にバレバレだった。
足取りはスキップするように軽やかで、通り過ぎた人が振り返るほど満面の笑みだったことに、本人は気づいていない。
霞のお世話ができること。
そして、ノルマをこなせること。
それだけで、すずの胸はいっぱいだった。
6歳の頃、霞に会えなくなった日を最後に、心に鍵をかけたはずの気持ちは、もうとっくに、解錠されていた。
……だが、すずはまだ気づいていない。
なお、この日のノルマがいつも以上に、激しくなったのは言うまでもない。
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