第254羽♡ 不幸せな明日
「何のため堕天使遊戯を行い、俺だけでなく楓たちを巻き込んだ?」
天使メールを使い、非公式生徒会の指示に従わせる。
俺たちは秘密を握られており、背くことはできなかった。
「もちろんシナリオに従ってもらうためだよ」
リナは慌てる様子はない。
それどころか、俺をあざ笑うように余裕の笑みを浮かべている。
「そのためなら、何をしても良いっていうのか?」
「多少は我慢してもらわないと、酷いとは思うよ。でも、これは皆のためだから」
一方、俺は徐々に語気が粗くなっていく。
全く揺らがないリナに、俺は押されていた。
「皆のためって……宮姫のノルマは酷過ぎるだろ!」
緒方霞と宮姫すずは、会った日は必ずキスをして、証拠写真を非公式生徒会に送らなければならない。
こんなことを何カ月も続けてきた。宮姫がつらくないはずがない。
「すずは嫌がってなかったでしょ?」
「気を使って、顔には出さないでくれただけだよ」
「ねぇ、それ、本気で言っているの? お姫様のすーちゃんは、10年前にいなくなった王子様のかーくんをずっと待っていたんだよ」
「仮にそうだとしても、誰かの命令ですることじゃないだろ」
「このままだと、すずが死んじゃうとしても?」
「そんなことあるわけないだろ!」
窓の外の雨よりも冷たい視線を俺に向ける。
まるで、俺の覚悟を確かめるように……。
「そうだね、さすがに言い過ぎたよ。でも心が壊れたら、死ぬのと同じくらいつらいよ、シナリオを見た緒方君なら、わかるよね? この先で待つすずの運命を」
……知っているよ。
宮姫すずは間もなく大切なものを全て失い、絶望する。
そして、暗い病室の中で、一人生涯を終える。
救いのない人生だった。
だけど……
もうそうならないし、させない。
「俺が村に残らず東京に戻ったことで、因果は大きく変わった、あの結果にはならない」
「元々のルートとは遠くなったのは確かだよ。でも、因果は残っている。だから、贖おうとしても同じ結末に向かうよ」
「……いや、それはない。もう悲しい明日は来ない。今、午後1時24分14秒だ、この意味がわかるか?」
「緒方君、何を言っているの?」
リナは冷静なままだ。
だが、先ほどまでと違い、余裕の笑みが一瞬だけ消えた。
「因果が変わったんだよ、これで高山莉菜も8月1日に連れていける。俺が村に残ってたら7月31日午後0時07分を超えられなかった。東京にいる場合は午後1時23分、だから何度も演算をして答えを探した」
因果の壁と呼ぶべきものは、全て7月31日の時刻に設定されている。
これを越えなければならなかった。
「……そ、そんなことできるわけが」
「できるんだよ、……そっか、非公式生徒会を作ったのはお前じゃないな?」
「違う! 全部わたしが」
「利用されているだけだよ。シナリオを全て知らされてない」
「そ、そんなの嘘だ! わたしがやったの! 非公式生徒会と堕天使遊戯を用意した、何年も何年も前から……兄ちゃんのために!」
嘘をついている様子はない。
リナは俺のためだと思い、時には非情なことをしてきた。
恐らく本来の自分の行く末も知っている。
でも肝心なことを知らない。
リナのもう一枚向こうに本当の黒幕がいる。
「非公式生徒会の知るシナリオでは、今日11時に緒方霞に高山莉菜が告白された場合、どうなった? 緒方霞が他の4人の天使いずれかに告白した場合は? 恐らく誰を選んでもBAD ENDだったんじゃないか?」
「そうだよ、でも兄ちゃんには、少しだけ幸せな時がくる。空っぽになるはずだった人生よりずっといいはずだよ!」
「じゃあ、緒方霞が全員にフラれた場合は?」
「何も変わらない。でも……誰も幸せになれない」
「それが、ダウトだよ。何も変わらないように見せるための……」
俺の知るシナリオでも5人の天使の誰を選んでもBAD ENDだった。
手を取った天使以外、他の4人が不幸になる。
また、選んだ天使でさえも遠からず不幸が訪れる。
抗えない運命だった。
そんなもの許容できないから、全てに背いた。
選択肢全てをBAD ENDに見せかける仕組みを超えた。
5人の天使をすべて幸せにするために……
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