第250羽♡ 天使と嘘つきの午後
――7月31日、月曜日、午前10時57分。
天気は快晴、ただし、午後からは雷雨の可能性あり。
窓の向こうに見える真夏の空はどこまでも澄んでいて、雨が降りそうな気配はどこにもない。
だが、必ず雨が降る。
……もう決まっていることだから。
カタン・カタンと木の音が響く螺旋階段を登り、第二校舎三階の屋上出口まで来た。
錆びたドアは、いつもなら鍵が掛かっている。
今日は鍵を持っている前園か宮姫のどちらかが、開けてくれているはずだ。
このドアの向こうに行けば、もう後戻りはできない。
あの朝から4年は経っただろうか、
……いや40年、それとも50年か?
どちらも違う。
この記憶は俺のものであって、俺のものじゃない、だから4年が正解だ。
今日ですべてが終わる。堕天使遊戯も非公式生徒会も……。
終わった後、明日からの俺はどうなるのだろう。
いや……8月以降にやることは決まっている。まず明日は、アイドルのカスミンとしてDreamLatte初ライブがある。
だけど、明日が永遠に来ない気がする。
今日で世界が終わるわけでもないのに、どうしてそう思うのだろう。
「……今考えることじゃないな、人を待たせてるし」
ギィイという錆びた音と共に屋上出口のドアを開ける。
廊下が薄暗かったせいか、7月の眩しい太陽に視界が奪われ、ゴォオンという街の音とミーンミーンという蝉の声だけが耳に届く。
視界が徐々に戻ると、空の青さと白い入道雲が広がる。
屋上に一つだけある青のベンチのそばに、白花学園の夏服に身を包む5人の天使たちがいた。
光に包まれた天使たちの背には、それぞれ大きな翼があるようだった。
「真夏の昼間に、こんなところに呼び出すなんてどうかしてるわ」
フィアンセ様は、今日も絶好調だ。
いつもきついことを言うが、誰より優しくて繊細な女の子だったりする。
「悪いさくら、他に人が少ないところが思い浮かばなかったから」
「用って何? 暑いから早くしてね」
人前だと幼馴染のすーちゃんはいつも素っ気ない。
ふたりだけの時は、そうでもないし、俺はいつもすーちゃんのことが気になる。
「宮姫、早めに終わらせるよ」
「いよいよですな兄さま、ぐふふふっ」
困ったことにうちの義妹もどきは宇宙一かわいい。
とても手が掛かるけど、俺は面倒だと思ったことが一度もない。
「なぁリナ、もう少し女子高生らしい笑い方できない?」
「緒方、話があるんだけど、オレの自由と尊厳について」
クラス一のイケメン女子の言うことはいつも突拍子もない。
でも楽しくて、一緒にいるだけでワクワクする。
「前園、後で話を聞くからちょっとだけ待ってもらっていい?」
「カスミ、わたしたちはいつだって親友だからね」
この親友がいるから俺は今この場にいる。
感謝してもしきれない。
「ありがとう楓、今日も親友でいてくれて」
「うん」
楓がにっこりと微笑む。
一昨日も会ったはずなのに、久しぶりな気がする。
この季節は、あまり花粉が飛んでいないので花粉対策眼鏡は不要だ。
いつの頃かこの眼鏡は、花粉対策ではなく、嘘つきが素顔を隠すために必要なフィルターになっていた。
だけど今日はいらない。
本当のことを言わないといけないから……
「なぁ、聞いて欲しい」
俺は眼鏡を外し、ズボンの左ポケットにしまう。
そして、一度呼吸を整えてから――
「好きです、俺と付き合ってください」
そう告げ、頭を下げ、右手を差し出す。
周囲には蝉の声と街の音だけが聞こえる。
16歳になった今日7月31日は、まだ半分も終わっていない……
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