第249羽♡ ネコミミ魔女の豚バラ契約
「何で当たり前のように、学園にいるの?」
「ボクは白花の生徒だし、別に変じゃないだろ」
「わざわざ夏休みに?」
「……正直に言うとお金がない、園内にいれば余計な光熱費が掛からないし」
「元芸能人であんなに売れっ子だったから稼いでいたのでは?」
「たまに言われるけど……売れても、急にギャラは上がらないから、事務所が先行投資でお金かけたとか、売れなくなっても毎月安定した額を払うとか言われて抑えられるんだ」
「意外と世知難い世界なんだね」
「まぁね、確かに芸能活動最後の一年は、多めに貰っていたさ。出演本数も多かったから、でも、今のままだと大学3年くらいで貯金がスッカラカンになる」
「それ、やばくない?」
「だから先日、一か八かの投資をしたら、大学の学費一年分くらいが一瞬で消えた」
「何やってるの!? もっと堅実に生きようよ」
「言われなくてもわかってるよ! よく調べて、これなら絶対大丈夫だと思ったんだよ! そうしたら……」
ひきつった笑顔のあとに、うなだれる。
ドラマで見たギャンブル狂と同じようなことを言っている。
「……で、本当のところは?」
「ん?」
「今ここにいる理由だよ、毎日来ているわけじゃないだろ」
本題から反らそうとするが、風見さんのペースに乗るわけにはいかない。
風見刹那が、たとえあのカナちゃんだろうと、非公式生徒会疑惑がある以上、慎重にならざるを得ない。
「今日11時から第二校舎屋上で面白いイベントがあると聞いてね」
その一言で俺の緊張感は一気に上がった。
「どこで聞いたの?」
「心配しなくても、キミの大切な天使たちからじゃないから」
……やはり油断できない。
俺は楓、リナ、前園、宮姫、さくらの5人しか11時からのことを伝えてない。
風見さんの言う通り、5人が口を割ってなくても、どこから話が漏れたのか気になる。
「あいつらの仲間なの?」
「……仮にそうだとしたら、キミの前に現れないかな」
「じゃあ、違うとして目的は?」
「せっかくの夏休みだけどボクは暇なんだよ、今は仕事もないからね、だからこうしてピアノ室の片隅で、たまに聞こえてくる噂に耳を傾けているだけだ、目的なんてないよ」
「俺の敵ではないってことでいい?」
「多分だけどね……でも、簡単に信じない方が身のためだ、広田君が言うようにボクは魔女だからね」
信じてと言ったり、信じるなと言ったり、風見刹那の言動は一貫性がない。
本音はいつも霧の中にある。
なら……
「信じるよカナちゃん、ずっと待っていてくれたから」
「いいのかい? ボクはスキャンダルで芸能界を追われたあの遠野奏多だよ」
「信じる、風見刹那も遠野奏多も」
……まだ疑念はある。
でも、わざと遠ざけようとするのは彼女なりの誠意では。
「キミ、騙されやすいだろ、でも……いいな」
彼女は少しだけ柔らかな笑顔を浮かべた。
「どうして柊木夏蔵のところに行くように俺を仕向けた?」
「まだ質問タイムかい? 逆だよ、緒方君には柊木君には関わるなと言ったよね」
「他に手がかりがない俺は、柊木に会いに行くしかないだろ?」
「そうだね……でもボクが彼等で、警告を無視されたら、制裁を加えると思わなかった?」
「多少は……だけど、恐らくそれはない、わざわざ俺に言う必要のないし、やつらの立場なら、もっとズルいやり方が、いくらでもある」
「知りたいことはわかった?」
「おかげさまで、まさかと思ってたことが確信に変わったよ」
「それは良かった。ボクからもキミに質問があるんだけど、いい?」
「あぁ、もちろん」
「11時からのイベントはゲームと関係あるのかい?」
「いや、私的なことだけど」
「同級生女子を5人も集めて?」
「そうだよ、伝えなきゃいけないことがあって」
「……覗きに行っていい?」
「ダメに決まってるじゃん」
「ケチだなぁ、減るもんじゃないだろ? ねっ、お願い」
「だーめ、そういう問題じゃない、でも、どうせどこかで見てるでしょ?」
「否定はしないよ。じゃあ、とりあえず頑張ってカスミ君」
「ありがとう、じゃあまた、カナちゃん」
俺は第二ピアノ室から立ち去ろうとした、が――
「……ちょっと待って!」
「まだなんかあるの?」
「ほら、11時までまだ時間ある、もう少し話をしようよ」
「別にいいけど、何を?」
「……あっ、そうそう、この動くネコミミ、中古で買わない? 昔のよしみもあるしスペシャルプライス14,000円でどうだろう?」
風見さんはどこからともなく、先日、甘口カレー研究会の部室で付けていたネコミミを取り出し、なぜかセールスを始めた。
「使い道ないからいらない」
「あるよ、カスミンの時とかに」
「だから何でその話も知っているんだよ! カスミンの時だって使わないから」
「え~この動くネコミミ、19,800円もしたのに……この前の緒方君と広田君のリアクションがうすかった、しょんぼり……」
「いきなりネコミミ姿を見せられてもこっちが困るよ!」
先ほどの投資の件と合わせて、今回のネコミミの件、恐らく風見さんはお金の使い方が下手なタイプだ。誰かがお金の管理をしないと危ない気がする。
「さっきも言ったけど家計が厳しくて、今晩のおかずが3日連続で、もやしと豆腐とカイワレ大根になる、ボクだってたまには豚バラが食べたいんだよ」
「そうだ、ネコミミはユーズドショップとかに売りに行ったら?」
「多分、二束三文になっちゃう」
「だったら、最初から買わなければよかったのに」
「でも、キミたちが喜んでくれると思ったから……」
「何とかしてあげたいけど、ここのところ、出費が多いから無理」
「じゃあ、10回の分割払いでどうだい? 今なら遠野奏多のサインも付ける。現役の頃も滅多にサインしなかったからレアだよ」
「……ううん、いらない」
「えっ……嘘だろ!? あっ、わかったぞ、さてはキミ、ボクが今履いているパンツを狙ってるだろ? 前園さんや高山さんのだけじゃ飽きたらず……くっ、なんて強欲なんだ」
「だから何でその話も知っているんだよ? あと二人から俺、パンツ貰ってないからね!」
「でも、下着を渡したことが週刊誌にバレたら、またスキャンダルに……でも豚バラは食べたいし」
「ちょっと風見さん、話を聞いて!」
「……わかった緒方君、分割払い+脱ぎパンで手を打とう」
「打たなくていいから」
こうして俺は、風見さんから動くネコミミ(ボイス連動タイプ)を押し売りされた。
結局、脱ぎパンとサインは貰わなかった。
それでも、彼女の笑顔だけは、なぜか記憶に残った。
惜しいとは思ってない……いや、本当に。
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