第247羽♡ ある研究者の副産物
それが彼の手元に届いた時には、基礎理論は90%まで完成していた。
残念ながら、前任者から直接引き継げなかったため、ブラックボックスがあったものの時間さえかければ解決できると思っていた。
――だが、そうはいかなかった。
苦闘の日々は四半世紀も続いた。
未解決部分が残り3%となったところで、彼はあることに気付いた。
前任者が止めたのは、残り10%の時点だった。
この10%を解決しても、答えが出ないことをわかっていたから、そこで敢えて止めたのだと。
――彼は絶望した。
流れた月日が徒労だったということではない。
過去の過ちを正す方法がなくなったからだ。
自暴自棄になった彼は、これまでの研究結果を全て初期化しようとした。
こんなものはいらない。
あの日々が戻ってこないなら、何の意味もない。
ただし、彼の研究成果は宝の山だった。
それらは、彼が望んだものではないが、世界が欲しがるものだった。
その一部を売却し、彼は研究資金に充てていた。
中には良くない買い手もいたが、彼にはどうでもよかった。
しかし、そんな日々も今日で終わりだ……。
――そう思った。
だが、神か悪魔かどちらかわからないが、人ならざる者は彼を見捨てなかった。
10年前にサブシステムに割り当てていた研究があった。
彼は忘れていたが、システムは忘れていなかった。
来る日も来る日も演算を続け、ついに捻じれた悪魔の尻尾を掴んだ。
手繰り寄せると、それは彼の理解を嘲笑うかのように、網の目のように広がっており、一つ一つが因果と繋がっていた。
こうして彼は未踏の観測不能領域へのアクセスを得たことで、因果の最適解を導き出す方法を見つけた。
――だが、まだ問題が残っていた。
分岐は、観測限界を超えるとまではいかないが幾重にも重なっており、それらを追いかけるには多大な時間をかけるしかなかった。
彼は残りの人生を、それらを解析し、新たに紡ぐことにすべてを捧げることとなった……
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