第242羽♡ シスコン兄ちゃんとシスコン兄さん
「で、話とは?」
柊木夏蔵がやや不機嫌な顔を、俺に向ける。
ここは区内総合病院の中庭で、時刻は午前11時前ということもあり、外は蒸し暑く、できれば他の場所が良かったが、院内は人であふれており、他に良い場所がなかった。
「非公式生徒会について知っていることを教えて欲しい」
「何も知らない……ミーティングソフト改修の依頼元がたまたま非公式生徒会だっただけだ」
「じゃあ非公式生徒会の関係者と会ったことも?」
「ない、連絡は全てメール、アプリの受け渡しはレンタルストレージを使った」
「今、連絡取る方法は?」
「それもない、あいつらのメールアドレスは捨てアカウントだろう」
恐らく非公式生徒会が俺宛に送ってくるメールアドレスと同じで、海外のサービスやサーバーを使い分け、足が付かない様にしていたのだろう。
「なぁ柊木は、俺のこと知ってる?」
「知らん」
「1-Bの緒方だけど」
「聞いてもわからん、学園内の男の名前は3人も憶えてない」
「実は俺、学園内で女の敵とか鬼畜とか散々言われてて」
「何をしたんだお前は? まぁそんなことはどうでもいい、二度とウチの妹に近づくな」
「茉莉ちゃんには何もしてないから、それより陰キャ同士友達になろうよ、ジークフリード君」
「俺のことジークフリードって呼ぶなぁ!」
柊木茉莉ミアと同じようにミドルネームが柊木夏蔵にも付いていた。
柊木夏蔵ジークフリード……それが柊木夏蔵の本名だった。
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「お願いです、緒方先輩、ド陰キャ厨二病友達ゼロで、ひねくれもの兄さんと友達になってください。もし、なってもらえるならメス奴隷でも、都合のいい女でも何でもなります」
「茉莉ちゃん、自分を安売りするようなことは言わない方がいい、後ね、隣の宮姫さんが、さっきから凄い目で俺を睨むからさ、はははっ」
「どうすれば兄さんの友達に? やっぱりマネーですか? わたしあんまり持ってなくて、でもご心配なく、手持ちのものを売ってでも用意しますので」
「大丈夫だから、もちろん無料だよ! 早速だけど、お兄さんを借りていい? ここだと宮姫さんが……」
「緒方君、わたしが何?」
宮姫がギロりと睨む。
怖いよ……ぴえん。
緒方霞は、かーくんの頃からすーちゃんには絶対逆らえないようにできている。
だからそんな目で見ないでほしい。
「柊木と話している間、茉莉ちゃんとガールズトークしてて」
「わかった、じゃあ行ってくれば」
「ありがとう、そんなわけで柊木、ちょっと付き合ってくれ」
「どんなわけだ? 俺はお前に用はない」
「人生初の友達ゲットのチャンスだよ! 頑張って、ジークフリード兄さん」
「ん? ジークフリードって?」
「兄さんの名前です」
「ひょっとして、そう呼べって強制されているとか?」
さっき茉莉ちゃんが、ド陰キャ厨二病って言っていた。
妹に妄想で付けた名前を呼ばせているなら、かなりハイレベルな厨二だ、俺でもやらない。
「違います。柊木夏蔵ジークフリードが兄さんの本名です。設定ではなくマジもんです……それにしてもこの顔で、ジークフリードって……似合わなすぎ……ぷっ」
茉莉ちゃんは腹を抱えて笑い出す。
「おいミア、余計なこと言うなぁああ!」
「せ、先輩……ジークフリード兄さんをよろしく……ダメっ、がまんできない」
言い終える前に、茉莉ちゃんは再び笑い出す。宮姫も釣られて一緒に笑い出してしまったため、かわいそうなジークフリード兄さんを病室の外に連れ出した。
「おい、お前、離せ」
「ここにいるよりはマシだと思う、外に行こうよ、ジークフリード兄さん」
「その名で呼ぶなぁアアーー!」
ジークフリード兄さんが絶叫すると、院内で俺たちに白い目が向けられる。
申し訳ないと言った面持ちで、すごすごと外に出て、今に至る。
さて、重要参考人である柊木夏蔵を中庭に連れてきたまではいいが、気心のしれていない男同士は、どうにも話が弾まない。
柊木は、変わらず愛想なく、機嫌も悪いし、俺もコミュ力がある方でもない。
「なぁ柊木」
「なんだ? まだ話があるのか?」
「まだ禄に話をしてないだろ、ところで妹さんかわいいな」
「なんだお前、やっぱり妹狙いなのか? 絶対にやらんぞ!」
「違うって、実は俺にも妹がいてさ、すごく良い子でかわいいけど、最近、何を考えているかわからなくて……しかも、悩んでるみたいで、恐らく非公式生徒会が関わっていると思う」
「そんな都合のいい話、信じられるか! 嘘に決まっている」
「嘘じゃない、名前は高山莉菜、1-Aで俺たちと同じ学年だ、ほら、この写真の子、見たことないか?」
ポケットからスマホを出し、以前、制服姿のリナと撮った写真を見せる。
……特別な写真ではない。
いつものように朝ご飯を食べ終わった後、キッチンで皿を洗っていたら、リナが近づいてきて一枚だけ写真を撮ると、「いってきます」とだけ残し、朝練に行ってしまった。
しばらくすると「兄ちゃん大好き」というメッセージと共に、RIMEに写真が届いた。
これが俺にとって守るべき大切な日常だ。
「……この子は知っている、サッカーが上手な子だろ」
「あぁ」
「でも、全然似てないな」
「妹って言っても、実際は親戚の子だから、でも、一緒に暮らしてきたし、実の妹と同じ、いや、それ以上にリナを大切に思ってるよ」
「……ウチと同じだな、ミアは養子で血は繋がっていない、だが俺にとって、たった一人の大切な妹だ」
そう言うと、柊木の表情が柔らかくなったように感じた。
「柊木ってシスコンだろ」
「それはお互い様だ」
「なぁウチの妹さ、すっごいブラコンで困ってるんだけど」
「でも、かまってくれなくなったら泣くんだろ?」
「三日三晩は確実にな、てなわけで、ちょっとだけ協力してくれないかな、シスコン兄さん」
「……しょうがないな」
どうやら観念したらしい柊木はニヤリと笑う。
「じゃあ、まずAI研のPCに残っていた、このデータだけど……」
こうして俺は、柊木夏蔵から非公式生徒会に関する重要な証言を手に入れた。
それは、仮説が真実に変わる重要なものだった。
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