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優しいだけの嘘つきは今日もラブコメを演じる ~幼馴染、義妹、婚約者、金髪碧眼、親友に迫られてます! 俺? ごくごく普通の陰キャモブですが……  作者: なつの夕凪
~第一章 天使同盟編~

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第239羽♡ 眠る街の眠れぬ少女たち


 ――7月29日日曜日午後6時45分。

 

 DreamLatte(ドリームラテ)のダンスレッスン後、わたしは葵ちゃんと仕上げのストレッチを行う。

 ダンスが一番うまい加恋さんは、一足先に上がった。

 

 「先輩、随分と日焼けしましたね」

 「昨日は外を歩き回ったから」

 

 「ダメですよ、アイドルは基本、日焼け厳禁です。どうしても焼く場合は、運営と相談です」

 「そうだよね……店長に謝らないと」

 

 アイドルは、世界観を守らなければならない。

 

 世界観から外れないように、普段から細心の注意を払う必要がある。

 

 日焼けだけでなく、髪型を変える場合やピアスホールを開ける場合も、事務所と要相談だ。

 

 昨日は炎天下の中で、リナを探すため、村を歩き回った。

 しかも、日焼け止めも塗らず、帽子も日傘も使わなかった。


 普段は気を使うのに、全然気にしてなかった。


 「でも、何かやりきったって顔してますね」

 「そう見える?」

 

 リナを見つけられなかったら、わたしは一生後悔しただろう。

 日焼けしたことはアイドルとしては失格かもしれない、でも自分の選択に後悔はない。

 

 「今日の先輩、いつもよりボーイッシュに見えますね」

 

 (……ボーイッシュも何も、元々男だからね)

 

 「そうかな? 普段のわたしってどんな感じ?」

 「図書室で大人しく本を読んでて、あの子きれいだねって、周囲に言われてそうです」

 

 図書室にはあまり行かない。

 教室の自席で、休み時間、一人で寝ているのが緒方霞の日常。

 

 ……自分ではよくわからないけど、カスミンと緒方霞は、イメージが大きく違うみたいだ。

 

 「……少しだけ失礼しますね」

 「えっ!?」

 

 黒翡翠のような澄んだ瞳が、間近30cm未満の距離でわたしの顔を覗き込む。

 イタズラ好きの猫のような葵ちゃんの唇が僅かに動くだけでドキドキする。

 

 

 

 

 

 

 「好きです先輩……3番目に」




 「えっえぇーーー!? あ、ありがとう、わたしも葵ちゃんのこと大好きだよ」

 

 (さ……3番目なら、普通の友達だよね……)

 

 

 「ところで先輩って、もしかして……」

 「は、はい!?」

 

 (……ひょっとして男ってバレた? 今日は、ちゃんとカスミンが出来てないのかな?!)

 

 葵ちゃんは男の人が苦手らしい。

 ディ・ドリームでも、アイドルプロジェクト内でも、わたしが男だということは厳重なかん口令が敷かれている。

 

 デビューが迫ったこの大事な時期に、葵ちゃんにバレたら大変なことになる。

 

 (お願い、わたしを見ないで)


 「背が高くて顔も整っているから、前園さんみたいなイケメン路線でもいいと思います」

 

 (……良かった、違ったみたい)

 

 「凛ちゃんみたいな振る舞いは、わたしには無理だよ」


 「そうですね、今のままの先輩が一番だと私も思います、でも、前園さんよりカスミン先輩の方がアイドルに向いてると思いますよ。なんとなく押したくなりますから」

 

 「ありがと。わたしは葵ちゃんが一番だと思うよ、歌も上手いし、振付を憶えるのは早いし」

 

 「前もアイドルグループ研究生をやってたから、慣れてるだけですよ」

 

 「そうなんだ、だから上手いんだね」

 

 「残念ながら、わたしはニセモノでしたけどね、さて……そろそろ、上がりましょう」

 

 「え? それどういう……」

 

 わたしが全部言い終える前に、葵ちゃんは、レッスンルームを出てしまった。

 ニセモノという言葉が何を指しているのか気になるけど、聞いてはいけないのかもしれない。


 ……この時、踏み込めなかったことを、わたしは後々、後悔する。

 

 

  ♠~♡~♦~♧~♠~♡~♦~♧~

  

 ダンススタジオを出ると、先に上がったはずの加恋さんがわたしたちを待っていた。

 

 「お疲れさま、ごめん、ちょっと話があるんだけど良いかな?」

 「あ、はい、大丈夫ですけど。わたしたち、ふたりに?」

 

 「ううん、カスミンだけ、ごめん葵ちゃん、カスミン借りていい?」

 「どうぞ、じゃあ先輩、加恋さんのエスコートをお願いします」

 

 「うん」

 「あ、先輩、その前に……」

 

 「えっ?」

 

 加恋さんに聞こえない小声で、葵ちゃんが耳打ちする。


 「先輩がバイト休んでいる間、加恋さんが一人二役で頑張ってました、旦那さんが留守の家を守る健気な奥さんって感じでね、だから、ちゃんとお礼をしてくださいよ」

 

 「わかった、教えてくれてありがと」


 「では、カスミン先輩、加恋さん、おやすみなさい。また明日」

 

 「おやすみ葵ちゃん」

 「葵ちゃん、またね」

 

 葵ちゃんが、見えなくなるまで、わたしと加恋さんは手を振り見送った。

 

 「……じゃあ行こっか、歩きながら話すよ」

 「はい」

 

 

 ……夜の街をふたりで歩き出す。

 

 ふと、視線を落とすと加恋さんの左手小指にこの前、わたしがプレゼントしたリングが光っているのが見えた。

 

 大したものではないけど、気に入ってくれたなら嬉しい。


 

 あの頃のわたしは、加恋さんの気持ちも、葵ちゃんの言葉の意味も、何一つ届いていなかった。

 

 ……夜の街は知らんぷりして、静かに眠っていく。

 

 わたしたちは、まだ眠れない……


お越しいただき誠にありがとうございます。


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