第237羽♡ 高山ァァアアーー! 逃げ場ねぇぞ、おい!
――7月29日日曜日午後2時06分。
東京に戻って来た俺とリナは大ピンチだった。
駅のホームには、なぜかサングラスをかけた楓、前園、宮姫、さくらと赤城家使用人の皆さんが待ち伏せしていた。
「日中気温30度超えてるのに、ワガママお嬢様の一存で、黒スーツ着せられてる」
「使用人の皆さんのこと? 確かに暑そうだ、でもアレ、皆さんノリノリでやってるらしいぞ」
「え、そうなの?」
「前に聞いたら、お嬢様は突拍子のないこと考えるから飽きません、って言ってた」
「皆さん、聖人かよ!? まぁ、それなら良いとして、緒方君、ここは君に任せた」
「高山さん、ひょっとして、一人で逃げようとしてる?」
「違う、ここは妹として兄に華を持たせるべきかと」
「そんな気遣いはいらん」
「それにわたしは今、足を負傷しているし、満足に戦えない」
「俺なんか万全の状態でも、さくらのワンパンで宇宙の塵になるが」
「なら仕方ない、ここは共同作戦で行こう、それぞれ別の降車口から出る」
「ふむ」
「兄ちゃんの担当は、さくら、楓ちゃん、すず、赤城家グラサン黒服軍の皆さん、わたしが凛ちゃんってことで」
「ちょっと待て、俺の担当が多すぎるだろ」
「しゃーないやん。わたしは一般ピープルだから、ブチ切れたすずが怖いし、さくらのワンパンで絶命するし、楓ちゃんの剛拳でも絶命する、オーライ?」
「オーライじゃねーわ!」
「そう言ってくれるな、わたしとて、兄ちゃんに任せるのは忍びない、だから凛ちゃんの相手を引き受けてるやん、では達者でな、アディオス!」
「だから待てや、やっぱお前、自分だけ助かろうとしてるだろ」
「そんなことないぞよ!」
「お前、気付いているだろ!? 才色兼備でSSRな前園凜が実はただのポンコツだってことに」
「何言ってるの? あの凛ちゃんがポンコツな訳ないやん、メンタルがくそザコなだけだよ」
「……やっぱ気づいてるし」
「だってよぅ……あんな乙女なところを見せられたら、そりゃーねぇ」
「……だよなぁ」
「しかもこの前、凛ちゃんとお風呂に入った時、新たな弱点を見つけてしまった」
「弱点? 何だそれ!?」
「ちょっとだけ恥ずかしいところ♡ ぐへへっ」
「……それ前園じゃなくても、ダメでは?」
「うむ、そうかもしれんな」
「……どこかは敢えて聞かないでおく、それより、さくらが無駄話してないで、さっさと出て来いやゴラァ!って感じで、右手親指で何かジェスチャーしてる」
「ふっ、全くせっかちなお嬢さんだぜ、じゃあ行こうぞ兄上、そして我々地獄兄妹の恐ろしさをグラサン黒服軍団に見せてやろう! キッシャァ~!」
「……リナちゃん? 他の人も見ているから、声のボリュームを下げようね」
「そんなの関係ねぇ~! キッシャァ~!」
「あれれ? リナちゃん反抗期かな? ど、どうしよう? お兄ちゃん困っちゃうなぁ、はははっ……はぁ」
♠~♡~♦~♧~♠~♡~♦~♧~
俺とリナは抵抗することなく、赤城グラサン黒服軍に投降した。
そしてそのまま、外神田の貸会議室がある喫茶店に連行され、尋問タイムになった。
左からグラサン軍団最高幹部のさくら、宮姫、前園、楓が陣取り、俺とリナは机を挟んで反対側に座らせられた。
さくらは、グラサンを外すことなく無言のまま、運ばれてきた紅茶を一口飲む。
「……何か言い残すことはあるかしら?」
「あのさくらさん……何で開口一番、死罪確定な感じなんですか!?」
「死罪なんてことはないわ、斬首、絞首刑、磔刑のいずれかにする前の確認よ」
「それ、全部ひっくるめて死罪ですよね!?」
「そうだったかしら、さっそく試してみる?」
「試しません、勘弁してください!」
「リナちゃんと緒方君が、急に出かけちゃったから、みんな心配してたんだよ」
「ごめんすず、ちょっと色々あって」
グラサン宮姫が心配そうに言うと、リナが申し訳なさそうに答えた。
「妹ちゃんは何かしらの事情があって家を出た、そして緒方が追いかけた……こんな感じ?」
腕組みしたグラサン前園がコーヒーを飲まないままに告げる。
「そうそう、大体合っている」
「おかしいわね……東京から離れ、わたしたちの目が届かないところで、現地ファーストフード店でゲットした少女の家に外泊する緒方君が確認されている……ほら、この通り」
さくらの提示した写真には、俺がセナとアパートの外階段を登る様子と、部屋に入るところが激写されていた。
(こ、これは一体!? もしかして、また当たり前のように俺、尾行されてるの?!)
(ねぇさくらたん、もう尾行付けないって約束だったよね!? がっつりやってるじゃん!)
「緒方君サイテ―、今すぐ活火山の火口目掛けてダイブして」
「あの……宮姫さん、火山も勝手にダイブされたら、迷惑だと思うな……ははは」
グラサンで見えないが、恐らく害虫を見るような視線を俺に向けているのだろうことは、想像がつく。
だが、俺は幼馴染のすーちゃんこと宮姫すずにキレられることに慣れている。
そもそも緒方霞のパーソナリティは、すーちゃんに合わせてカスタムされたと言っても過言ではない。
だから、すーちゃんに怒鳴られても、脳内では自動的にご褒美に変換される。
……と言うわけで、ごめんすーちゃん。
俺、すーちゃんに罵倒されると喜ぶドMブタヤローになったかもしれない。
「知らない女の子をゲット……それに外泊……ふふふっ」
「楓さん? ――ひぃい?!」
ぽつりぽつりと囁いた後に、グラサン楓から絶対零度の暗黒オーラが噴き出した。
――怖い、怖すぎる。
オーラだけで、裏稼業のヒットマン100人は始末できそう。
(マズい、このままだと俺は16歳の誕生日を迎える前に、虹の向こうに還ることに……そ、そうだ!)
「その写真の子、小学校の同級生だからあやしくないよ、お、おーいリナ、お前からも説明してくれないか」
「……兄ちゃん、セナの家に泊まったこと、わたし聞いてない」
「へっ?」
……確かに言ってない気がする。
「酷いよ……信じてたのに」
「ちょっと待てリナ、何か誤解してる」
「酷いわねカスミ君」
「緒方、それはないなぁ」
「緒方君、やっぱり火口ダイブして」
「……カスミ、わたしは信じるよ」
「あ、ありがとう楓、さすが俺の親友……って、本当はご立腹でなくて?」
「ん……何が?」
楓はニコニコしている。
ただし暗黒オーラの密度が明らかに上がっていた。
「……な、何でもないです!」
クロ判定される条件が揃い過ぎている。
しかも、リナと俺、グラサン少女4人の2対4の構図から、いつの間にか俺対リナ+グラサン4人の構図に変わってる。
「反論はない? カスミ君」
「……したいところですが、その前に一つお願いが」
「あら、何かしら?」
「さくら、楓、リナ、宮姫、それから前園、明後日7月31日の午前11時、第二校舎屋上に来てほしい、大事な話がある」
明後日が無事に過ぎれば、
後はどうなってもかまわない……
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