第228羽♡ 元カノと義妹と夏祭り (#12 祈り)
「ところで、何でセナと一緒にいるの?」
「カスミが困ってそうだから、リナを探すのを手伝ってた」
「本当にそれだけ?」
「うん」
「そう……ありがとうセナ……悪いけど、わたし緒方君と話があるのだ、先に帰ってもらっていい?」
「それはダメ」
「どうして?」
「ふたりがなんとなく心配だから」
「別にケンカしないよ」
「でも、また無理難題をカスミに押し付けそう」
「だから、そんなことしないのだ」
「じゃあどうして何も言わずに、東京の家を飛び出したの?」
「違う、ちゃんとメモ書き残してきたし」
「メモじゃなくて直接言えば良いことでしょ、わざわざカスミがいない時間に帰省する必要もないよね。スマホの電源を落としてたのも、心配させるためでしょ」
「違うもん! ていうか、わたしがどうしようとセナには関係ないでしょ!」
「な、なぁセナ、俺が勝手に追いかけて来ただけだからそれくらいに……」
何となく不穏な空気を感じた俺はふたりの間に割って入る。
ところが……。
「カスミは黙ってて!」
「緒方君は黙ってて!」
「……はい」
セナとリナに同時に怒られた。
「……関係あるよ、わたしはカスミとリナの友達で、ずっとふたりを見てきたんだから」
「違うね、セナはわたしと緒方君の邪魔をしたいだけでしょ」
「……そうじゃないよ」
「わたしと緒方君の間に、勝手に入ってこないで」
「じゃあ聞くけど、カスミはリナと付き合っているの?」
「えっ? い、いや……もちろん違うけど」
セナからの思いがけない問いを、俺は慌てて否定する。
「なら、わたしもリナも今は変わらないってことだよね……聞いてリナ、カスミに告白したよ、返事はまだもらえてないけど」
「えっ!? どうしてそんなことしたの?」
「思ってたことを、ただ伝えただけだよ」
「わたし、やめてって言ったよね! セナだってわかったって言ってたじゃん!」
「あの時はね、でも気が変わったの」
「――ひどいよ! あんなにお願いしたのに!」
「……だからずっと我慢してた」
「わたしには兄ちゃんしかいないの! 取ろうとしないでよ!」
「……わたしだってもうカスミしかいないよ」
「セナには竜二がいるでしょ! セナのことちゃんとわかってくれるの竜二だけだよ!」
「竜二はわたしを見てくれたし、優しくしてくれた……でも、わたしはカスミが好きなの」
「そんなの、ただのワガママだよ!」
「そうだね……でもリナがカスミを独り占めにしようとするのも同じだよ」
「違う、わたしは兄ちゃんを幸せにするために」
「だったら、わたしがカスミを幸せにしてみせる」
「ダメ! 兄ちゃんは誰にも渡さないから」
「悪いけど聞けない」
「……じゃあ、わかってもらう」
「そう、やってみたら?」
「お、おい、いい加減にしろふたりとも」
俺が止めに入るより先に、リナが飛び上がり、セナに襲い掛かる。
そのままセナを押し倒した上で馬乗りになり、右頬をパーン!と平手打ちした。
「やめろリナ!」
一歩遅れた俺は、リナを羽交い絞めにし、セナから離す。
「離してよ兄ちゃん!」
「離さない、落ち着けリナ!」
セナは、畳の上に倒れたまま、右頬を抑えて虚ろな目で俺たちを見据える。
「……痛いよ……ごめん、約束守れなくて、でも……もう無理だったの、ずっと伝えたくて……伝えられなくて……だから」
その言葉は懺悔のように響いた。
「うっ……わぁあああ――ん!!」
リナは堰を切ったように、大きな声を上げて泣き出した。
古いブラウン管テレビは、相変わらず全国高校野球選手権の中継が流れている。先ほど、試合が終わったばかりなのに、いつの間にかグラウンド整備を終え、両校ナインがダイヤモンドに整列している。もう少しで次の試合が始まりそうだ。
視線をセナに戻すと、右頬に手を当てたまま、目を赤くし、薄っすらと涙を浮かべている。 羽交い絞めにしていたリナを離すと、そのまま畳の上にへたり込み、泣き続けている。
リナの声とテレビの音と交わる様に、外から聞こえる蜩の声が混じる。
俺は、自身の不甲斐なさにただただ苛立ちを覚えていた。
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すみません。
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