第222羽♡ 元カノと義妹と夏祭り (#6 ふたりで洗いっこ?)
深夜アニメを見ていると稀にオトナな男女の際どいシーンがある。
しかし、公共の電波にありのまま流すことはできないので、肝心なところは謎の光がかかっていたり、音声だけになったりで視聴者の想像にお任せだったりする。
どう思うかは個人の自由。
何かあったかもしれないし、なかったかもしれない。
ただし、次話でヒロインが赤ちゃんを抱いているとちきしょう、結局やることやってるじゃねーか。リア充は爆発しろ! となる。
現実世界で主人公になれない俺たち陰キャは主人公キャラを最終話まで呪い続け、それでも腹の虫が収まらない場合は、某老舗動画サイトで、断末魔のような弾幕を張り続ける。これこそ正しき非リア充の在り方であり、わびさびの心でもある。
とは言え、心に余裕がない非リア充はごく一部で、大半は温かい目で作品を楽しんでいることだろう。
俺もそんな心の広い人間になりたい。
だが、非リア充には非リア充同士の絆があり、たとえ現実世界で顔を合わせることはなくても、動画サイトや掲示板などで強く結ばれている。
何より非リア充コミュニティは居心地が良い。
だから、いつまでも非リア充のままでもいいやになる。
これはネガティブではない、ポジティブに非リア充を選んでいるのだ。
何を言いたいかと言うと、非リア充こそ、悩める現代社会における選ばれし勇者なり。
異論は認める。
……さて、現実逃避はこれくらいにして、そろそろ緒方霞の現実に目を向けるとしよう。
俺は今、一人暮らしの女子高生のお風呂で、目隠しと、腰にタオルを巻いた状態で佇んでいる。
自分で言うのも何だが、ここまでの過程を全て省いて、今のシチュエーションだけ切り取ると、犯罪臭又は変態臭しかしない。
もし俺自身が当事者でなければ、すぐにでも警察に通報して逮捕してほしいくらいだ。
だが、こんなヤバい格好をしているのには理由がある。
セナが作ってくれた朝ご飯を食べ終わった後、ちょっとだけ言葉の選択を誤り、なぜかセナとふたりで朝風呂に入ることになってしまった。
わざとそうなるように仕向けた訳ではない。邪な気持ちは一切なかった。
もちろん、一男子高校生である俺にスケベ心が全くないかと言えば、嘘になる。
だが向井瀬夏は大切な女の子であり、東京にいる楓や宮姫等と同様、誠実に接しなければならない。
にも拘わらず、事態はなぜか悪い方に進む。
どうしてこうなるのだろう……。
誰かが俺をハメる為に極悪なシナリオを紡いでいるとしか思えない。
はっ!? ……やはり貴様らの仕業か非公式生徒会!
許さん……絶対に許さんぞ!
かくなる上は俺様の必殺技『チョリーッス・グルコサミン・マジ卍・DQN砲』でこの惑星ごと、宇宙のチリに変えてくれるわぁあああ!
はぁああああああーーーーーー!!!!
人様の家のお風呂でほぼ全裸の俺は気をためるポーズをとる。
滾って来た、滾って来たぞ!
ぐははははっ。
「……そろそろ入って良いかな?」
ガラス戸の向こう辺りからセナの声がする。目隠しているから見えないけど。
「……はい」
セナの声を聞いた瞬間、地球を消し去るために溜めていた俺のフルパワーは一瞬にして霧散した。
「じゃ、じゃあ入るね」
「ちゃんと水着は付けているんだよな?」
「……うん」
「あ、ちょっと待て」
不測の事態に備え、目隠したタオルと腰のタオルを強く締め直す。
セナが水着を身に付けているなら、腰のタオルは絶対にダメだが、視覚は開放しても良い気がする。だがビキニも隠れている範囲が最小限だし、やはり見えないほうが安全か。
一度、刺激的な姿を見たら、股間で眠るアオダイショウさん(義妹もどきが命名)が目を覚ましてしまうかもしれない。
よし、上下ともタオル問題なし……と。
一度大きく深く深呼吸してから「どうぞ」と告げる。
「お邪魔しま~す」
ガチャッとガラス戸が開く音がして、人が入ってくる気配を感じる。
「お、おう……」
「早速だけどカスミの身体を洗うね」
「やっぱいいよ、シャワーとスポンジを渡してくれれば、自分でできる」
「ダメ、わたしにやらせて」
「でも……」
「ちょっとだけだから、ね」
「じゃあ、ちゃちゃっと終わらせて」
「はぁーい」
どこか嬉しそうにセナが答える。
温めのシャワーが背中に当たり、次にセナの指が俺に触れた瞬間ーー。
「ひゃん」
思わず、変な声が出た。
「わぁ……カスミの肌、肌理が細かくてきれい」
「くすぐったいから、あんまり触らない……で」
「つまり、こういうことしちゃダメ?」
「ひっ」
人差し指で俺の背中に一本線を引かれた瞬間――背中に電流が走り、思わずジャンプしてしまった。
「敏感肌だね」
「触られるの苦手だよ」
「そうなんだ……じゃあ気を付けて洗うね」
「軽くで良いから、またビクッてなっちゃう」
「うん」
背中が徐々にあわあわになっていくのが分かる。
「はい、手を伸ばして」
「こう?」
「そう、よくできました」
「子供じゃないから」
「でも、わたしの方がお姉さんだよ」
「四日しか変わらないじゃん」
「お姉さんには違わないよ、カスミも早く16歳になればいいのに」
「あと3日だからすぐだよ」
「ねぇカスミの誕生日の31日にはもう東京に戻ってる?」
「そうだな、バイトあるし」
「誕生日を一緒に過ごすことはできないんだね」
「すまん」
「仕方ないよ、謝ってほしいわけじゃないから」
「何かできることがあればいいんだけど」
「できること……そうだね、黙って俺についてこいって言ってくれれば」
「連れて行ったら、おじさんやおばさんが心配するだろ」
「家族は関係ないよ、カスミの素直な気持ちを教えてほしい」
こつんと力のないこぶしが背中をノックする。
すると、切実な想いとしてそのまま胸まで痛みが届く。
安易な事は言えない、セナの人生を狂わせることになるかもしれないから。
「俺は……」
「なんて急に言われたら困るよね、カスミは真面目だなぁ」
「セナはこんなにも不真面目だったっけ?」
「カスミが思っているほど良い子じゃないよ。わたしはすごく意地悪でずるいの……背中オッケーだよ、次、前を向いて」
「前はいいから」
「ダメだよ、ちゃんと綺麗にしないと」
「おかんみたいなこと言うなよ」
「年頃の女の子に酷いなぁ……カスミ、おかんの言うことを聞きなさい」
「ちょ、ちょっと待て、うわっ」
「え? きゃっ」
目隠ししたまま、強引に身体を反転させられた俺はバランスを崩し、その上セナの足にもひっかかり、ふたりして転んでしまう。
「いたたっ」
身体を洗ってもらった時より間近でセナの声が聞こえる。
床にひっくり返ったはずの俺はどういう訳か全く痛くない。
ムニッとしていて柔らかくて、しかもいい匂いがする何かに顔を埋めている。
これはひょっとして……。
次の瞬間――目隠しに使っていたタオルがスルスルっと落ちて、天国……いや地獄のような状況が視界全体に広がる。
残念なことに柔らかなそれは、お風呂の床ではなく……。
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