第221羽♡ 元カノと義妹と夏祭り (#5 元カノの覚悟)
――7月28日土曜日午前7時21分。
寝起きのセナと布団の上で見つめ合っていると、気がどうかしてしまいそうなので、俺は飛び起きて日課のストレッチや柔軟運動をする。
現在、関東地方にいない俺は、今日はバイトにもアイドルレッスンにも行けない。DreamLatteの初ライブは4日後に迫っている。本来なら休んでいい日ではない。だけど今はリナを連れ戻すことを優先させるしかない。
セナは布団の上で寝転がったまま、笑みを浮かべ俺を見ていたが、しばらくすると起きて手早く朝ご飯を用意してくれた。お味噌汁の良い香りが食欲をそそる。
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「ごちそうさまでした」
「お粗末様です」
朝ご飯を平らげふうっと一息付く。
朝ご飯はとても優しい味がした。将来は間違いなく良いお嫁さんになりそう。まぁ俺はかわいいお嫁さんのために毎日ご飯を作ってあげたい方だけど。って彼女もいないのに何を考えているのやら……。
セナは5人家族で、社会人のお兄さんとお姉さんがいる。兄姉と歳が離れていて普段大人しいセナは、家族全員からとても大切にされているようだった。
「どうかした?」
「今更だけど、セナが一人暮らししているのは意外だなと思って、おじさんとおばさんはよく許してくれたな」
「最初は反対されたし、今も家から通ったらってよく言われる」
「だろうな」
「でも、姉さんと兄さんも高校からOY市内に下宿してたから、わたしも良いでしょって、粘り強くお願いしたの、ここのアパートに下宿するならいいよって、お母さんが大家さんと知り合いだから」
「村からでも市内の高校に通えなくもないけど、電車の本数が少ないし、やっぱ遠いよな」
「そうなんだよね、でもリナは3年間通ったよ」
俺が東京に戻った後、リナはOY市内の女子プロサッカークラブ下部組織のセレクションに受かり、中学時代の3年間、放課後片道1時間半をかけて、毎日練習に通った。そして年代別代表に選ばれる選手にまで上り詰めた。
「あの子はすごいよね」
「そうだな、あいつに説教しなくちゃいけない時、俺ごときが偉そうなこと言って良いのか、たまに悩むよ」
「カスミはこの後すぐ、村に行くよね……リナに会うために」
「その予定」
「じゃあわたしも一緒に行くよ」
「いいけど、セナの予定は大丈夫なのか?」
「うん、今日はバイトや友達と遊ぶ予定はないし、土日は、できるだけ実家に帰ってこいって言われてるから、ホントは昨日から帰省予定だったんだけど、急遽バイトのシフトに入れられちゃったから」
「それは散々だったな」
予定通り、昨日帰省していたら、バイト先の人に3時間もつかまることもなかっただろうに。
「そうでもないよ、こうしてカスミに会えたし、長年の想いも伝えられたしね」
そう告げると、セナは少し俯き恥ずかしそうな素振りをして、顔が赤くなったように見えた。俺もドキドキして何だか落ち着かない気持ちになる。
「昨日のことだけどさ、すごく嬉しい、でもまだ戸惑ってる」
「わたしたち、これまでそういう事を気にする関係じゃなかったから仕方ないよ……でも少しだけでいいから考えて欲しいな」
「わかった……ちょっと時間をくれ」
「うん……待ってる」
栗色の髪の少女はにっこりとほほ笑む。
待たせることでセナを苦しめることになる。
すぐに答えを出さなければいけないのに……。
「一晩中暑かったし、寝汗かいちゃったよね? 着替える前にシャワー浴びる?」
「そうだな」
「一緒に入ろうか?」
「お、俺は良いけど、セナは大丈夫か?」
「そんなの無理に決まっているだろ」とか「冗談はよせ」とか、普通に返せば良かった。ところが柄にもなく、セナが「やっぱりふたりで入るのはダメ」と言ってくれることを期待して強気な返事をしてしまった。
「うん、じゃあ入ろう」
「えぇ!? ちょっとマジで?」
「うん、早くすっきりしたいでしょ」
「ちょっと待てセナ、何でもう脱ごうとしているんだよ?」
「お風呂に入るから当然でしょ、カスミも早く脱いで」
「ダメぇええ―――!!!」
「ダメ? カスミの服もわたしが脱がせろってこと?」
「いや、そうじゃなくて」
「はい、バンザーイ」
「バンザーイ……じゃない、やめてーー! 脱がさないで!」
言葉につられて両手を挙げたら、寝間着代わりのTシャツはあっさりとられた。
告白と言う一大イベントをこなしたセナは既に覚悟ができているとしか思えない。とんでもなく恥ずかしいことをしているのに一切の動揺がない。
一方、狼狽するだけの俺は防戦一方で既に負けている。今、出来る事と言えば、被害を最小限にとどめる方法を模索するだけ。
「お願い、せめてタオルで目隠しさせて! あと腰にも撒かせて」
「目隠してお風呂は危ないよ、いいの?」
「いいよ、というか、どうか何卒お願いします」
「わかった。気を付けてね」
こうして前園凜、赤城さくらに続き、向井瀬夏は直近で俺が一緒にお風呂に入った三人目の女の子になった。
ふたりでの朝風呂は、昨晩の添い寝と同レベルの激ヤバイベントだ。とは言え、タオルで完全武装しているのだからモラルは守られる。俺はそう思っていた。
だが、残念なことに防御と良心の要であるタオルはスルスルと緩んでしまい、あっさり外れてしまう。
上も下も……。
朝の陽ざしが差し込む小さめのお風呂で、セナのあられのない姿を拝観させてもらうことになる。
ホントに色々ごめんなさい。
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おーいカスミン、早くリナたんを迎えに行けや……。




