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優しいだけの嘘つきは今日もラブコメを演じる ~幼馴染、義妹、婚約者、金髪碧眼、親友に迫られてます! 俺? ごくごく普通の陰キャモブですが……  作者: なつの夕凪
~第一章 天使同盟編~

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第218羽♡ 元カノと義妹と夏祭り (#2 交際期間0秒カップルズ)


  ――7月27日金曜日午後23時36分。


 向井瀬夏むかいせなとOY市駅前のワイルドバーガーから出た俺は、夜道を二人で歩く。繫華街から住宅街に移動すると人も徐々に減り、アブラゼミの声を除けば他に聞こえるものは何もない。

 

 日中ほどではないが、この季節特有の蒸し暑さは変わらない。じわじわと汗が噴き出してくる。

 

 だがセナの細く白い指だけはひんやりしている。小学校の頃を含め、セナと手を繋いで歩くのは恐らく初めてだと思う。

 

 「さっきはどうして竜二って名乗ったの?」

 「彼氏はあいつだし、セナも話を合わせやすいかと思って」

 

 「喋り方も真似てたでしょ」

 「お、わかった? アイツ大体あんな感じだろ」

 

 「あんまり似てないかも」

 「マジ? 彼女の採点は辛いな」

 

 現在高校生野球部の竜二はガタイが良い。喋り方も性格も豪快で男らしい。陰キャモブがすっかり板についた俺とは真反対なタイプだ。

 

 「どうせ嘘をつくなら()()()()()()って言ってくれたら嬉しかったな」

 「言えるか、竜二に悪いし」

 

 突然、歩みを止めたセナは髪の毛と同じ栗色の瞳で俺を見据える。

 

 「リナや竜二からも聞いてないんだ……わたしたち別れたから」

 「え? いつ!?」

 

 「中学の卒業式の後すぐ」

 「結構経ってるな、何があった?」

 

 「ないよ……互いに合意してのお別れ、今でも連絡は取り合ってるし、幼馴染として今も仲は良いよ」

 「だったら別れる理由ないだろ」

 

 「ある……わたしたちはね、一緒にいる時間が長過ぎたの」


 夜空を見上げ、セナは寂しげに呟く。


 「彼女がいない俺にはわからないけど、付き合うのは色々大変なんだな」

 「カスミはまだいないんだ……わたしは元カノのままなんだね」

 

 「セナは彼氏できたから、俺はもう元カレじゃないな」

 「そうなるね、懐かしい……昔そんな約束をしたね」

 

 小六の三学期が終わり、東京に戻ることが決まった俺は、一日だけセナとふたりで遊んだことがある。俺、リナ、竜二、セナの四人でなら数えきれないくらい遊んだことあるが、ふたりで遊んだのは後にも先にもこの一回だけだった。

 

 その日の別れ際、セナに彼氏彼女ではなく、元カレ元カノになることをお願いされた。

 

 当時の俺にはよくわからなかったが、女子の世界では彼氏がいるかと聞かれた際、一度もいたことがないと答えるのと、彼氏がいたけど今はいないと答えるのでは大違いらしく、後者が圧倒的に強い。

 

 そして互いに彼女彼氏ができたら、この元カレ元カノ関係は自然消滅することになっていた。

  

 とは言え、半年もしないうちにセナは幼馴染の竜二と付き合い始めたので、俺は元カレ役を早々と終えることになった。

 

 しかし去夏に村の公民館で行われた小学校の同窓会でうっかり口を滑らせてしまい、この約束がその場にいた全員にバレてしまう。

 

 とは言え、付き合うことなく元カレ元カノになった俺とセナに、後ろ暗いところは何もなかったので、大した追及をされることもなく無罪放免となった。

 

 念のため、竜二にはすぐに詫びを入れたが、気にする様子もなく笑って許してくれた。リナは終始ご機嫌斜めだった。

  

 「竜二とのこと、このままで良いのか? 俺にできそうなことがあるなら力になるけど」


 「しばらくは今のままがいい」

 

 時間が経ったら元鞘もアリってことなのだろうか。さすがにそれは聞けない。

 

 「次の角を右に回ったところにあるアパートの二階」

 「了解、ところでこの辺、夜は結構暗いな」

 

 「うん、でも普段はこんな遅い時間に出歩かないから」

 「ならいいけど」

 

 今日はバイト先の人に捕まったから遅くなっただけか。いつも夜遅くにセナが一人で歩いているとしたら心配だけど。

  

 「今日は早く帰りたかったな、何かするわけでも無いけど」

 「あ、今日はセナの誕生日か」

 

 7月31日生まれの俺とセナは誕生日が4日違い、同じ獅子座のA型だ。知人でこれだけ誕生日が近い人は他にはいないので憶えている。

   

 「憶えててくれたんだ、だからねコンビニでショートケーキを買って帰ろうかと思ってたの」

 

 「今からコンビニに買いに行く?」

 「いい、こんな時間に食べたら太るし」

 

 「セナなら心配ないだろ」

 「そんなことない、着いたよ、ここがわたしの家」

 

 少し古いタイプの木造アパートだったが、最近、外壁を塗り直したのか建物は綺麗だった。

 

 「じゃあせめてプレゼントを……って何か持ってなかったかな」

 「別にいいよ」

 

 リュックの中をガサゴソと探す。リナを追いかけるため大慌てで家を出たから、カスミン用メイクセットを忘れた。

 

 こっちに来ている間はカスミンにならないから、メイクセットはいらない。

 

 だけど、スキンケアは疎かにするとすぐにニキビができそうで恐い。明日のドラックストアかコンビニで旅行用の少量サイズのものを買おう。

 

 「あ、こんなんでも良ければ」

 

 未開封の前髪用クリップセットをセナに渡す。

  

 「これカスミが使っているの?」

 「あぁ、俺は前髪長いだろ、家事の時に邪魔になるから」


 「切ればいいのに」

 「色々あって前髪を伸ばさなきゃいけなくて」


 学園ではカスミンであることをバレないようにするため、極力素顔を晒さないようにしている。癖っ毛で少しうねった前髪は緒方霞を隠すカーテンとして重要だ。 

 

 「ありがとう」

 「ごめん、ちゃんと用意できれば良かったんだけど」

 

 「ううん、これがいい」

 「なら良かった、じゃあ俺、そろそろ行く、ゆっくり休めよ」

 

 「待って、カスミは今晩どこに泊まるの?」

 「それは……」

 

 泊まるところはない。もう一度24時間空いているハンバーガーショップかファミレスを探して夜明かしするしかない。


 長い夜になりそうだとその時は思った。

 そして実際そうなった。

 

 俺だけでなく、セナも……。


お越しいただき誠にありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
そういうことだったのですね。 でもなんだかそれだけではなさそうな。 そしてここでもカスミンが……。大舞台が控えていますし、賢明な判断なのですが、きっと本番なくても買いに行ったのではと思えます……。根っ…
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