第217羽♡ 元カノと義妹と夏祭り (#1 元カノと元カレ)
――7月27日金曜日午後22時38分。
遅延時間も含め4時間ほどかけて中国地方OY市に到着。
リナの実家まではさらに1時間30分ほど在来線に乗らないといけない。
だが結局、最終電車には間に合わなかった。
始発までどこかで時間を潰すして待つしかない。
OY市は人口50万人を超える政令指定都市のため人は多く、栄えている。ライトアップされたお城がなければ東京のどこかと勘違いするかもしれない。
この時間でも開いているカラオケや漫画喫茶などもあるが、身分証明書提示が必須になるため高校生の俺は入れない。
年齢制限なく入れそうな24時間営業の店を探す。家を飛び出してから何も食べてないので、腹ごしらえをしたい。
リナには連絡が付かないままだ……RIMEも既読にならないし、電話をしても「電源が落ちたまま」とアナウンスされる。
駅から徒歩5分ほどのところにあるワイルドバーガーに入り、チーズバーガーセットを注文する。サイドメニューは健康のためサラダと眠気覚まし用にホットコーヒーにした。
二階のイートインスペースは40席ほどの座席に対し3割程度の埋まり具合だった。
ソシャゲをプレイしている人、机いっぱいにテキストや問題集を広げる受験生らしき人、大きな声で話をしているギャル三人組、若いカップルなどがいる。
俺と同じように最終電車を逃した人がこの後、入店してくるかもしれない。
窓側四人席に座り、チーズバーガーを食べる。始発電車は午前6時10分、夜はまだまだ長い。
気になるのは、おじさんやおばさんやばあちゃんがリナが急に帰省したことをどう伝えているか。
俺と暮すのがもう耐えられないだと、反論の余地なくアウトだ。
嫌われる様なことをした記憶はない。とは言え、思い当たらないだけで何かしてしまったのかもしれない。
昨日の池袋デートも問題なかったと思う。リナもよく笑っていたし。
(では、どうしていなくなった?)
考え事をしながら食べていたチーズバーガーとサラダはいつの間にかなくなっていた。
イートインスペースにいた人は知らぬ間に半減している。残るはソシャゲをやっているらしい人とカップルと俺だ。
ソシャゲの人はたまに笑顔を浮かべており、実に楽しそうだ。カップルらしき二人組は、男が熱をあげた様子で一方的に話しかけ、女の子はたまに相槌を打っているが、やや疲れているように見える。
時間も時間だしそろそろ家に帰った方がいいのでは。
人のことは言えないけど。
(……って瀬夏!?)
ここにいるはずのない懐かしい名前を口にする。一学年一クラスしかなかった村の小学校で、一番大人しかった女の子。
もし、目の前の男と付き合っているなら俺が邪魔するわけにはないが、セナにはちゃんと彼氏がいる。
(確認するか……)
去年の夏、リナの実家に遊びに行った際、小学校の同窓会をしたので連絡先は知っている。
俺はすぐにセナに電話をかける。少し驚いた様子でスマホを耳に当てるのが見える。
「もしもし」
「今、困っているなら一回だけ頷け、特に問題ないなら首を横に振れ」
栗色セミロングの少女は周囲を一瞥し、俺と一瞬だけ目を合わせると、少しだけ縦に首を振る。
「わかった」
通話を切り、温くなった珈琲を一気飲みし、食べ終わったゴミを捨て、トレイを戻す。
そのままの勢いでセナと知らない男の席に前に立つ。
「お待たせ、さっ帰ろうか」
「鷹橋さんすみません、それでは失礼します」
セナは鷹橋と呼んだ男に一礼すると、荷物をまとめて立ち上がり、俺と手を繋ぐ。
「なっ?!」
「では失礼」
俺も鷹橋に適当な挨拶をして立ち去ろうとした。ところが――。
「ちょっと待て、何当たり前の様にいなくなろうとしてるんだよ! 向井さんは彼氏いないって言ってたよね? お前誰だよ?」
「おいセナ、マジか? ……ったく、ひでぇな……俺は岡崎竜二、向井瀬夏の彼氏だ、そうだよな?」
セナは無言で頷く。
「……で、あんたは?」
「お、俺は向井さんとバイト先が一緒で」
「ってことはただの知り合いだよな、こんな遅くまでセナを捕まえていたことは目を瞑る、だから引き下がってもらえないか? それとも一緒に警察に行くか?」
「くっ……」
鷹橋は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。警察に行く事になったら、むしろ都合が悪いのは、家出同然の俺の方だけど、この男にはわかりようがない。
「じゃあバイト先ではセナと仲良くしてやってくださいね、では」
鷹橋を残し俺はセナを連れ、意気揚々とハンバーガーショップを後にする。
岡崎竜二は小学校の同級生でセナの彼氏だ。今は大阪の高校野球名門校に越境留学している。
それにしても……
「何であんな所にいた?」
「それはこっちの台詞だよ、カスミ」
「俺はリナが家出したから今追いかけているところ」
「何かしたの?」
「全然心当たりがない、セナは何か聞いてないか?」
「ううん、しばらく連絡してないし」
「そっか……とりあえず下宿先まで送るよ」
「ありがとう」
セナは実家を出て一人暮らしをしながらOY市の高校に通っている。まさか偶然出会うとは。
「……そろそろ手を離さない?」
「ダメ、まだあの人がどこかで見ているかもしれないし」
それはそうだけど……竜二に申し訳ない。
しかも緒方霞は向井瀬夏の元カレだったりする。
もし竜二が見ていたら、問答無用で殴り飛ばされそう。
東京にいらっしゃる天使同盟の皆様にも殴り飛ばされそう。
何一つ上手くいかないのに、今日も死亡フラグだけは順調に貯まっていく。
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