第206羽♡ 姉妹デート (#1 カスミンとリナ♡)
「朝から大変だったね。お姉ちゃん」
(お姉ちゃん? ……あ、わたしのことか)
「そうだね」
「まさかさくら達に押しかけてきて、あんなに詰問攻めされるとは思わなかったのだ」
「リナが写真を送って皆を煽るから」
「別に煽ってないし。それにしても何と勘違いして慌ててウチに来たんだろうね、にしししっ」
リナが邪悪な笑みを浮かべる。
……あんな写真が急に届いたらただ事じゃないと考えるのが普通。
くわばらくわばら……恐るべし我が妹。
――7月26日木曜日午前11時21分。
RJ池袋駅東口から出て徒歩三分のところにある某ドーナツショップでわたしとリナは今朝の出来事を振り返っていた。
今朝7時過ぎに我が家には白花学園高等部五大天使プラス一匹のボーダーコリーが集結した。
その後、朝チュン疑惑だけでなく昨晩やった下品なゲームした件など次々と悪事が露見し、わたし、リナ、前園の三人はさくらたちに叱責されることとなった。
そして土下座して許しを請い、罰として恥ずかしいキス顔写真を撮られたところでようやく放免になるはずだった。
ところが最後に前園の一言でもう一悶着あった。
「今日緒方と妹ちゃんがデートすることになったからよろしく」
昨夜、前園はそんなことを言っていたっけ。
リナのご機嫌を取るためのデート。だけど今朝起きた時点で、前日までの不機嫌が直っておりデートする理由はなくなっていた。
それにわたしは今日もバイトがある。
デートに行く時間がない。
「妹ちゃんにご機嫌のままでいて欲しいならデートに行ってこい、昨日も言った通りバイト先にはオレが代わりに行くから」
耳元で囁く前園にリナとデートに行くように再び促される。
前園との中尾山行きから始まり、楓と自宅でテスト勉強、さくらとは親族の誕生日パーティ、宮姫とはエリーの散歩デートをした。だけどリナとはまだ何もしていない。
その場にいた全員がしぶしぶ了承し、今日リナとデートすることが確定した。
「ところでお姉ちゃんの代わりに凛ちゃんと楓ちゃんが急遽ディ・ドリームで働くのは本当に大丈夫?」
「うん、いいよって店長が」
「そんなにあっさり決まるもの?」
「わからないけど、多分リナが代役をしたいと言っても採用されると思う」
男性従業員もたくさんいるけどわたしが知る限り、ディ・ドリームではかわいい子ならほぼ確実にバイト採用される。
……闇は深い。
「バイトはしてみたいけど別のところがいいのだ」
「そうだよね、わたしもそう思う」
変態と奇人だらけのディ・ドリームでかわいい妹を働かせたくない。
「凛ちゃんはともかく楓ちゃん大丈夫? 普通に巻き込まれたけど」
「辣腕プロデューサーの意向だから仕方ないよ」
「敏腕? さくらのごり押しじゃん」
「そうとも言うね」
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「望月さん、申し訳ないのだけど今日、凜さんと一緒にディ・ドリームでバイトをして貰ってもいいかしら?」
「えっ?」
「カスミンがいない間に、ふたりのアイドルユニットKa×RiNを売り込む絶好のチャンスよ、凜さん一人より望月さんもいた方が宣伝効果が期待できる」
「……赤城さんのいうことはわかるけど、上手くできるかな」
「望月さんなら大丈夫よ、それにディ・ドリームにはお姉さんの加恋さんもいらっしゃるでしょ、何かあればきっとフォローしてもらえるわ」
「そうだけど……」
「これは人助けでもあるの、他ならぬカスミ君の」
「カスミのため?」
「そう、カスミ君がカスミンを続ける以上、どうしてもお化粧とか女子としての日用品が必要になる。でもカスミン一人だと入りにくいお店もあるでしょ、リナと一緒なら問題ないわ、ふたりは兄妹だし変なことは絶対にないはずよ、デートではなくお買い物に行くだけ、カスミ君も望月さんが代わりにバイトに行ってくれるなら安心よね?」
「うん。楓がやってくれるなら助かるけど、無理しなくていいから」
「……そっか、そうなんだ。わたしカスミの役に立てるんだ……じゃあ、いいかな今日一日だけ」
「ありがとう望月さん、よろしく頼むわ」
「うん、頑張ってくるね」
♠~♡~♦~♧~♠~♡~♦~♧~
「背中を押してくれたのは嬉しいけどさ、尤もらしい理由を付けて楓ちゃんを篭絡するさくらが恐ろしい」
「……だよね」
「そう言えば凛ちゃん達のユニット名決まったね」
「KaedeとRinでKa×RiN、前園案よりはいいかな」
「前園案って?」
ダイナマイツ・おっぱいシスターズ。
あれ?
リナは聞いたことなかったっけ?
「……何でもない。わたし達のグループ名はまだなんだよね」
「兄ちゃん達のグループ名は誰が付けるの?」
「店長だよ」
「決まらないなら自分たちで付けちゃえば?」
「うーん、これと言ってアイデアがない」
「ダメじゃん、自分のことなんだから自分で考えないと」
確かにそうだけどグループ名って難しい。
一度決まったら簡単には変更できないだろうし。
「ところでわたしはお姉ちゃんじゃないから」
「緒方君が兄ちゃんならカスミンはお姉ちゃんでしょ、今日は姉妹デートなのだ!」
「姉妹デート!?」
「知らない人が見たら多分そうとか見えるじゃないかな」
本当は兄妹ですらない、わたしたちが姉妹デートをする。
……何だか変な感じだし、どこかふわふわして胸がドキドキする。
「それとも女の子同士のカップルに見えるかな?」
「それはないでしょ」
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