第205羽♡ ガチな楓さんの世界一どうでもいい事件簿(下)
「この事件の犯人だけど……一人しか考えられない、この家にいて今この場にいない人」
「楓……それってもしかして!?」
「そう……犯人はカスミのお父さんだよ!」
名探偵が語る真犯人に俺達は凍り付く。
「マジで!?」
「……そ、そうなんだ。それはビックリなのだ! う、うん」
「凛ちゃん、リナちゃん残念だけど、これが事件の真相だよ」
驚いた表情の前園とリナは動揺を隠しきれない。
「いや……ないだろ、どこの世界に息子の友達が泊まりに来た日にムフフ内容を含むゲームを仕込む親がいる?」
「そうね、わたしも違うと思う、おじ様は少し風変わりではあるけれど常識人よ」
俺の反論にさくらも同意する。
いくらバカ親父とはいえ、そこまではやらないと信じたい。
尤もこれまでの数々のやらかしを考えると薄い自信しかないが。
「……と言うのはもちろん冗談だけどね」
「えっ? 冗談?」
思わず間の抜けた声が出てしまった。
「お、おい緒方! あの楓が冗談を言ってるぞ!? オレ初めて見たんだけど! どういうこと!?」
「落ち着け前園、楓は冗談を言うんだ、二年に一回くらいだけど」
ちなみに今から二年ほど前に楓が冗談を言った時、予想外過ぎて俺はスルーしてしまった。それから数日間俺と楓は気まずい雰囲気となった。
「つまり楓はかわいくておっぱいがデカいだけの女じゃなかったってことだな」
もし男子が言ったらクラスの女子全員からドン引きされそうな問題発言をする。
言ったのが前園だからセーフだろうけど。
「冗談は好きだよ。お笑いも好きで上方漫才ゴールデングランプリのDVDと年末恒例の絶対微笑んではいけないを見て、日々研究をしているよ、オリジナルの持ちネタも既に4つある」
「いいなぁ、今度DVDを貸してくれ、あと今すぐ持ちネタを見せてくれ!」
「凛ちゃんDVDは今度貸すよ、ネタは今じゃなくてまた今度ね」
「頼む」
「兄ちゃんどうしたのだ? 顔が真っ青だけど」
「知らなかった。楓がお笑い好きだったなんて……しかも持ちネタがあるだとぉ!?」
――有り得ない!
緒方霞が描く理想の望月楓像が崩壊する。
楓はかわいくて一生懸命で天然でおっぱいがデカくて不器用なところが良いんだぁ!
芸人さんの様な緻密な笑いは楓には合わない。
あくまで個人的な感想です。
「それで真犯人だけど」
「急に話を戻すんだね……で楓ちゃん真犯人は誰かな?」
展開の速さに戸惑いながらもちゃんと聞き役に徹する宮姫。
俺以外には優しいよね。
ねぇ俺にも優しくして。
「ゲームが中盤になり盛りあがったところを狙って、カードを引くふりをして予め用意していた命令カードを追加した。そうだよねリナちゃん!」
楓は犯人の名を読みあげた。
リナは戸惑った表情のまま先ほどと同様に反論する。
「ちょっと待って欲しいのだ楓ちゃん、さっきも言ったけど昨夜は兄ちゃんか凛ちゃんのどちらかが必ずわたしを見ていたし、二人の目を盗んでティッシュ箱に命令カードを追加するのは無理だよ」
「隙を見てカードを入れる必要はないよ。凛ちゃんも犯人だから堂々と入れればいい、それに怪しい命令カードも含めて最初から全てのカードがティッシュ箱に入っていたんだよね」
「でもゲームの前に緒方が調べた時は怪しいカードはなかったって言ってただろ?」
「そうだね凛ちゃん。でもカスミが調べたのはカードだけ、このティッシュ箱自体を調べていない」
「「うっ……!?」」
前園とリナの顔色が変わる。
楓はティッシュ箱をひっくり返し、中から全てのカードを取り出すと、一番底にあった灰色のボール紙を取り出した。
「二重底だよ。ティッシュ箱と素材が近い厚紙を底に敷いてカードを隠していた。途中でくじを引くと見せかけて厚紙の下から隠していたカードを取り出し後はカスミの知ってる通り」
「そういうことか、楓ちゃん凄いね!」
「なるほど推理に間違いはなさそうね……さて、ふたりともまだ申し開きすることはあるかしら?」
宮姫は楓を称賛し、さくらはリナと前園の意見を求める。
慌てふためくリナを横目に前園は、一瞬目を閉じた後、目を見開き両手を広げ降参ポーズのまま苦笑いを浮かべた。
「……さすがだよ名探偵楓、だけどこれだけは言わせてくれ、際どいカードを作っていた時はテンション爆上がりで楽しかったけど、いざゲームをやったらオレ達も恥ずかしくなって、だから俺Tueeeゲームは不完全燃焼で終わったんだよ」
「そ……そうなのだ、結局大したことをしてないのだ!」
「じゃあ最後にゲームをやめるきっかけになったカードを教えてもらえるかしら?」
「そ、それは……」
「どうしたのリナ、大したことないって言ってたわよ?」
「このスキルSカードでその……」
「早く言いなさい! Hurry up!」
さくらの圧が強すぎてリナがタジタジになっている。
……これはまずい。
リナと俺がキスをしたのがバレてしまう。
「わかったのだ実は兄ちゃんに……」
「カスミ君がどうしたのかしら」
「そ、そのキ……キス顔を見られたのだ!」
「「「えっ?」」」
昨晩いなかった宮姫とさくら、楓が驚きの声を上げる。
「そ、そうなんだオレも妹ちゃんも緒方にキス顔を見られちゃって……わかるだろ? 人には見せちゃいけない顔だよ」
前園もリナの話に乗る。
「キスをする時の顔だよね……それは恥ずかしいかも」
「緒方君サイテー、三秒以内に海の藻屑になって」
楓は顔を真っ赤にしてもじもじと恥ずかしそうにしている。
宮姫はいつものように躊躇なく俺に極刑判決を下す。
だけど……
「ちょっと待て俺は……」
昨晩の俺はそもそもスキルSカードを引いてない。
当然そんな命令をしていない。
「何かしらカスミ君?」
……してはいないけど、キスをしたことがバレるよりキス顔を命令したことの方がマシに思える。
「すみませんでしたぁあ――! つい出来心でキス顔をしろと命令してしまいました、あの……ダメな命令だったでしょうか?」
「言うまでもなくダメに決まってるでしょう! ふたりに謝りなさい!」
「はぃい――前園さん、高山さん、どうもすみませんでしたぁ!」
今日の俺、秘密を守るためにまた土下座している。
人生とはかくも塩辛いのだろうか。とほほっ。
「わ……わかってくれれば良いのだ兄ちゃん、わたしたちも変なゲームを兄ちゃんにやらせた上に、皆にも心配かけてすみませんでしたぁ!」
「すみませんでした!」
リナ、前園も俺の横で今日何度目かわからない土下座をする。
「ふん……わたしはいいわよ」
「「「ありがとうございます」」」
ようやく大魔王さくらたんのお許しが出た。
俺Tueeeゲーム事件は、当初から俺のアリバイが完璧な時点でリナと前園の負けは確定していた。また楓以外の他全員も最初からふたりを疑っており、大した事件でもないためさっさと終わらせようとしていた。しかし正義心に火が付いた楓により事件の真相が暴かれてしまう。
……まぁ楓が楽しそうだったからいいけど。
犯人はもう少し難解なトリックを使って欲しい。
あの簡素なトリックは今どき小学生でもやらない。
「じゃあ最後に罰ゲームね」
「えっ?」
さくらが唐突に爆弾を投げてきた。
「だって俺Tueeeゲームの終わりは罰ゲームなのでしょう? でもリナと凜さんはキス顔をさらす罰をすでに受けているわ。カスミ君はまだ何もしていないわね……だからさっさと私たちの前でキス顔しなさい」
「ちょっと待て、何でそうなるぅ!?」
「勝者は俺Tueeeゲームの闇を暴いた望月さんよ、だから罰ゲームをさせる権利があるわ、それに望月さんも見たいでしょカスミ君のキス顔を?」
「えっ!? わたしはどちらでも」
「望月さんも見たいと言っているわ」
「全然言ってないだろ!」
「兄ちゃん早くするのだ、もう皆スマホ構えて待っているのだ」
「だから何でだよぉおおお!?」
「全力全開のカスミンモードでキス顔をするのよ。妥協は許さないわ」
「やだぁあ――!」
その後、薄っすら涙を浮かべた俺はばっちりキス顔を取られた。
どうでもいいと言っていた楓は、さくらと同様に連写で何枚もカスミンのキス顔写真を撮っていた。
……くすん。
やっぱりもうお嫁にもお婿にもいけない。
ウエディングドレスでブーケトスするのが夢だったのに……。
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月明かりの天使
望月楓所持スキル:炊事洗濯万能
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怪力
時速80キロで歩く
お笑いネタ4つあり〼←★new




