第203羽♡ 朝チュンなんてしてません!
――どうしてこうなった!?
俺の部屋でリナと前園のふたりと写真を撮ったのは今からおよそ30分ほど前。
そして現在、柔らかな笑顔を浮かべたまま全身からどす黒い闇のオーラを放つ楓、いつもの塩対応がさらにキツくになり激辛粗塩対応をする宮姫、そして剣道着と竹刀を片手に持ち、般若のような顔をするさくらの三人に絞られ俺、前園、リナはリビングで正座をしながら震えていた。
「ワンワン!」
宮姫と散歩中だったボーダーコリーのエリーだけは「わぁ女の子が沢山いる。ねぇねぇ皆で恋バナしようよ」とでも言っているのか上機嫌。
恋バナどころか、幾つかの状況証拠のみで審議もされず俺は即刻死刑、リナと前園も島流しにされそうな危険な情勢だ。
時刻はまだ朝7時を回ったところ。
夏休みとは言え、この時間に同じ学同級生五人が俺の家に集結しているのは明らかに異常。
俺は朝ご飯を作り、リナと前園は汗を流すためお風呂から上がったところで突然、楓達三人が来たので朝ご飯を食べていない。
暖かいうちにご飯を食べさせてくださいと言いたいところだがもちろん言えるはずもない。
「朝から随分とお盛んだったようね、それともオールナイトでやりたい放題だったのかしら?」
「さくらさん聞いてください。リナの送ったメッセージ内容を誤解するのは当然ですが、ご心配されるようなことは一切なかったです……おい! リナも謝れ」
昨晩リナ、前園のふたりとキスをしたので何もなかったというのは嘘だ。
だがこれ以上火に油を注ぐことだけは避けたい。
昨晩は前園の下宿先選定のため普通にお泊り会をしただけ。それ以上でもそれ以下でもない。
「……わかったのだ兄ちゃん、さくら、すず、楓ちゃん、テンションが上がって、つい変なものを送ってしまったのだ。ごめんね」
「ふーん、緒方君は下品な宴を散々楽しんだあげく、リナちゃんに責任を押し付けるつもり? ほんとサイアク、今すぐ地上から消滅するか植物の代わりにアブラムシの餌になって」
「ワンワン!」
宮姫が楽しんでいるように見えたのかエリーは嬉しそうに尻尾を振っている。
違うよエリー。
お前のご主人様はマジでブチ切れているんだよ。
「……凛ちゃん教えて、本当にしたの? その朝チュンを」
「ひぃ」
楓の暗黒オーラに当てられた前園がひきつった声を発する。
できれば助け舟を出したいけど怖すぎて無理。
悪いな前園、各個撃破で頼む。
学園一のイケメンならダークモードの楓にも打ち勝てると俺は信じている。
決して見捨てた訳じゃないから。
「朝チュンなんてしてない」
「本当に?」
「本当だ、オレを信じてくれ楓」
なお、楓はほんの数分前まで朝チュンの意味を知らなかった。
家のそばをたまたま散歩していたところ、リナから俺たち三人の朝チュン疑惑写真と煽りメッセージが届き、意味が分からず確認をするため家に来たところ、追いかけるように来た宮姫に朝チュンを懇切丁寧に説明された。
理解した楓は笑みを浮かべたまま以降どす黒いオーラを発し続けている。
「凛ちゃんは普段からよくすずちゃんに信じてくれとか、反省してますとか言うけど、その度にすずちゃんが裏切られているように感じるんだけど」
「そう思われても仕方ない、でもちゃんと反省しているのは事実だよ。確かにすずすけには普段からあれこれ迷惑をかけてて申し訳ない、でもオレはすずすけが大好きだし、きっとすずすけもオレのこと大好きだから、今回も許してくれるはず」
楓は苦言を呈するが宮姫との関係に自信を持つ前園は、今回も放免になることを信じて疑わない。
ところが……
「そんなことはないよ、今回の件もこれまでのことも絶対に許さないから」
「ウソ!? 本当に? ごめんすずすけ、今度こそ悔い改めるから」
「……知らない」
「い、いやぁーー捨てないでお願いだよすずすけ!」
宮姫に一刀両断され動揺した前園は、学園一カッコいいイケメンから宮姫の足にすがり、許しを請う残念イケメンへと変貌した。
前々から思っていたが二人の間で主導権を握っているのは宮姫だ。宮姫が本気になれば前園に勝ち目がない。
「あの……聞いて欲しいのだ、昨晩は三人で普通にゲームをやっただけだし、寝る時も当然兄ちゃんとは別々に寝たよ。送った写真も特別な意味はないの。誰にも見せない約束で写真を撮ったけど、つい誰かにも見せたくなっちゃっただけ、だから……そのお騒がせしてごめんなさい!」
俺も前園も頼りにならないと悟ったのか、リナは捲し立てるように事実を告げると深々と頭を下げる。
「「ごめんなさい!!」」
俺と前園もリナに続き、深々と頭を下げる。
――7月26日金曜日午前7時12分。
朝から俺たち三人はジャパニーズ土下座をする……この後ジャパニーズ腹切りへと続くヘル・ロードだけは何としても避けたい。
「本当に何もなかったんだよね?」
「もちろんです。宮姫さん」
「信じていい?」
「はい」
「はぁ……じゃあわたしはいいよ、楓ちゃんとさくらちゃんはどう?」
「わたしもいい。そうだよね……カスミがそこまでするわけないよね」
宮姫はしょうがないなと言った雰囲気で許してくれた。
楓からもどす黒いオーラが霧散し、いつものほのぼの楓さんモードに戻っている。
よし、あとはさくらからお許しが出れば……。
「わたしもまぁ……いいわ。でも人騒がせなことは金輪際やめてほしい。今日みたいに暑い日は特にね、朝稽古の途中で駆けつけたのよ」
なるほど、だから剣道着を着ているのか。
不届き者の俺を成敗するために武装してきたのかと思っていた。
「宜しければ我が家のシャワーをお使いください。リナ、さくら様に着替えの準備を」
「御意」
「ありがとう、でも遠慮しておくわ、だって……」
「どうかしました?」
「風呂上りを見られちゃうじゃない」
そう告げる顔を赤らめ視線を落とすさくら。
……ん?
それは汗をかいている姿より恥ずかしいことなの?
「代わりにこのティッシュを借りるわ」
「良いけど、タオル貸すけど?」
「これくらいの汗ならティッシュで十分よ、 ん? 何かしらこのティッシュ箱? 何か入っているわ、ん……勇者の股間に潜むアオダイショウさんを見せてもらう」
「あ……」
ティッシュ箱は昨晩、俺Tueeeゲームで使ったくじ引きが入ったものだった。
「姫が勇者の下着を確認、魔法使いはおへそを見せる、勇者、姫、魔法使いの三人でタピオカチャンレンジ……随分と楽しそうなゲームをしていたようね。詳しく説明してもらえるかしら?」
「はい……」
こうして沈静化するはずだった火は、再び激しく燃え始めた。
何か俺に厄でも付いているのだろうか?
そう言えば、先日さくらの家に行った時、霊に憑りつかれているって言われた。
昨今の不運は霊が原因?
なら早めに除霊をしてもらったほうが良いかもしれない。
ただし、生きてこの場を切り抜けられたら。
「ワンワン」
宮姫家の愛犬は変わらず嬉しそうにしている。
ぎゃあーー助けてエリー!
そのかわいさがあればここにいる全員を鎮めることができるはず……
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