第202羽♡ 復活の義妹もどき
「なぁ前園」
「他人行儀だなぁ……名前で呼んで」
「じゃあ凜」
「なにカスミ?」
「何で当たり前の様に俺のベッドで寝ているの?」
朝起きたら横で前園凜が寝ていた。
もちろん粗相をした事実はないので、俺をからかうために部屋に忍び込んだとしか考えられない。
「忘れたの? 昨晩ブルキュアを終えた後、妹ちゃんの部屋に行こうとするオレの手を掴み、泊まりに来たって事は何をされてもOKって事だよな? 足腰が立たなくなるまでかわいがってやるぜヒャッハー! と叫んだ後この部屋に連れ込んで、気を失うまであんなことやそんなことを散々しただろ」
「していません。俺は凜がリナの部屋に入るのを見ていたし、この部屋で2時過ぎまで一人で調べ事をしていたし、あと高山さん」
「むぅ……ちゃんと名前で呼んで欲しいのだ」
「じゃあリナ」
「何ですかご主人様?」
困った事にリナも俺のベッドに忍び込んでいた。
大きくないシングルベッドでよく高校生が三人も寝れたものだ。
「お前もどうして俺のベッドで寝ているの? なぜゆえのご主人様呼び?」
「昨晩、凛ちゃんが中々部屋に戻ってこないから、リビングに様子を見に行こうと思い、廊下に出たら兄ちゃんの部屋から艶めかしい声を聞こえて、ドアの隙間からこっそり覗いたら、凛ちゃんと兄ちゃんがいかがわしい事をしているじゃなーいですか! そこで二人とも高校生がそんなことをしちゃダメ! と必死に止めるわたしに黙れ義妹もどき! お前も俺様のドすけべな奴隷にしてくれるわヒャッハー! と叫びあんなことやそんなことをしたあげく、ご主人様呼びを強要されて何度もビクンビクンさせられちゃって、ぐへへっ」
「はぁ……ふたりとも過去を捏造するのはやめて」
「カスミこそ、オレ達で散々楽しんでおいて無かったことにしようとするのは酷い……って痛っ!?」
「どうした凜?」
「お腹を蹴られた。出来ちゃったみたい……」
「はぁあ――!?」
……あの前園さんや、朝から何を言っているの?
「あうううっ?!」
今度はリナが悲鳴をあげてうずくまる。
「リナどうした!?」
「わたしはお腹を二回も蹴られたのだ……よしよしカス夫、カス子、パパの前だから嬉しんだよね? でもママびっくりしちゃうから大人しくするのだ」
「まさかの双子!? しかも男の子と女の子だと!?」
「名前はパパから一部拝借しました、てへっ」
「もうちょっとマシな拝借の仕方をしてぇ!」
カスミの子だからカス夫、カス子ってネーミングが安直過ぎない!?
「ともあれ責任を取ってねカスミ」
「責任を取ってくださいましご主人様」
二人とも揃って両手でハートマークを作る。
びっくりするほど息がぴったりで俺は追い詰められていく。
「な、何もなかったのに責任なんかとれるかぁ! そもそも昨晩何かあったとしても一晩でお腹を蹴るほど赤ちゃんが成長するわけないだろぉーが!」
俺は正論パンチで対抗する。
何も間違ってないよね?
だけど俺の正論パンチが無責任最低男の台詞みたいに響くのはなぜ?
「カスミの名誉のために黙っていたけど言わざるを得ないか、5月ごろから休み時間にオレを校舎裏に呼び出して、何度もお楽しみしたの忘れたの?」
「呼び出しをしてないし、お楽しみもしてないわ――!」
「春からまた一緒に住むようになってから、毎晩のようにわたしの部屋であんなことやそんなことを……」
「義妹が言うと冗談に聞こえないからやめて――! というか二人ともいつ俺の部屋に忍び込んだ?」
「夜明け前に俺も妹ちゃんも寝苦しくて目が冷めちゃったから、カスミの部屋で二度寝しようと全会一致で可決されました。パチパチパチ」
「わーパチパチパチなのだ」
「パチパチパチじゃねーわ! 俺が変な気を起こしたらどうするんだよ!?」
「その時は自業自得だし、素直に諦めるかな」
「むしろさっさと変な気を起こして欲しいのだ、カモーンベイベー!」
「凜は諦めが早すぎるし、リナは少し自重しろ」
「ところで兄ちゃん、さっきから凛ちゃんのこと名前で呼んでるけど、いつからそこまで親密になったのだ? ……怪しい」
「それはアレだ、凜が日本に残りたい理由として俺と付き合っているってことにしているから、苗字呼びだと疑われると思って、互いのことをできるだけ名前で呼ぶことにしたんだ、そうだよな前園」
「あぁそうだ……緒方」
昨晩リナが寝た後、前園とちょっとだけ良い雰囲気になってしまったのを悟られるわけにはいかないので、慌ててノーラさん対策の仮カレカノ設定でお茶を濁す。
しかしなぜだろう?
これまで何度もやってきたのに前園の表情が一瞬曇ったような?
「ふむふむそーゆーことか、ふふん♪ ねぇねぇ兄ちゃん、凛ちゃんが泊まった記念に三人で写真を撮りたいのだ」
「良いけど顔を洗ってからにしないか?」
「そうだよ妹ちゃん、寝汗をかいちゃっているから着替えたいし」
「きっちりした恰好じゃなくて、ありのままのわたしたちの写真を残したいのだ、いつか今この時の気持ちが鮮明に思い出せるように」
リナの言うことはどこか哀愁のようなものを感じるだけでなく、何か良いかもしれないと共感できるものだった。何と言うか青春っぽい。
誰かに見せるための写真ではない。
俺たち三人だけの思い出になるものだ。
カッコつける必要なんてない。
「それいいな、よし撮ろう!」
「そうだね、ありがとう妹ちゃん」
「ううん……礼には及ばないのだ凛ちゃん、むふっ」
……ん?
リナの頭に捻じれた角と背中にギザギザの翼が見えたような気がした。
「いいか? じゃあいくぞ、はいチーズ!」
――パシャリ。
ベッドの上で三人で肩を寄せ合い、服装も布団も髪も乱れたまま俺のスマホで写真を撮る。真ん中のリナはダブルピース、俺と前園はリナを囲み片手でピースをする。
「良い写真が撮れたのだ! 世界中の人に見せたいのだ!」
「ダメだ、俺たちだけの写真だろ」
「むーそうだったのだ、でも少し残念なのだ」
「さてと俺は朝飯の準備をするから、二人はシャワーを浴びてきたらどうだ?」
「緒方も一緒にどう?」
「身が持たないから遠慮しておく」
「ぶー兄ちゃんつまらないのだ、凛ちゃん行こ行こ」
ほっぺを膨らませたリナが前園を連れて部屋を出ていく。
やれやれ……今朝は随分と騒がしかったな。
でもここ数日晴れなかったリナの機嫌がようやく戻ったようだ。
良かった良かった。
……とその時は思った。
結論から言うと俺はリナの悪企みに気づけなかった。
先ほど撮った三人の写真はすぐにリナと前園に転送した。
そしてリナは事もあろうにシャワーを浴びる前、モップ会裏垢のグループRIMEを使い、此処にはいない楓、宮姫、さくらの三人に写真を送っていた。
「朝からチュンチュン、スズメが三羽㊙」というメッセージと共に……
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