第200羽♡ 天使が寝た後で
「すぅ……」
波乱だらけの俺Tueeeゲームはハプニングの後、罰ゲームをせずに終わり、その後は据え置きゲーム機で三人でダラダラとマルオ・パーティをしていた。
しかし夜11時を回る頃、コントローラーを持ったままリナが寝入ってしまう。
仕方なく、いつものようにおんぶして部屋に運ぶ。
ベッドの上に寝かせると身体を少し丸めて気持ち良さそうに眠る。
前園の目の前でリナに突然キスをされた。
「ゲームだから」の一言で片づけられるようなことではない。
それに俺は人前でキスをされて平常心を保てるほどメンタル強者ではない。かなりの衝撃を受けている。
一体リナは何を考えているのだろう?
これまで彼氏がいたと聞いたことはない。
恐らくファーストキスだった可能性が高い。
大切なものをどうでも良い場面で浪費するなと言いたいし、相手が俺なのは間違っている。
それにキスをした後は、高揚感とか緊張ですぐに眠くならないのでは?
どうして何事もなかったようにスヤスヤ眠れるのだろう?
キスをされた俺は眠けの欠片も感じない。
まだドキドキしているし胸が痛い。
リナは何とも思っていないのかもしれない。
後で後悔することにならなけば良いけど。
「なぁリナお前、何を考えているの?」
問いかけても眠り姫からの返事はない。
「おやすみ」
妹のことが何一つ理解できないバカな俺は前園の待つリビングに戻る。
♠~♡~♦~♧~♠~♡~♦~♧~
「……運ぶの慣れてるな」
「いつものことだから」
リビングルームに戻ると前園は俺に視線を向けずスマホとにらめっこしていた。
どうやらソシャゲをやっているようだ。
「さっきのことも?」
「そんなわけないだろ……あれは初めてだよ」
「ふーん、なぁブルキュアやろうぜ、短めのクエストでいいから」
「良いけど、知っての通り俺は全然出来てないから足手まといにしかならないぞ」
「別に良いよ、クエストは失敗しても何度でもできるし、それよりこうしてお泊りでやることに意味がある」
「なんか修学旅行みたいで楽しそうだな、クリアしたらアイテムとジュエル多めにくれ」
「ダメー! 公平分配! オレも次のイベントガチャ用にジュエル貯めておきたいし」
「……ケチ」
互いにスマホ画面を見つめ黙々とソシャゲをプレーする。
同じソファーに座っているから互いに手が届く距離にはいる。
「たまたま人気のないところを通ったら、知らないカップルのそういう場面に出くわしちゃう事ってあるだろ? 邪魔しちゃったな、申し訳ないなって思っても、あまり気にならないけど親しい人の気まずい場面は結構な衝撃だな……でモテモテな緒方君は結局のところ妹ちゃんのこと、どう思っているの?」
「リナは家族で誰よりも大切な妹だよ。でも今回はやり過ぎだな」
「この期に及んで大切な妹の一点突破は無理があるだろ……そうしたいのはわかるけどさ、あ、回復魔法くれ」
「まぁそうだよな……了解」
竜騎士ゾーノは今日も猪突猛進、白魔導士カスミンはひたすら後方支援。
役割分担が現実でもゲームでも変わらない気がするが、互いの性格上やりやすい。
「もっと妹じゃないところも見てあげないと」
「同じ屋根の下で暮らしているのに、妹以外に見えちゃったらやっていけないよ」
「何も一日中、普通の女の子として扱えって言ってるわけじゃないから、今まで通り兄妹タイムも必要だろうし……そいつ次のターンでファイアブレス来るから補助魔法お願い」
「妹と普通の女の子のさじ加減なんてわからないよ……そろそろ倒さないとMPがキツイ」
「難しくてもやらないと何も変わらないよ、緒方はすずすけやさくらとは良い距離を保ってるだろ、妹ちゃんも同じようにすればいいだけだって……大丈夫、あと3ターンで片づけるから」
「宮姫やさくらに対しても意識して何かやっているわけではないんだよな、長いこと会えなかったから、今も互いの距離を模索している感じかな」
「妹ちゃんとだって三年離れていたんだろ?」
「そうだけど、ほぼ毎日連絡してたし」
「本当に妹大好きな兄ちゃんだな、大切にしているのはわかるけど、好きのベクトルがズレてるよ、だからさ明日デートして修正してこい」
「え? 急にデートとか言われても……バイトとアイドルレッスンがあるから無理だって」
「かわいい妹ちゃんとバイト、どっちが大事なんだよ?」
「そりゃもちろん妹だけど」
「じゃあ決まりだな、緒方のバイトはオレが飛び込みで入るから大丈夫」
「急にそんなことできるわけないだろ」
「ダメ元でまずは聞いてみろよ、アイドル対決の宣伝ってことにすればどうにかなりそうだと思わない?」
「確かに……」
華がある前園ならお客様も喜びそうだ。
そして変態店長も……。
恐らくこの案は採用される。
いや絶対に。
カフェレストラン『ディ・ドリーム世田谷店』は世間の一般常識が全く通用しない魔境だ。あり得ないことが普通に起こる。
「葵ちゃんとまたケンカになったらごめん、かわいい子とは仲良くしたいんだけど」
そもそも葵ちゃんは何で前園を目の敵にしているのだろう。
まさか男が苦手だから、イケメン女子も苦手とか?
「まぁ妹ちゃんが機嫌が悪いのもデートが上手くいったら直るよ、よし! 火龍LV7撃破!」
「クエストお疲れ、さてとそろそろ寝るか?」
前園はリナの部屋で寝ることになっている。
あんなことがあったから少し微妙ではあるけど。
「まだやることあるだろ? オレはカスミの仮カノジョで、さっき目の前でカレシが他の女の子にキスされたんだよ。普通なら号泣して崩れ落ちるか、この泥棒猫! って泣き叫んで修羅場になるところだよ、少しはフォローしろ」
「その……ごめんカノジョさん」
「だから名前で呼べって」
「凜大丈夫か?」
「大丈夫じゃない、凄ーーく傷ついてるから優しく抱きしめて」
前からは恥ずかしいので背中から軽く抱きしめる。
ほんのりと凛の体温と柔らかさを感じる。
……どうにも恥ずかしい。
本人の許可を貰っているとは言え、こんなのことして良いのだろうか。
「これでいいか?」
「あとココもカラカラに乾いているなら潤してほしい」
右手人差し指で形の良い唇を指す。
……勘弁してほしい。
今日はもう宮姫とリナにしてしまった。
三人切りとなれば緒方霞が最低ゲス野郎と確定してしまう。
「牛乳のおかわり?」
「マジで言ってるなら張り倒す」
「でもそれ仮カップルを超えてるだろ」
「別に良いじゃん、また無かったことにすればさ、この前みたいに」
中尾山でキスをした時と俺たちは無かったことにした。
その方が互いに都合が良いから。
でも結局、無かったことにはならなかった。
今こうして同じことをしようとしているのだから。
「じゃあ誰か来る前にちょっとだけ……」
「ん……」
中尾山以来、俺は凜と唇を重ねる。
この家にはリナも親父もいる。
俺は何をやっているのだろう。
……宮姫、リナ、そして前園。
一日で三人とキスをしたことを知っているのは恐らく俺自身と非公式生徒会だけ。
十分すぎるほど罪深い。
死後に行くところが天国と地獄なら、俺は確実に地獄行きだろう。
でも今はどうでもいい……凜のこと以外考えらない。
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