第199羽♡ 窮鼠エルフを噛む
「魔法使いは姫にキスをして」
リナはスキルSカードでとんでもない命令をしてきた。
「おい、さすがにその命令はマズいだろ」
「そ、そうだよ妹ちゃん、人前ですることじゃないよ」
前園も想定外だったらしく明らかに動揺している。
だけどリナは命令を変える気はないらしい。
「俺Tueee勇者の命令は絶対だって凛ちゃんが言ってたよ」
「……そうだけどさ、本当に良いの妹ちゃん?」
「うん」
リナは平然とした様子で頷く。
「そ、そっかじゃあ仕方ないね……よし、じゃあ勇者様ここは一発お願いしまーす」
観念したらしい前園は目を閉じる。
諦めるの早くない!?
もう少し抵抗しようよ!
妹の前でクラスメイトにキスとかあり得ないだろ!
しかも先ほど宮姫を送った際にノルマのキスをしたばかりだ。
もう違う女子とキスをするのか?
それも宮姫の親友である前園に?
あまりにもゲス過ぎるだろ。
緒方霞はどこにでもいる普通の高校生男子で異世界系ハーレム主人公ではない。
しかしリナからは早くしろという無言の圧をひしひしと感じる。
ねぇ妹よ、冗談だよね?
そろそろ止めてくれない?
まさかとは思うけど不甲斐ない兄と天使な前園さんを強引にくっ付けようとしているとか?
そりゃ俺みたいな陰キャが前園さんをゲットしたら有史以来の超大金星だけど。
……でもリナに限ってそんなことしないと思う。
お願いしますと言っていた前園もよくよく見ると身を固くし、頬は赤く身体はわずかに震えている。
そりゃ友達の前でクラスメイトの男子とキスなんて平気なわけない。
さてどうする?
俺と前園は中尾山で一度はキスをしたことがある間柄だ。
あの時の延長だと思えばできないことはない。
だけど心の準備ができていない今の前園にはしてはいけない。
「この命令はパスする」
「いいの緒方君? 凛ちゃんとキスできるチャンスなんてもうないと思うよ」
「今パスを使わないと、俺はこの先ずっと後悔するよ」
「……そう、でも次パスしたら緒方君は罰ゲームだよ」
「あぁ」
「はぁあ……助かった」
前園が床にへたり込み心境を打ち明けた。
「大丈夫か?」
「うん、ありがとう緒方、ごめんオレのためにパスを使ってくれて」
やはりパスを使う判断は正しかったようだ。
「気にするな、それより十分盛り上がったしそろそろこのゲームやめないか?」
「ううん続ける」
「カッコ悪いところ見せちゃったし、ここから巻き返す!」
リナがすぐに俺Tueeeゲームの終了を拒否する。
前園もまだ心は折れていないらしい。
仕方なく俺、前園、リナの順でくじを引く。
「「「俺Tueee勇者だーれだ?」」」
今回は俺が姫、リナが魔法使い、そして前園が勇者になった。
「じゃあさっそく命令カードだけど、姫が勇者の下着を確認……ん?」
「あの……姫は俺なんだけど」
それすなわち前園の着ている物をまさぐって下着を確認しろってこと?
――いやいやダメだろ、またしてもパスをするしかない。
ここでゲームオーバーか。
「……どうぞ姫様、ご覧になって」
「前園が良くても俺が良くないから」
「緒方君早くしてあげて、時間がかかると凛ちゃんも恥ずかしくなる」
「だから駄目って言ってるだろ」
「大丈夫だって、ちょっと見るくらいなら平気だから」
「俺が無理なの」
「……じゃあ自分でめくるよ」
リナから寝間着代わりに借りた『ポンコツ』とプリントされた白のバカTをお腹の上にめくり、短パンは少しだけ下げる。
黒のナイトブラと脇紐の付いたサックスブルーのパンツが少しだけ覗く。
……すげーえっちぃ。
見えない部分があるのは反ってえっちい。
これこそ人類が2000年かけて辿り着いた思考の境地チラリズム。
実に趣きがある。
見えない部分があれば想像と言う名の無限の翼が広がる。
人類は偉大なり。
しかもあのパンツ、紐パンでは!?
エルフ系ハーフ美少女が紐パンなんてそんなの最強過ぎるじゃないか!
あの麗しい姿には女神にギフトを貰い異世界転生した勇者も絶大な魔力を秘めた魔王もひれ伏すに違いない。
ありがとう前園さん。
ありがとう紐パン。
ナイトブラさん君も忘れないよ。
あのシックな感じは良い。
あぁボクは幸せだ……
♠~♡~♦~♧~♠~♡~♦~♧
その後も三人でタピオカチャレンジ。カスミンがおへそを見せる。前園がリナの脇とお腹をくすぐる。前園腹筋20回など、性癖が歪みそうなギリギリな命令が続いた。
なおタピオカチャレンジは肝心のタピオカがなかったので牛乳をプラスチックのコップに入れて代用した。
神秘のお山を持つ前園は見事タピオカチャレンジにならぬ牛乳チャレンジを成功させた。リナも負けじと頑張ったが『諸悪の根源』とプリントされたバカTに牛乳をこぼし敢え無く撃沈。着替えるために一度自室に戻り、今後は『窮鼠』とプリントされたバカTを着ていた。
「凛ちゃんそこはダメ……あぁん」
前園に脇をくすぐられたリナの喘ぎ声がいつになく色っぽかった。
――なんていかん。
妹に変な目で見てはいけない。
妹の変な声を聞いてはならない。
妹に変なことを考えてはいけない。
以上義妹もどき鉄の掟三箇条より。
紐パンエルフ少女が腹筋をする度に激しい地殻変動が発生した。
あぁ……まさに地球の神秘。
世界の名峰も前園エメラルドマウンテンの前では形無しだろう。
(※あくまで緒方君の個人的な感想です)
大地の宝物前園エメラルドマウンテンをいつまでも見てられる。
やましい気持ちは一切ない。
――それにしてもおかしい。
俺Tueeeゲームを始める前に命令カードを確認した時、過激な命令カードは無かった。もちろん全てのカードを見た訳ではないが、これまで出た怪しいカードは複数ある。なぜ気づかなかったのだろう。
……ひょっとして最初からふたりに嵌められている?
仮にそうだとすると狙いは?
「じゃあスキルSカードで命令、姫が魔法使いにキスして」
「なっ!?」
思案している間に、前園が二枚目スキルSカードの命令を読み上げていた。姫は俺で魔法使いはリナ。
妹に兄がキス!?
人前でも人前じゃなくてもやっていいことではない。
ここはもちろんパスだ。
だがこれで俺の罰ゲーム確定になる。
しかしそんなことはどうでもいい。
「えーとパ……」
――パスを告げようとその時だった。
一瞬で俺の懐に飛び込んだそれは息をつく間もなく俺の唇を塞いだ。
俺は目を見開いたまま動けない。
今この瞬間に起きている事実に驚愕する。
高山莉菜が俺にキスをしている。
兄妹であることに拘って来た俺とリナの終わりの始まりファンファーレだった。
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また更新が遅くなり申し訳ございません。引き続き精進しますのでよろしくお願いいたします。
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