第198羽♡ 鬼畜勇者の俺Tueeeゲーム
「長い苦難の末、勇者は魔王を倒し世界を救いました。 正しき心を持つ勇者は誰もが尊敬しました。しかし最強の俺Tueeeである勇者には裏の一面があったのです。実はどうしようもない鬼畜でした。知っていたのは勇者パーティーの女魔法使いとフィアンセである王国の姫君のみです。しかし真実を知ったが故、徹底的にわからせられた女魔法使いと姫は逆らうことができません、今宵も二人に対し鬼畜な所業が始まります」
「あの前園さん、何で長いモノローグがあるの?」
「その方がゲームっぽいからです。ご主人様♡」
「ご主人様というのやめて!」
「いたいけな少女ふたりにご主人様と呼ばせている方が鬼畜度が増します、これこそ様式美です」
「そんな様式美はいらないから」
「いえいえ鬼畜勇者とはかくあるべきです」
「リナも嫌だろ? ご主人様と呼ぶの」
「わたしはどっちでもいい」
「俺が嫌だよ、妹にご主人様とか呼ばせてるとかただの変態じゃん! で俺Tueeeゲームってどうやるの?」
「ルールは至って簡単、まず割りばしで作ったくじで、勇者、魔法使い、姫を決めます。勇者は空のティッシュ箱に入れた命令カードを引き、魔法使い、姫に命令します。命令が終わったところで一ゲーム終了です。またくじ引きから繰り返します。なお勇者の命令は絶対です。ただし、それぞれ一回だけパスが使えます。二度目のパスでゲームオーバーとなります。敗者には罰ゲームがございますのでくれぐれもご注意ください」
「ゲームをやる前に二つ確認したい事があるんだけど」
「何でしょう?」
「パスは勇者も使えるのか?」
「使えます、ただし勇者でもパスは使えばなくなるのは同じです」
「ティッシュ箱の中の命令カードだけど変な命令はないよな?」
「もちろん常識の範囲内でーす」
「念のため何個かカードを見せてもらっても良いか?」
「どうぞどうぞお気の済むまで」
俺は命令カードを念入りに確認した。だが怪しい命令は一つもなかった。
……少し前園を疑い過ぎたかもしれない。
こうしたゲームでは必ず悪ノリしたヤツがいる。だが前園やリナがするわけない。
「大丈夫だな、ごめん疑って」
「いえいえとんでもございません。ではさっそくはじめましょう! せーの! 俺Tueee勇者だれーだ?」
これ、パリピな陽キャどもが合コンと言う名の邪悪な集会で嗜む王様ゲームとほぼ同じでは?
一抹の不安が過る。
だが始まった俺Tueeeゲームは止まらない。
俺、前園、リナの順でくじ引きを引き、命令カードを選ぶ。
命令は一人だけの場合や、二人への命令、勇者を含む三人全員の場合などパターンがある。だが肝心の内容と言えば「好きな食べ物は何?」とか「最近気になっているものは?」など大したものがない。そのため和やかな雰囲気でゲームが進行していく。
前園とリナの体重を教えろというものあったが、どちらも気にしていないらしく、あっさり申告した。
体重は乙女最大の秘密じゃないの?
カスミンなら絶対に教えてないよ。
しかしゲームを初めてから40分ほど経った後のこと、徐々に雲行きが怪しくなってきた。
「初恋について話せ、勇者、姫、魔法使いの全員……ってこれマジ?」
「はーいマジです! それでは勇者様からお願いします!」
「ぐっ……実は初恋まだなんだよな、ははは」
「またまた……そんな分かりやすい嘘を」
「どうしても言わないとダメか?」
「命令カードには勇者でも従わなければいけません」
……できれば話したくない。
パスを使うのもアリだが、この先もっと際どい命令が来た時に防げない。
あと罰ゲームの内容も気になる。
ええい仕方ない。
「保育園の頃、一緒だった女の子かな」
「ほほう、どのような子で?」
「いつも部屋の隅で一人で遊んでいる大人しい子だったけど、風が吹くとグレーの髪から光が溢れて、すごく綺麗に見えたんだ」
「ふんふん、なるほどなるほど」
「あと、たまにだけど笑ってくれると嬉しかったな」
「くぅう……勇者緒方様にもそんなピュアな時代があったのですね、今では只のハーレム上等のとんだゲス野郎に成り下がってしまいましたが」
「いやハーレム上等じゃないから、じゃあ前園姫はどうなんだよ?」
「えーと……はっきり初恋と言えるものはないですが、それっぽいと思うのはあって」
「ん? 何かはっきりしないな」
「何と言うべきか、気づくとあの人のことばかり見てドキドキしていたというか」
「じゃあ片思いみたいなものか? 意外だな」
「そうですかね、あはは」
学園最強とも言われるアイドルはらしくない苦笑いをしている。
いつ頃の話だろう。
宮姫と出会う前?
いや、宮姫のことかもしれない……
「はい、わたしは終わりです。魔法使いな妹ちゃんは?」
これ以上は都合が悪いと思ったのか、前園はリナに話を振る。
「わたしはないよ」
「えっ?」
「恋をしたことがないから」
「じゃあ誰かがカッコいいとか、気になるとかは?」
「ない」
リナは即答する。
「じゃ、じゃあ妹ちゃんはこれからなんだね」
「ううんこれからもないよ……でもちょっと違うかなこれからがないが正解かも」
「リナ、それどういうこと?」
「言った通りだよ緒方君」
リナの言うことはどうも辻褄が合わない。
さっきから何を言っているんだ?
「まぁ勇者緒方様が頼りないと妹ちゃんは恋に走れないよね! じゃあ次言ってみよう! せーの俺Tueee勇者だれーだ?」
空気の悪さを感じた前園がまたしても話を反らす。
もうこのゲームやめないか?
掘り出してはいけない物を掘り出してしまいそうな気がする。
と思ったものの口に出しては言えずゲームは続行される。
俺、リナ、前園の順でくじを引く。
今度はリナが勇者、俺が魔法使い、前園が姫になった。
「わたしが勇者だね、じゃあ命令を引くよ」
「はいはいどうぞどうぞ」
リナはティッシュ箱から命令カードを取り出す。
「あ、スキルSカードだ」
「スキルSカードって何?」
「何でも命令できる万能カードのこと」
「ちょっと待て、そのカードはダメだろ」
「ゲーム開始前に言った通り、勇者の命令は絶対です、それでは好きな命令をどうぞ!」
ここ数日間変わらずリナは機嫌が悪い。
だが普段よりはるかに常識的だ。おかしな命令はしないはず。
ところがオレの期待は見事に裏切られる。
「魔法使いは姫にキスをして」
「「えっ?」」
予想外の過酷な命令に俺と前園は同時に凍り付く。
魔法使いは俺で姫は前園なんだけど……いいの?
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