第188羽♡ 深紅のドレスと黒の制服
……まずい
もう間もなくカフェレストラン白昼夢の二大悪魔、加恋さんと葵ちゃんがここに来る。
際どい格好の楓と密室にいたことがバレたら確実に面倒なことになる。
だがそれ以上にまずいのは、俺が今着ている服は白花の男子用制服だということ。
「あれ? なんかカスミ困ってる?」
「……この格好だと葵ちゃんに男なのが知れる」
「カスミが男の子なの内緒だったね」
「そうなんだよ。どうするかな……服を買いに行く時間もなさそうだし」
「カスミとわたしの服を交換するのはどう?」
楓の服を俺が着るのは普通にマズい。
やましいことを考えてしまったり、匂いを嗅いでしまうかもしれない。
……ただ色々な事に目を瞑れば悪くない案だとは思う。
楓が男子の制服を着たところで女の子にしか見えないし。
でも……
「無理だろ体系が違うから」
「そうだね。カスミの方が背が高いし、わたしより細いし」
身長差は10cmほどだから丈はギリギリ大丈夫かもしれない。
胴回りも大して変わらないと思う。
一番の違いは胸囲だ。
楓のブラウスを着たら、確実に一部分だけ余るところがある。
「服を交換するってことは、ふたりとも同時に服を脱がないといけなくなるだろ」
「ダメだね。あ、そうだ。さっきお店に借りようとしていたカーディガンは?」
「上は隠せるけど、ズボンが男物のままなのが」
「カーディガン以外の服も借りられればいいのにね」
「そっか! 店に服を借りれば何となるかもしれない」
昨今のカラオケ店は、パーティー用にコスプレ衣装を貸してくれる店舗が多い。
この店舗はパーティールームもある。コスプレ衣装を置いてあるかもしれない。
すぐさま曲の入力や食事の注文ができるコントローラーを操作し、「その他」項目を確認する。すると「コスプレ衣装が無料レンタルできます。フロントに申し付けください」と表示される。
「楓、悪いけど俺が着れそうなコスプレ衣装を借りて来てくれるか?」
「いいけど、カスミはどうするの?」
「一応メイクする」
「衣装はどんなのが良い?」
「着れるサイズで女の子っぽいヤツなら何でもいい」
「わかった、すぐに戻ってくるね」
カラオケルームから飛び出す楓を横目に、俺はリュックから愛用のメイクポーチを取り出す。
「やだな……汗ばんでる」
汗や汚れをしっかり洗い流したいところだが贅沢は言ってられない。
バイトの時よりも手早くメイクを整える。
コンパクトで確認しながら、ティッシュで汗と油分をとり、ファンデーションで整え、お気に入りのフューシャピンクのリップを塗りメイクを終わらせる。
後は適当なコスプレ衣装を着れば……ってあれ?
楓がなかなか戻ってこない。
ひょっとして加恋さんたちが既に到着しており捕まってしまったとか?
だとしたらマズい。
RIMEで楓にメッセージを送り、今の状況を確認する。
しかし長椅子の端に置いてある楓のトートバックから「ピンポーン!」というメッセージ着信音が響く。
どうやらスマホを持っていかなかったようだ。
……とりあえず俺だけでも一旦トイレに非難するか?
楓を含む三人がこのカラオケルームに入った後、俺がコスプレ衣装を借りて着替えた後にここに戻ればいい。
だが服装は男子高校生、顔はメイク済みの不完全なカスミンをお店の人に見られてしまう。
そんなの恥ずかしいに決まっている。
できれば誰にも見られたなくない。
でも知り合いに見られるよりかは幾分かマシか。
よし……
荷物をまとめて、一旦カラオケルームを出ようとしたその時――
「カスミ遅くなってごめん。借りてきたよ」
ようやく楓が戻って来た。
「ありがとう、フロント混んでた? ってなんだその格好は?!」
「考えたんだけど、カスミだけコスプレしているのは変かなって、わたしも一緒にやっていたら自然に見えるかと思ったの」
光沢の真っ赤なそのドレスには膝の際どいラインまでスリットが入っており、ところどころに金色の龍や虎の刺繍がされている。
楓は深紅のチャイナドレスを着ていた。
戻るのが遅れたのは着替えていたからだろう。
だがこのチャイナドレス、霊装さくらんぼキラーと同様に身体のラインがはっきり出ている。さっきまでと変わらず楓は際どい恰好をしている。
「あれ? どこか変?」
「いや、よく似合っているよ」
「そう……良かった。でもちょっと恥ずかしいね」
顔を赤くしてふんわりと笑う。
長い黒髪とチャイナドレスがマッチしていてすごく良い。
海底で眠る真珠のようにキラキラしている。
できることならずっとを見ていたい。
せめて一枚だけでも写真を撮りたい。
だが楓さんルッキング・タイムはあっさり終了した。
「カスミが着るのはこれね」
「……お、おう」
渡されたコスプレ衣装は黒だった。
スカートは短く膝上10センチくらい。
白の肩ひもの付いており、金色の三つボタンの付いたシャツと黒のネクタイ、黒のプリーツスカート。
これはもしかして……
「婦警さんにしてみた」
「あの……楓さんマジですか?」
「カスミは細いから似合うと思う」
しかしこれは……
キツ――ぅ!
マジでキッぅうう――!
陰キャ男子高校生がミニスカ婦警さんだと!?
そんなの罰ゲームを超えた罰ゲームじゃん!
だけど悩んでいる時間も嘆いてる時間もない。
俺にはこれを着ることしか選択肢がない。
「ちょっとトイレで着替えてくるわ」
「うん、行ってらっしゃい」
緒方霞15歳、今日ミニスカ婦警デビューします。
えっちぃ目でわたしを見たらバキューンしちゃうぞ!
このこのぉ!
うん……ダメだこれ。
マジキモいでございます……想像だけで12回は死ねます。
うんざりした気持ちでミニスカ婦警になり、楓の待つカラオケルームに戻ると加恋さんと葵ちゃんが到着していた。
どうやら間一髪だったようだ。
だがカラオケに来たのは二人ではなく四人だった。
「カスミンおかえり~うぃ」
既に酔っぱらっていると思しき加恋さんの間の抜けた声が響く。
役者は全て揃った。
これより少女と男の娘のプライドをかけた仁義なきカラオケバトルは今ここに開幕する。
勝者には永遠なる栄光を!
だが敗者には消せぬ罪と罰を!
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