第186羽♡ 二人カラオケ
「カスミ、お待たせ」
「おぅ楓、暑いところ悪いな」
「ううん暇してたから呼んでくれて嬉しいよ」
「そ、そか。喉乾いただろ? ドリンクバーで飲み物取ってくるよ。何にする?」
「いいよ、自分で取ってくるから」
「じゃあ、この部屋出て右側の通路まっすぐ進むと突き当りにあるから」
「わかった。ちょっと行ってくるね」
「おう」
……おかしい。
どう考えても到着が早すぎる。
楓と電話を終えた後、俺は4分ほどの歌を一曲歌った。
そして歌い終えたタイミングで、楓がこのカラオケルームに到着した。
楓の家からここまで早くても徒歩20分はかかるはず。
タクシーなどの交通機関を使ったとしても、4分で着くとは思えない。
ひょっとして電話していた時、自宅ではなく割とこのカラオケのそばにいたのか?
だったらわかるけど……。
あと他にもおかしなところがある。
「ただいま~メロンソーダーにした」
「お腹空いてたら食べ物も注文して良いぞ」
「今は大丈夫、よいっしょっと」
「えっ?」
今いるカラオケルームは入口から向かって真ん中のクリスタルテーブルと左右に長椅子、部屋奥に画面を映すモニターがある。
俺は入口から向かって右側の長椅子に座っていた。
なぜか楓も空いている左側の長椅子ではなく、俺の隣にくっ付くように座る。
すると右ひじにムニッとした大きくて柔らかい何かが当たる。
いや……大きな何かの正体はわかっているが言語化したくない。
だってイケない事を考えてしまうから。
「外、凄く暑かったよ~」
「ところで楓はさっきまで家にいたんじゃ?」
「そうだけど」
「い、いや……来るの速いなと思って」
「普通に歩いてきたよ」
首を傾げ、きょとんとして目で間近の俺を見る。
その仕草はとてもかわいらしい。
……だがしかし
普通に歩いて来た?
ここまでは徒歩20分くらいかかる距離を?
楓さんは時速80キロくらいで歩けるの?
大玉スイカを二つもぶら下げている割には、足が速いなぁと中学の頃から思ってたけど、そこまで速かったの?
それもう某SF超大作映画のサイボーグ並みだよ!
……ってしまったぁ!
ついスイカのことを考えちまったぁ!
今日も楓の豊かな胸は身体の動きと連動して、ぷるんぷるん揺れている。
しかも揺れ幅がいつもより大きい……まるで湘南のビッグウェーブだ。
これは今着ている服装が大きく影響している。
かわいらしいアイボリーのハイウエストミニスカートと清楚な白ブラウス。組み合わせはバッチリだし、何よりスタイルの良さを際立たせている。
いや……際立たせ過ぎている。
破壊力が通常時の120%増しだ。
腰の位置の高いスカートのせいでバストラインだけでなく、メリハリの効いた身体のラインが丸わかりになっている。
――俺は知っている。
あれは恋愛経験が乏しい陰キャ男子高校生を殺す霊装『さくらんぼキラー』
俺や葵ちゃんがディ・ドリームで着ている夏季ユニフォームもこの礼装に近い。小柄なのに出るところが出ている葵ちゃんを見て、虜になる男性客が続出している。
くそっ
あの変態店長め、禄でもないもん作りやがって!
しかもなんで俺まであの夏季ユニフォームを着ないといけないんだ?
カスミンには胸がないのに!
(ねぇやっぱり買おうよ豊胸パット……わたし欲しいよ)
ん?
今、カスミンの声が聞こえた気がする。
でも恐らくは幻聴だな。
……って今はそんなこと考えている場合じゃない!
このままだとぷるんぷるんを直視した瞬間に絶命するか、我を忘れ狂戦士化して楓に襲い掛かるかもしれない。一刻も早く何とかせねば……。
「なぁ身体冷えて寒くないか? ここのカラオケ、カーディガンを借してくれるらしい、一秒でも早く今すぐ借りよう!」
「ううん大丈夫だよ。むしろ暑いくらいだし」
暑いのかブラウスの襟を掴み、パタパタさせて服の中にエアコンの冷たい空気を送り込む。
――俺は見てしまった。
首元から覗く薄紫のブラ紐を……。
ぐはっ!!!
――緒方霞脳内倫理委員会より警告!!
パターンコード:レッド
望月楓のブラチラ攻撃により甚大な被害発生。
至急この場から離脱するか、大変けしからんムフフな天使を沈黙させてください。
――やばいやばいやばい!
これは期末テスト前の勉強会を超える最大の危機じゃないか?
しかもカラオケという閉鎖空間で密着度が高く、バインバインのぽよよんが絶えずダイレクトアタックを仕掛けてきてる。
このままでは緒方霞の股間で眠るアオダイショウさん (義妹もどき命名)が目を覚まし、カチンコチンの金属バット(こちらも義妹もどき命名)になってしまう!?
とりあえず今は何も考えるな!
無になるんだ!
心頭滅却。
いかな時でも平常心。
……整いました。
我が心は空なり、空であるが故に無。
……って
やっぱり俺には無理ぃーー!!!
そもそも何の悟りも開いてないし。
普段から煩悩まみれだし。
ま、待てまずは落ち着け!
ここはカラオケだ。唄を全力で歌って楓を見ないようにすればいい。
よし、そうしよう。
「な、なぁ楓、さっそくだけど一曲歌ってよ」
「あんまり最近の曲を知らないから、まずはカスミがお手本を見せて」
「じゃ、じゃあデュエットしようか」
「う、うんそれなら」
「よし、じゃあこの曲にするかな」
リモコン操作し選曲する。
常夏の恋色フルーツ
三年ほど前の某国民的アイドルグループ最大のヒット曲だ。
難しい曲ではないし、これなら楓も歌えるはず。
イントロが流れ始め、ビキニ姿のアイドル達が綺麗なビーチではしゃぐ姿が映し出される。
ゆっくり拝見したいところだが、余計な事は一切考えずポップなメロディーに合わせ少女の恋心を唄う。
楓はお世辞にも上手くないが一生懸命歌っている。
「「君に会ったあの日からボクは君に夢中~♪」」
「「君だけに知ってもらいたいこの想い~♪」」
「「(Endless Summer) 暑い日差しで~♪」」
「「(Endless Summer) 焦げる身体~♪」」
「「(Endless Summer) 君にあげる~♪」」
「「(Endless Summer) わたしの心と~♪」」
「「(Endless Summer) 蕩ける身体~♪」」
「「(Endless Summer) 残さず食べてね~♪」」
って何これーー?!
これを年末特番で10代メンバー含むアイドルに歌わせたの?
歌詞がどスケベ過ぎるだろうがぁあーー!
日本大丈夫?
とりあえず心の汚れた大人達は腹を切れ!
……でもこの曲を楓に歌わせた俺が一番悪いな。
『蕩ける身体残さず食べてね』って……霊装さくらんぼキラーとこの歌のコンボが強烈過ぎる。
「カスミ歌うまいね」
「そ、そうかな?……ありがとう。楓は歌っている時もかわいいな」
「えっ? そんなことないよ」
楓は両手を頬に当てて嬉しそうにする。
肘に挟まれたぷるるんがムニッと形を変える。
薄っすらと透けていたブラジャーラインは細かい刺繍も含めてはっきり見えた。
……もうダメぽ。
俺のライフはゼロぽ。
あのおっぱいには勝てないぽ。
前略
天国にいる母上様へ
ご無沙汰しております。
さっそくですが、闇落ちする愚かな息子をどうかお許しください。
だって今日の楓さんはあまりにえっち過ぎます。
凶悪な透けFカップが、陰キャ男子を殺す霊装によりいつもに増して半端ないのです。
俺だけ反対側の椅子に移動することも考えましたが、机が透明なのであのミニスカート丈だと聖なるおパンツが御開帳になる可能性大です。
上下の下着を揃えている場合は、聖なるおパンツではなく、邪悪な紫おパンツかもしれません。
いずれにせよ、Fカップダイレクトアタックも、ミニスカート絶対領域から拝観するおパンツも、思春期陰キャ男子に贖える術はありません。
それではごきげんよう。
草々
ねぇ楓さん
絶対誘ってるよね……
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月明かりの天使
望月楓所持スキル:炊事洗濯万能
かわいい
勉強が得意
天然
怪力
時速80キロで歩く ←★new




