第169羽♡ 嘆きの天使たち
「ふにゅ~ん」
「リナ自分の部屋で寝ろ」
「……もう食べれないにゅ」
「おいリナ」
「うぬごときの技など余はとうに見切っておるわ」
ねぇ妹よ……どんな夢を見てるの?
時刻は午後4時前。
バイトから帰ってくると、今日も妹が俺の部屋で勝手に寝ていた。
午前中は部活の練習で午後に帰宅、シャワーを浴びて昼ご飯を食べて、俺の部屋で漫画を読んでいたら自然と意識が遠くなり、そのままお眠。
推測するにリナの本日ダイジェストはこんな感じだろう。
いつも通りではある。
違いを挙げるなら白のキャミソールとパンツだけしか身に付けておらず、男子高校生には刺激が強すぎる恰好をしている事くらい。
「おい、無防備過ぎるだろ」
「んにゃ」
「起きないといたずらするぞ?」
「ん……いいよ」
不謹慎な事を言うと何故か会話が成立する。
本当は起きているのでは? という疑念を拭うため念のため確認するとやはりよく眠っている。
……人の気も知らずに
半分床に落ちかけたタオルケットを整え、妹の身体に掛け直す。
リナの所属する女子サッカー部は昨日インターハイ予選の三回戦があり、中二日を空けて明後日には準決勝がある。
さくらと共にチームの得点源であるリナは、昨日もフル回転だったようだ。
休息期間が短く、一回戦からの疲れは相当溜まっているのだろう。
全国まで後二試合。
何とか行かせてあげたい。
頑張れリナ。
いつどんな時でも俺は応援している。
さて……
自室で調べものをしようと思っていたが、際どい格好の妹がいては無理。
リビングからこの部屋にあるデスクトップPCに別のPCでリモート接続すれば、やりたい事はできる。
本棚に置いてあるやや古いノートPCを持ち、自室から出ようとする。
「待て小僧」
「ん?」
「うぬは『据え膳食わぬは男の恥』と云うことわざを知っているよな? なぜ何もせず去ろうとする? さっさと超絶ぷりちーなリナたんにイタズラしろよゴラァ!」
「起きてたのか。そのまま寝とけ、試合の疲れが残っているだろ」
「兄様よ、さっきから何なの、その普通過ぎる返しは? こんなピチピチJKがイヤ~ンな恰好でいるんだよ? どうして発情しないの? 欲望のまま暴走しないの? はっ!? も、もしかして兄ちゃんの股間に住むアオダイショウさんがここのところの暑さでお亡くなりに!? なんてこったぁ~!」
「アオダイショウさんは生きてますが妹の前ではフォーエバーに寝てます」
「なぜだ!? 起きろ起きるんだアオダイショウさん! その眠れる野性を今こそ解き放て!」
「いや……妹相手に野生を解き放つのは普通にキモいだろ」
「そんなことないのだ! ネットで『義兄』『義妹』『すること』の3ワードで検索したら、野生的にムフフなことが沢山出てきたのだ!」
「はぁ……教育に悪そうだから、リナのスマホ取り上げてもいいかな?」
「そんなのダメに決まってるだろうが! JKの友達付き合いがスマホなしで成立すると思っているのか?」
「うーん確かに難しいかも、じゃあせめて健全にスマホを使ってくれ」
「わかりました。義兄義妹関連の事しかムフフ検索を行いません」
「義兄義妹関連の検索も止めて」
「お黙りなさい! 全くああ言えばこう言う式に、言い訳ばかりしおってからにぃ~煮え切らんなぁ~まだ覚悟ができんのかぁ……やむを得ん、兄ちゃんの眠れるアオダイショウさんを起こすために、最終手段を使わせてもらう。 よし行くぞぉおお! 必っ殺ぅう~マーベラス・バーニング・スペシャルアタック!」
「――な、なにぃ!?」
リナはベッドから飛び起きると着ていたキャミソールを脱ぎ、ぐるぐるに丸めて俺に向けて投げつけてきた。
キャミソールの下は何も付けていない。
おへそから上を隠すものが何も無くなった。
サウスポーから繰り出す綺麗なオーバースローに合わせ、やや小ぶりなふたつのお山とその上のさくらんぼが跳ねている。
何故だろう?
全てがスローモーションに見える。
今この瞬間こそが人生のハイライトなのか?
……案外そうなのかもしれない。
だって俺はついに見てしまった。
義妹もどきの全裸を。
正確にはパンツ一丁姿を。
昔は一緒にお風呂に入っていた。
当然、互いの裸を毎日見ていたわけだが、あくまで小学校までの話だ。
あの頃とは違う。
四月に再び一緒に暮らすようになって、何度か際どいシーンがあったが、ギリギリでかわしてきた。
互いにお年頃になったし、偶然脇下が見えてしまっただけでも恥ずかしいから。
なのに傍若無人な義妹もどきは年頃の緊張感をあっさりとぶち壊した。
あぁ……
おっぱいが、おっぱいしている。
白くて柔らかそうで揺れて跳ねて。
良い
とても良い。
もう何の悔いもない。
今まで支えてくれた全ての人達にありがとう。
そしてさようなら。
さぁリナの剛腕より繰り出されしキャミソールよ。
天をも焦がす火球となって、俺を粉々に砕いてくれ。
緒方霞はムフフ心と共に、この美しい世界から旅立つとしよう。
いざ参らん誰も知らない異世界へ。
願わくばチートありの無双系主人公に転生させてほしい。
ハーレムじゃなくていいから。
今世は忙しかったので、異世界ではほのぼのスローライフ希望です。
だが俺の切なる願いは届く事はなく、更なる悲劇を呼ぶことになる。
リナの投げたキャミソールは俺にヒットする事なく、少しずれてドア付近に向けて弧を描く。
そして開くはずのないドアが突然ガチャリと開き、望月楓の顔が僅かに見えたその瞬間――
バシっ!という鈍い音とともに、キャミソールは楓の顔面にクリーンヒットした。
「きゅうっ!?」
運悪く胸パットの固い部分が当たったのだろうか。
僅かに悲鳴を上げ、楓はその場に崩れ落ちた。
「ちょっと楓ちゃん大丈夫!? え? リナちゃん何で裸? ふたりでここで何をやってたの?」
事態の急変に頭の処理が追い付かない俺と、ほぼ全裸のリナは宮姫の問いに答えることができない。
どうしたら良いのこれ?
俺は何一つ悪い事をしていないつもりなんだけど……。
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