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優しいだけの嘘つきは今日もラブコメを演じる ~幼馴染、義妹、婚約者、金髪碧眼、親友に迫られてます! 俺? ごくごく普通の陰キャモブですが……  作者: なつの夕凪
~第一章 天使同盟編~

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第154羽♡ 第二ピアノ室の天使(上)


 防音設備付きの部屋でピアノを弾く事は、何も間違っていない。


 またクラスメイトがピアノを弾く姿を眺める事もおかしくはない。

 

 つまり今この部屋で行われている事でおかしなところは何もない。だがここにいる前園と俺の精神状態は、激しく乱れており普通ではない。

 

 今晩に備え前園とふたりで事前ミーティングをしなければならない。ノーラさんを説得できないと前園の今後は大きく変わってしまう。


 しかし風見さんの発言がクリティカルヒットした俺達は、まともな会話ができない。

 

 そりゃ人気のない部室棟のはずれにあるこの部屋に、男女がこっそりと現れたら確かに怪しいかもしれない。 

 

 現に風見さんは、俺と前園がイチャイチャするために此処ここに来たと思っていた。

 

 そして俺達に全く弁明させることなく、彼女はこの場を去った。残された俺と前園には今も気まずい空気が漂っている。


 とは言え俺達の間に何もなければ、勘違いした風見さんを苦笑いし、すぐに本題に入れたはずだ。

 

 だが困った事に、中尾山麓の温泉で混浴した激マズの前科がある。しかもその場の勢いでキスもしてしまった。

 

 あの日の出来事は互いのために無かった事にしたが、さすがに記憶を消すことはできない。

 

 そして今は邪魔者がいない防音の密室で前園とふたりきりだ。

 事故が起きる要素は十分に揃っている。

 

 あの時の様に……


 互いを意識するなと言われても無理ゲーでしかない。

 現に俺は先ほどから胸のドキドキが止まらない。

 

 一方、前園もどこか落ち着きがない。

 ずっと涙目な上、ゆでダコみたいに顔が真っ赤だ。

 

 ピアノが上手いのは間違いないが、先ほどから素人の俺でもわかるミスを連発もしている。


 せめて頭を冷やすのに十分な時間があれば、難なく事態を収拾できるかもしれない。

 

 だがそんな余裕はない。


 無理やりでも話を進めれば、普段はコミュ力抜群の前園が合わせてくれるはずだ。


 よし……

 

 「ま、前園」

 「はぃい」

 

 ……今まで聞いた事のない弱々しく裏返った声で返事をしてきた。

  

 「やはりベートーヴェンは良いな」

 「え? これショパンの幻想即興曲だけど」

 

 しっ、しまった。

 

 普段はJポップとアニソンしか聞かないのに、知ったかぶりをして墓穴を掘った。

  

 「あ、そうなんだ。勉強になったよ」

 「う、うん」

 

 「……」

 「……」


 話は広がることなく会話終了。後に残るは気まずい沈黙のみ。


 ど、ど、どうしよう!?

 前園と話すのはこんなに難しかったか?

 

 いやそんなことはない。

 よく考えろ俺、突破口はどこかにあるはずだ。

 

 今みたいに何気ない話から、少しずつ本題に切り替えていく作戦はアリだと思う。


 ではきっかけになる話はどうする?


 俺は前園の好きなアニメや漫画を知らない。


 ソシャゲなら『ブルキュア』を一緒にしているが、最近は俺のプレイ時間が短いせいで前園との差が開く一方だ。空気が悪くなりそうなので、できれば『ブルキュア』の話題は避けたい。


 もっと気軽な話のネタは……好きなインスタント袋麺とか。

 俺の押しはオビヒロ一番塩ラーメンだな。

 

 あの味と入りゴマは相性が絶妙だ。

 モヤシやニラなどを入れて野菜ラーメンにするのも良い。


 多少カロリーが気になるが、残りスープにライスを入れるのもアリだ。

 卵を入れてマイルドにするのも良い。

 

 ……って考えたけど、本題に辿り着くまで遠回り過ぎないか?

 

 やめよう。

 このままだと更に話が停滞する。

 

 なら覚悟を決めて、シリアスに攻めるのもアリかもしれない。

 

 「前園」

 「はぃっ」

 

 ビクンとした後、またしても声が裏返った。

  

 「これから大切な話をする」

 「ちょっと待って、まだ心の準備が」

 

 「いや待てない」

 「え!?」

 

 「ダメか?」

 「ダ、ダメじゃないの。だけど時と場所は大切だと思う」

 

 「それでも今すぐだ!」

 「ど、どうしてもなの?」

 

 「どうしてもだ!」

 「……わかった。せめて10秒だけ時間を頂戴、覚悟を決めるから」

 

 「あぁ構わない」

 

 前園はピアノ椅子に座ったまま目を瞑る。

 

 そして……10秒どころか3分ほど過ぎた辺りで「ごめん、もう大丈夫」と言い、ようやく目を開いた。

 

 やや充血した左目からは一筋の雫が流れる。

 口元は半笑いで、身体は生まれたての子鹿の様に小刻みに震えている。

 

 これは……絶対に大丈夫じゃないヤツだ。

 

 何となくだがダークファンタジーで、無力な村人が凶悪モンスターになぶられる寸前の絶望した表情に似ている。


 あの……前園さん?

 一体何をどう考えたらそんな表情になるの?

お越しいただき誠にありがとうございます。


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