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優しいだけの嘘つきは今日もラブコメを演じる ~幼馴染、義妹、婚約者、金髪碧眼、親友に迫られてます! 俺? ごくごく普通の陰キャモブですが……  作者: なつの夕凪
~第一章 天使同盟編~

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第153羽♡ 第二ピアノ室の魔女


 ――7月19日木曜日昼休みのこと。


 今晩のことや楓の事について話をするため、前園に連れられた俺は部室棟のある紅葉館三階の一番奥に来た。

 

 「ここは……第二ピアノ室?」

 「オレが使って良い日だから……ってあれ?」

 

 ……室中から軽やかなピアノの音が聞こえる。

 どうやら誰か中にいる様だ。

 

 「よし、入るぞ」

 「良いのか?」

 

 「言っただろ、ここは今日オレが使って良い日なの、それじゃあ失礼しまーす」

 

 防音された分厚いドアを開け、前園に続きに第二ピアノ室へと入る。


 中には古そうなグラウンドピアノが一台だけあり、赤のメガネをかけたマッシュボブの女子が黙々とピアノを弾いていた。

 

 「何だ刹那せつなか……」

 

 前園に刹那と呼ばれた少女はこちらを見ることはない。

 素人の俺にはよくわからないが、難しそうな曲を弾き続けている。

 

 「おーい刹那聞いているか?」


 「刹那ちゃん~愛しの前園さんですよ~こっち向いて」


 しかし刹那さんはやはり鍵盤から目を離さない。


 「ふぅ……仕方ない、()()をやるか」

 

 前園はピアノを弾く刹那さんの後ろに立つと突然肩を抱きしめ、なんと右頬にキスをした。

 

 刹那さんはビクンとして、ようやく演奏が止めた。

 前園はゆっくりと少女の頬から唇を離す。

 

 「……ここまで大胆な事をするとは思っていなかったよ前園さん」


 「声を掛けても応えなかったら、抱きしめてキスをしろって言ったのはお前だろ刹那」


 「このボクがそんなことを言うはずがない」

 「いいや言った。物覚えが悪くなったのか?」

 

 「相変わらず失敬な人だな。仮にボクが言ったとしても、人前でキスをするなんてどうかしているよ。現に君が連れてきたカレは驚いて動けなくなっている」

 

 「緒方はこれくらい気にするほど柔じゃないよ。って……あれ? 緒方? マジで?」

 

 

 ……拝啓

 

 脳内におられます縦ロールの百合百合お姉様(名前はまだない)へ

 

 大変申し訳ないのですが、急ぎのご報告があります。

 

 今日はオレっ娘前園さんの他に、ボクっ娘刹那さんまで現れて全くもってけしからん事に先ほどチューをしておりました。


 女子高生とは日常的にハグやらチューで互いの親密さを確かめるのでしょうか。

 

 ちなみに男子高生の僕が広田や水野と同じことをしろと言われたら嫌すぎて爆発四散します。

 

 それにしても尊いものを拝見させて頂きました。


 森羅万象に感謝いたします。

 

 ブラボー!

      ブラボー!

           ブラボー!


 ……ちょっと理解が追い付かないので、荒波にも負けない岩となります。    

 

 「かわいそうに石になってしまったよ」

 「おい緒方、しっかりしろ!」

 

 「はっ! ここは?」

 

 前園に激しく肩を揺さぶられた俺はようやく現実に戻って来た。

 

 「やぁ初めまして緒方霞君、ボクは一年F組風見刹那(かざみせつな)……そこの前園さんとは……あれ? どんな関係だったかな?」

 

 「友達だろ友達!」

 

 「そうか……ボク等は友達だったのか……でも君とボクは一緒に遊んだことすら無いよ」

 

 「刹那はオレと遊びたかったのか?」

 

 「いや、それは遠慮させてもらうよ……君ときたら昔からマイペースでボクの事なんてこれっぽっちも考えてくれないし」

 

 「お前だけにはマイペースとか言われたくないよ!」

 

 ……珍しい事もあるものだ。


 さくらやリナを手玉に取る前園が、風見さんにペースを握られ翻弄されている。

 

 「よろしく緒方君」

 

 差し出された手を握って握手する。


 先ほどまで鍵盤の上を跳ねていた細く長いその指は、思いのほかひんやりとしていた。

  

 「あ、あぁ……よろしく風見さん、ところで何で俺の名前を知っているの?」

 「君は一年でも指寄りの有名人だからね。あっ……」

 

 「どうかしたの? 風見さん」

 

 「緒方君に触れた女子は強制的に添い寝係にさせられるという噂が……」

 「またろくでもない噂だけど、そんな事はないから」

 

 「本当かい? 気のない素振りを見せてボクをもてあそぶ気では?」

 「ないない。そんな高等テクを持ってないし」

 

 「なら良かった。だけど少し残念でもある」

 「……何が残念なの?」

 

 「いいや……何でもない。しかし君は実に興味深いね。できれば違うカタチで出会いたかったよ。だけどこればかりは仕方ない。以前は僅かばかりだが因果を感じたけど、今のボクと君との間には何もない。だから緒方君、ボクはね……演者でなく一観客として、終幕まで見守ることにするよ」

 

 「あの風見さん? 何を言っているの?」


 「君等と遊戯ゲームを分かち合えない事に嘆いているのさ。でもね……これでボクはようやく秘めた想いを遂げられる。だから残念であると同時に、この状況に感謝しなければならない」

 

 「おい刹那、昼に何を食べた? マジで大丈夫か?」


 「前園さんと違ってボクはカリブ風カニみそクリームパンばかり食べていないよ」

 

 「最近は緒方の愛妻弁当だよ。どうだ良いだろう?」


 「……それは確かに羨ましいが、君はカレにお弁当まで作らせているのか? では前園さんは緒方君のために何をしているんだい?」

 

 「えっ? お、オレは……緒方のために」


 前園の声がどんどん小さくなっていく。

 

 「ただ与えてもらうだけだと、お人良しのカレもいずれ愛想を尽かしてしまうよ。……さて緒方君、逢瀬の邪魔をして悪かったね。後は存分に……いや学生の分をわきまえた上で楽しんでくれ……例え若さゆえの過ちで、なるようになったとしてもボクは祝福するし、変わらぬ友情の証としておむつケーキを送ろう、それでは」

 

 「「なっ……!?」」

 

 こうして前園凛の友人風見刹那は言いたい事を言い尽くして満足したのか、第二ピアノ室から去っていった。

 

 残された俺と前園はしばらく放心状態となった。

 

 ……俺とさくらより酷い慢性厨二病罹患者を見たのは初めてかもしれない。

 

 そう言えば何か言ってたような……『遊戯を分かち合えない』って……


 ダメだ……風見さんの激し過ぎる電波発言のせいで頭が回らない。

お越しいただき誠にありがとうございます。


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