第130羽♡ はじめての夫婦ライフ(#20 誕生日会という名の戦 その4)
「いかがでしょう大叔父、私案ではございますが迷う余地もないかと。ささっご決断を!」
さくらの親戚にあたる男性は自分の意見に自信があるようで、興奮している様子が伺える。
俺TUEEE、カッコいいこと言う俺超絶マジ最高! を地で行ってる感じがする。
ネトゲの世界にはこういう人が極々たまにいて、戦闘中に連携無視で動くから大変だったりするけど、どうやら現実世界にもいるらしい。
しかも有能な赤城家による経営管理という辺りで魅かれたのか、一度は意気消沈した親族一同がまたも活気づいている。
前当主で現赤城家会長の安吾氏は周囲の様子を静かに見守っている。
一度目を瞑った後、ゆっくりと口を開く。
「悪いが私は賛同できない」
「な、なぜです? 大叔父!? この案には何の問題もないはずです!」
「君の提言する小さな経営には赤城家を中核に据えると言った。なぜ赤城家の単独統治に拘る? 我が社には赤城家出身者以外にも優秀な人材が沢山いる。君はそれらの人達を排除するとした。赤城家以外の社員から賛同が得られない」
「大叔父もご存じの通り、赤城家はほぼ全員が高学歴で実務経験も豊富です。赤城家以外の社員を重要ポストから排除した直後は、多少の混乱も考えられますが優秀な一族の力を合わせれば、難なく対処できるでしょう。また赤城家以外の意見など論ずるに値しません。社員は会社の決定に従うのが義務です。つまり我々の決定は絶対なのです!」
さっきは社内アンケート結果がどうとか言ってたのに、今度は赤城家以外の意見はどうでもいいという……さすがに二枚舌過ぎる。それとも大人って皆こうなの?
ガクガク……恐いよマイシスター・リナたん。
(ふむ。よくわからんが、がんばるのだ兄ちゃん、わたしはポテチをもきゅもきゅしながら応援してる。あ、帰りにプリンをよろしく! もきゅもきゅ)
……どこからともなくもきゅもきゅ義妹もどきの幻聴が聞こえる。
めちゃかわいいけど全く役に立たんのだけど。
「高学歴の人間が必ずビジネスで勝つとは限らない。また一族総出でトラブル対応に当たったとしても、必ずしも解決できるとは限らない。現にバブル崩壊後、我が社が危機に瀕した時に会社を支えたのは名もなき一般社員達で、危機に追い込んだのは我々創業者一族だ。これをどう説明する?」
「それは……たまたま運が悪かっただけです。バブル崩壊は世界金融市場の混乱により生じたものであり、我が社は巻き込まれただけです」
「運が悪かったか……確かにそれはある。私は当時、赤城グループではなく大手銀行で働いていたが、世界金融市場の混乱の中でも着実に状況を見極め、資産を増やした人を何人も見た。敗戦理由が運だけと言えるほどビジネスの世界は甘くない。私の様な年寄りの能書きはどうでもいいかもしれないが。そもそも君は訴える相手を間違えているよ。現在の取締役は私ではない。さぁ淳之介取締役、君の意見を聞こうか」
「はい会長、私は彼の提案には反対です。現在でも創業者一族である我々赤城家が独占しているポジションがあります。これらを平等な競争の元、優秀な人材が登用される仕組みに作り変えたいです。ライバル企業では前から当たり前のことです」
「わ、我が社には我が社の風土があります。他社で上手くいったことが、必ずしも我が社のためになるとは限りません。取締役は自身以外の創業者一族を全て排除することで地位を独占しようとしていますね? これは不当行為だ!」
「そうだそうだ!」
「取締役は辞任しろ!」
「淳之介取締役は恥知らずだ!」
根拠のない決めつけの後、罵声がこれでもかと響き渡る。
もう誕生日会どころではない。
今にも動乱が起きそうな雰囲気になっている。
だが……
「お静かに願おうか……本日は父の誕生日だということをお忘れなく、君らが騒ぐと、我が家の使用人達が丹精込めて作った料理が台無しになる。どうしても暴れたいと言うなら本館横にある武道館でお相手するがいかがかな?」
穏やかな淳之介さんがそれまでとは比べ物にならない低い声で語り、最後に獅子の様な鋭い視線で辺りを見据える、辺りから言葉一つ漏れない。
さくらだけでなく、赤城家の人々は全員武道を嗜んでおり、引き絞まった体形をしている。日頃ジョギングすらしてなさそうな親戚一同では、淳之介さんの相手にもならない。
「静まっていただきありがとうございます。さて来月初旬に正式に発表しますが、弊社では新人事制度を導入します。これは創業者一族もそれ以外の社員も同一基準で査定するものです。評価基準は、成績による数値評価、人としての評価、AI導入によるシステム評価などを相対的なバランスを考慮したものとなります。評価対象は取締役の私を含む従業員全員です。皆さんの実力が評価されれば、今より上位ポジションと給与が保証されます。ただ逆に地位にふさわしくないとなれば降格もあり得ます。もちろんわたしも例外ではありません。ご意見があればどうぞ」
これまでのことは全部チャラにして、一から全員平等、同条件で評価しましょう。
RPGなら皆同じ町からLV1でスタートとするってこと? いや違うな……王様でスタートしても最終的には村人Aになる可能性もあるってことか。これはかなりハードに思える。ついていけない人もいるだろう。でも評価制度が正しく機能すれば実力とやる気がある人にはプラスになりそうだ。
「はい、よろしいでしょうか」
「どうぞ」
今度は、髪の長い30代前半くらいの女性が挙手をする。
「取締役は平等を謳い、正しいルールを導入しようとしているようには感じます。ですが一方でご息女であり、まだ高校生のさくらさんをグループ内の重要プロジェクトに参加させています。これは明らかに依怙贔屓であり、これからやろうとしている事に対し矛盾しているのでは? またさくらさんの婚約者になるそちらの少年ですが、最もらしい評価制度は実は隠れ蓑で、将来あなたの地位を彼に譲るつもりなのでは?」
突然さくらと俺に矛先が向けられた。
俺が将来赤城グループの取締役になる?
考えたこともないし想像もつかない。
正直なところなりたいとも思わない。
俺は普通の男子高校生で放課後はカフェレストランでちょっとだけ女装する店員だったりする。困った事にアイドル活動も間近に迫っている。
アイドルのわたしに会社経営なんてできるわけないじゃないですか!
きゅるるん♡ BY 女形カスミン
……なんて
さてどうするかな?
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